神の勧める優良物件
驚くオレを他所に神様は勝手にことを進めようとするかのように楽しそうに色々言っていた。
「ゆうしゃ様に今オススメな物件は、人間の国に居るゆうしゃのライトね。彼はイケメンだから、言い寄ってくる女性も多かったりするけど、本命である3人の女性に愛されすぎて困っちゃうってくらいよ。
そ・れ・にぃ、3人の女性はボクっ子ボーイッシュの盗賊ちゃん、お姉ちゃん属性のおっとり系魔法使い、ロリ属性なのに巨乳も持っている僧侶たん。そんな彼女たちだから、きっと夜のお供もばっちりよー!」
「いや、だから、人の話を聞けよ……」
「さあ、ほらほら。早くそんなのを捨てて、ライトに入っちゃいなさいよ。ユー♪」
「――ッ!! そ、そんなのって……あんた神様なのに、何でそんな風に言うんだよっ!!」
まるでアリスを人間で無いと言うような言いかたにカッとなって、オレは目の前の神様へと怒鳴りつけた。
それに対して怒鳴りつけられた神様はどうして自分が怒られたみたいな顔をしてきた……え、なんだよその表情?!
驚くオレに対して、神様は少し考えるような仕草をしてから……ああ、納得みたいに手をポンと叩いた。
「ゆうしゃ様。人間っていうのはね、死んだら人間じゃないんですよ。ただの抜け殻なんですよ。だから、ゆうしゃ様が抱き締めているそれはもう、物でしかありません。お分かりいただけますか? アンダスタン?」
「わ……分かるわけ無いだろっ!! 神様なんだろ、だったらアリスを生き返らせるぐらいのことをしてみせろよっ!! 出来ないって言うつもりなのかよっ!!」
「ええ、神様ですよ。ですけど、神様でも出来ることと出来ないことがあるんですよ。要するに死人を生き返らせることは出来ません。それに、例え生き返ったとしても獣人の国はもう滅びたのですから、あの場所で蘇るなんてすぐに死にますよ」
「……は? 獣人の国が滅びた? どういうことだよ?」
アリスが死ぬ前に見えた光景は、変異したティーガが城へと進んで行く姿と……暗くなった空だったのをオレは思い出しながら、神様に問い掛ける。
神様はまるでそのことに興味は無さそうといった感じに溜息を吐いて、言いたくなさそうだったけれど……ジッと見ていると観念したように語り始めてくれた。
「じゃあ、教えてあげます。ゆうしゃ様の入っていた娘が死んでから、変異した魔族は城へと進んで行って、冒険者及び城に残っていた獣人は全て虐殺されました。これでも必死に抵抗していたみたいですが、アリがゾウに挑むようでしたね。
そして、神殿では魔族の策略によっておっとりな獣人の神が瘴気に汚染されてしまい、獣人の国全土が魔族が好む土地と変質しました。勿論、変質した土地は魔族以外には超有毒ですので、その土地に居た者たちはその殆どはもがくように苦しんでから、徐々に衰弱して息絶えました」
「……サリーとフォードとハスキーさん……神殿に向かった冒険者たちはどうなったんだ?」
「神殿で瘴気を生み出そうとしている魔族を対処しに行った者たちですか? 残念ですが、善戦していたことはしていたんですが、そこを守る魔族の魔法によって全員石にされてしまいました。面白いですよね、あの魔族。だって色んな魔法を使ってすぐに忘れるだなんて」
そう言って、神様はクスクスと笑う。けれど、オレは笑える気分じゃなかった。
サリーたちが石に? どう考えても死んでいるよな……くそっ!
そして、そんな状態でこの神様はオレにイケメンハーレムをさせたいって言うのかよっ!!
胸の奥から苛立ちが湧き上がるのを感じながら、オレは目の前の神を見る。と言うか睨みつける。
けれど神はそんなオレの視線に気づいているのか無視してるのか分からないけれど、早くアリスを捨てて別のゆうしゃに入るようにと急かしていた。
……あれ、と言うか何でこの神は急かしてるんだ? もしかして何かあるのか?
「ほらほら、早くライトの中に入り込んで酒池肉林三昧を楽しみなよー。きっとそこの抜け殻なんてすぐに忘れられるからさー」
「……あんた、何か隠してるだろ?」
「べ、別に隠してませーん。疑い深いともてないよ?」
「そうかよ。だったら、正直に答えてくれるまでオレは梃子でも動かないからな」
「えっ! それは困りま――はっ!!」
そうか、困るのかー。困るんだな? 心からそう思いながら、オレはしまったと言う表情をする神を見る。
すると神は、あー、しまったなあ。あー、しまったなあ。とか言いながら、チラチラとこちらを見てきた。
無視するかと考えたけれど、話を聞かないといけないと考え……仕方なく、何がしまったんだよ。と聞くことにした。
それを聞かれて、待ってましたと言った感じの様子を見せながら神は何処からか鏡を取り出し、オレへと向けてきた。
「ゆうしゃ様。鏡を見てください」
「鏡って、別にオレが映って……ってアリスのままだ、オレの姿」
「ああ、それはゆうしゃ様があまりに平凡すぎる容姿なので、補正として今入っている外見を使っているだけです。それと、容姿ではなく、頭の上を見てください」
「なるほど……って、頭の上? 頭の上って、言われても何もな――あった。カウントが……ってこれ……所謂、有名大作にあるようなアレか?」
「いえ、死の宣告とかではなく、この数字が『0』になるまでにどうにかしないと、ゆうしゃ様の存在はどの世界からも消えるだけです」
「死の宣告よりもひでぇじゃねぇかよ!!」
あっけらかんと言う神に対して、オレは抗議する。その間にも、『600』だったカウントが『599』と段々と減っていった。
熱で頭がヒートアップ。