神殿内へ
「くそっ! どうなってるんだこれっ!!」
「おい、さっきのはいけるか?」
「ああ、やってやるよっ! くらえっ、<グランドブレイク>!!」
神殿への扉を前にして、冒険者たちは四苦八苦していました。
……理由は簡単です。【叡智】のクロウが何の魔法を使ったのかは分かりませんが、扉がうんともすんとも動かないのです。
ある冒険者は扉のノブを引いたり押したりするも、ピッタリとくっついたように動きません。
ある冒険者は蹴破ろうとしているのか、全力の蹴りを放っていますが……効果がありません。
ある冒険者は斧や剣を使って扉を破壊しようとしますが……ビクともしません。
ある冒険者は先程石畳を揺らしたスキルを使って扉を破壊しようとしているようでしたが……それでも扉は壊れません。
まるで、そこにあるのにそこには無い。そんな感じになっていました。
「……サリー、これはどういう状態か分かりますか?」
「いえ、分かりません……ただ、やっぱり【叡智】のクロウが何かの魔法を掛けて行ったと見るのが打倒ですよね」
「では……どうしましょうか?」
悩むハスキー叔父さんと一緒にワタシも悩みますが、いい答えが見つかりません。
そして、痺れを切らしたフォード君が突然大声を上げました。
「あ~~っ!! くそっ、いい加減開けよこの扉がっ!! というか、斬る。斬ってやる!!」
「はぁ……って、フォード君何しようとしてるんですかっ!?」
「一番強い武器で斬れるかって試そうとしてるんですよ、サリーさん!! てりゃっ!! ――は?」
「「――は?」」
フォード君は冒険者のカバンから取り出した、師匠から受け取った剣を握り締めて扉に向かって斬り込みました。
周りは意味が無いだろうなと諦めムードでしたが、剣は……スッとチーズを斬るように扉へと突き刺さりました。
それを見た周りの冒険者たちからは間抜け染みた声が口から洩れているのが聞こえます。
目を点にしながら、フォード君は剣を引き抜くと冒険者たちを見ました。…………し、師匠。あなたはなんて言う物をフォード君に渡したんですか……!?
「お、おいっ。小僧、その武器――」
「フォードくん。とりあえず、とっととその剣で扉を斬ってください。皆さん、この剣のことは色々追求しないで上げてください」
「……ギルドマスターがそう言うなら、仕方ねぇ……おら、早く叩き斬れっ!」
「は、はいぃっ!!」
半ば脅されるような形でフォード君は扉へと剣を振り、ワタシたちが通れる大きさへと扉を斬り崩していきます。
……そういえば、師匠が作ったあの剣って元はアダマンタートルとオリハルコンタートルの甲羅を使っているんでしたよね。そして、その2体のタートルモンスターは魔法も効かないとか効きにくいという話でしたよね。
……つまりは魔法に対する抵抗が高いってことですよね? だから、それで作られた武器や防具は魔法を使う者にとって最大の脅威になるんじゃないでしょうか?
そんなことを考えながら、ワタシは切り開かれた神殿の扉を皆さんに続いて潜りました。
神殿の中は、広い空間の真ん中に御神体が収められた高台があるという造りになっていて、【叡智】のクロウは高台の上に立っていました。
そして、その表情は驚きを露わにしていました。こんなにも簡単にワタシたちが入ってくるとは予想していなかったといった感じですね。
「お前たち、どうやって中に入れたのである!!? 我輩が扉に掛けた魔法はこの儀式が完成するまで解けないはずだったのである!! 絶望を感じさせながら、死んで行くというのを味あわせようとしていたのが台無しである!!」
「どうやって入ったかですか? しいて言うなら……入口から入ったと言わせていただきましょう」
「むむっ!! 本当である!! 扉が斬られているのである!!? 『対象を我輩が知る最高の硬さに作り変える』と言う覚えたての魔法を使って、アダマンタートルと同じ硬度にした扉が綺麗に斬られているのである!! ちなみにその魔法はもう忘れているのである!!」
「そうですか、だったらそれ以上に硬い硬度の材質があったと言うことですね」
驚愕する【叡智】のクロウへと、ハスキー叔父さんがそう言うと冒険者の皆さんとともに高台目指して歩き出します。
多分、トラップマジックも忘れてしまっているので大丈夫なのでしょう。
正直……ワタシたちの力で高台から見下ろす【叡智】のクロウを倒すことが出来るのかと言う不安があります。ですが、やるしかないんです!
お母さん、ワタシに力を貸してください。そして師匠、見ていてください……ワタシたちは絶対に勝ちます……!!
心の中でそう思いながら、ワタシは手に握り締めた2本の短剣を力強く握り締めました。
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「そん…………な……」
「ふはははは、弱いのである!! 弱いのである!! 初めに驚愕していたのが嘘のようである!!」
【叡智】のクロウの高笑いを聞きながら、ワタシは握り締めていた短剣を地面へと落としてしまいました。
震えるワタシの目の前には、これまで一緒に居た冒険者たちの石像が様々な仕草で並んでおり……、ワタシを庇うようにしてハスキー叔父さんが立っていました。
温かかった叔父さんの身体が徐々に石に変わって行くのをワタシは見ていることしか出来ません。隣を見ると、フォード君も腕が石になっていて……徐々に侵食しているのが見えました。
そして、ワタシも足の感覚が無いのに気づいて、下を見ると足が石に変わり始めているのに気づきました。
「油断してしまい……ましたね……。すみません、サリー、フォードくんあなたたちを巻き込んでしまって……」
「おじ、さん……。いえ、ワタシたちが弱かったばかりに……せめて、せめて師匠が居てくれなたら――いえ、それは言い訳に過ぎませんよね」
「すいません、サリーさん。俺、俺……」
「謝らないでください、フォード君。ワタシも同じですから……、けど……悔しいですね」
既に動かなくなったハスキー叔父さんを見ながら、徐々に石になって行く感覚を感じつつ……ワタシは心の底から悔しさが込み上げます。
何でワタシはこんなにも弱いのだろう、もっともっと強くなりたかった。師匠のように強く……そうすれば、師匠は死ななくて済んだはずなのに……。
ああ、本当に……くやしい……な…………。
そう心から思いながら、ワタシの意識は……途絶えました。
何が起きたかは、後で語ります。