アリスのために
この空間にあるものなら使える。神はそう言った。だったら、オレ自身を使っても問題は無いはずだ。
そう結論付けたオレはジッと神を見る。すると神はついさっきしまったと言う表情をしていたのを隠して、静かに目を閉じていた。
けれどもオレはジッと神を見続ける。すると観念したのか、溜息を吐いて神は目を開いて、こちらを見てきた。
「正直に言いますと、ゆうしゃ様にはそのことに気づいてほしくはありませんでした」
「その言いかただと出来る……。そう判断して良いんだよな?」
「はい、ゆうしゃ様の身体を使って、その娘の再生は可能です。ですけど、実際に行うのは初めてのことなので、どうなるかは分からないと言わせていただきます。それにゆうしゃ様の存在の保証も出来かねません」
「要するに、出来るけど失敗する確率のほうが高い可能性がある。そう言ってるんだな?」
オレの言葉に神は何も言わずに、頷いた。
つまり、失敗したらオレもアリスと同じように仲良く死体の仲間入りして、この空間で消滅するってわけか……。
だけどそれで諦めるようなオレではないと、神も理解したのか諦めてオレの返事を待っていた。
いや、多分土壇場で断ってくれることを願っていたりするのかも知れない。何分、ハーレム建築士にさせたいみたいだし……。
そう思いながら、オレはアリスの身体を抱き締めている腕に力を込めた。
そして、その行為が返答を受け取ったらしく。神がオレを見ながら、口を開けた。
「分かりました。でしたら、ゆうしゃ様の身体を使って……この娘の身体を治します。泣き言を言っても途中でやめることは出来ないので、ご了承ください」
「ああ、分かった。それで、オレはジッとしていたら良いのか?」
「そうですね……。何分、生きてる者を使ってのことは初めてなので、どうすれば良いのかよく分かりませんが……とりあえず、その娘とキスしてください」
「…………ほ、ほわっつ?」
えっと、いまこのかみさまなにをいいだしたんですか? きす? きすといいましたか? だれとだれが? おれと、ありすが? え、ええ??
驚きながら、オレはアリスの死体を見る。肌は冷たく……それでいて硬く、ティーガに付けられた傷が所々に目立ち、生きていた頃の温かみが感じられない、そんな死体。だけど、オレは戸惑った。
本当にキスをしても良いのか? いや、死体がイヤだとかそういう訳じゃないんだけど……、でも本当に良いのか??
困惑が心の中で大きくなっていくのが分かる。どうする? どうすれば良い??
「カウントはあと『150』ですから、早くしたほうがいいですよ。ゆうしゃ様?」
「――ッ!! く、くそっ! すまん、アリス!!」
謝りながら、オレは青紫色になった唇に自分の唇を押し付けた。
硬く冷たい唇の感触を感じながら、オレは……、アリスに……キスをした。
口の周りに乾いた血と内容物が付いていたのが、オレの口の中に入り込んだのか薄い鉄錆の味と酸味がしたけれど構わずにキスを続けていると、それを見ながら神は何かを行い始めた。
初めは軽く付けるようにしていたのが、段々と押し付けるようになっていた。
何だか少し恥かしくなってきたけれど、構わずにキスを続けていた瞬間、自分の身体から何かが抜け落ち……アリスへと流れて行く感覚と同時に、のた打ち回りたいほどの痛みがアリスの中から流れ込んでくるのを感じた。
けれど、激痛の中で見える目の前のアリスの身体に徐々に赤みと温もりが戻り始めて行くのが分かった。
そうだ! 戻って来い、戻って来いアリスッ!!
心からそう願いながら、オレはアリスの身体を強く抱き締める。
「――ッ!! ダメ、このままだとどちらもっ!? ――ゆうしゃ様! 今すぐ行為をやめてくださいッ!!」
神が急に焦り出したけれど、そんなことは知ったことじゃない。今はアリスのほうが重要なんだよ!
心でそう叫びながら、オレはアリスを離さなかった。
それを見ていた神が強制的にやめさせようとしたみたいだったけれど、上手く行かないようだ。
そう思っていると、身体が寒くなり始め……頭が何も考えられなくなり始めてきた。
まるでこれが自分の身体じゃないような感じだ……。
神が何かを言ってるけど、良く聞こえない。どうしてだろうかと思ったけど、すぐに理解出来た。
耳が無くなっているからだ……、耳だけじゃなく……オレの体が所々溶けて行く……よく見ると、アリスの身体も溶け始めていた……。
ああ、つまり……失敗、したんだ……。
だから神はやめるように言ってたのか。理由がようやく分かったけど、後の祭りだ……。
やっぱり、無理だったのか……ごめんな……アリ、ス……。
心の中で謝りながら、溶けて行くアリスを見ながら……、オレの体も溶けていった。
そして、その場にはきっとオレとアリスだった成れの果てがあるのだろう……そう思いながら、意識が白くなった。
ちゅうにっぽいって?
ちゅうにぜんかいで書いてるからです。