ゲームオーバー
アリスの中の人(主人公)視点です。
さっきまで俺の部屋を形作っていた場所は真っ暗になって、何も無い暗闇の中でオレは立っていた。
……いや、立っているのか寝ているのかさえも……分からない状態だった。
けれどオレの心の中を満たしているのは、この暗闇への恐怖ではなかった……ただただ、アリスがどうなったかを知りたかった。
最後に見たのは胸を貫かれるアリスの姿だった。だけど、オレは奇跡を信じて呼び掛け続けていた。
「アリスッ! アリス、返事をしろ!! おいっ、聞こえないのかアリスッ!!」
叫び続けて喉が痛いけれど、ここは現実ではないから痛くてガラガラになった喉だとしても大きな声を出すことが出来た。
何十回何百回とオレはアリスに呼びかけるが、アリスからの返事は無かった。
だけど、オレは諦めたくなかった。そんなとき、オレから少し離れた場所から光が見えた。
もしかしてアリスかと望みを託しながら、オレは光が見えた方向に向かうと……古ぼけたテレビが1台置かれているだけだっ――違うッ!
テレビだけかと思ったが、その下にはまるで人形のように捨てられた物があるのに気がついた。けれど、それは人形じゃない。そう心が訴えかけて、オレは急かされるようにテレビの前へと走り寄った。
そして、直感は正しかったらしく、捨てられていた物は人形じゃなかった。捨てられていた物は……アリスだった。
「何で、ここに……? って、そんなことを考えてる場合じゃないっ!! アリスッ、おいアリス!!」
オレはアリスを抱き締めて、力の限り揺すった。けれどその身体は硬くなっており……千切れそうになっている腕がぷらぷらと動くだけだった。
そして、そして……アリスの身体は生きてる人間の温かさを持っていなかった。死んでる。
死んでいるんだ……そう思った瞬間、オレの目から涙が零れ落ち……無意識にアリスの死体を抱き締めていた。
オレがコイツを選んだからか? コイツを選んでしまったから、こんな風に死んでしまったのか?!
悔やんでも悔やみきれない後悔がオレの胸を苛む中で、薄ぼんやりとした光放たれるテレビを見た。そこには……ある一文だけ書かれていた。
そう、『GAME OVER』という一文だけが。
「ゲーム、オーバー……? ふざっけんなっ! これはゲームじゃないんだろ!? アリスは生きていた、この世界は生きてるんだろ!! だったら、この一文だけで終わりにしようとするなよ!!」
『そうですか、だったら……貴方はどうしたいんですか?』
「え?」
不意にテレビから声が聞こえ、テレビの画面を見ると一文が消えて……見覚えが無い女性が井戸から――ごめん、井戸は嘘。井戸からは現れていないから、女性が画面に映っていてオレは呆気に取られた。
そして、手には『GAME OVER』の文字が書かれた文字パネルが……。え、あれって画面じゃなかったのかよっ!?
けど、この文字パネル……何処かで見たような?
そう思っていると、画面の女性がテレビの縁に手を掴むと……這い出るようにして顔をひょっこりとこちらに突き出してきた。
画面の演出なのかと思ったら、テレビにぶつかること無く、女性は顔をこちらへと出して、さらに身体と……最終的に全身をこちらへと出してきた。
若い男性にとって目に毒な感じの薄い布で出来たローブのような物を纏った、金色の髪をした女性がオレへと笑いかけてきた。
「この姿で会うのは初めてですね、ゆうしゃ様。初めまして、人間の神です」
「……え? か、神?」
「んー、ゆうしゃ様の世界風に言うなら……あ、こうですね。ドーモ、ユウシャ=サン、ニンゲンノ=カミデス」
「いやいやいや、何処の世界風っ!? オレの世界にリアルニンジャなんて居ないからなっ!!」
「違いましたか? では……」
「いえ、貴女が神様だって言うのは、何ていうか今ので分かりました。分かりましたから、これ以上残念にならないでください」
「残念って、酷い言い草ですね。ゆうしゃ様。神様怒っちゃいますよ、プーーッ!」
妙にオタクチックな言動を言ってたけど、あんな文字パネルで色々問い掛けてくるような神様だ。
つまり、目の前の女性はオレをこの世界……いや、アリスの中に入れた神様と見るべきだな。あと、何かイラッと来るからあまり見ないようにしよう。
そう思いながら、オレは疑問を抱いた。何で、そんな神様がオレの前に現れたんだ?
いや、ゲームオーバーになったからとか言う理由だろうけど……。
とか思っていると、神様は本題に入るらしく、コホンと咳をひとつした。
そして、本題はオレにとって衝撃的だった。
「さて、それじゃあ、ゆうしゃ様。別の人間のゆうしゃに入り直しましょうか。折角ゆうしゃ様が選んだ人間でしたが死んでしまいましたしね」
「……は、はいぃぃ!?」
いきなりのわけの分からない発言にオレは間抜け染みた声を出しながらも、アリスの死体を強く抱き締めた。
残念な神さま登場。