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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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見ていることしか出来ない

 その光景は師匠を中心に映されるようになったのを見ると、この時点で【叡智】のクロウは師匠に興味を抱いたと見るべきでしょうか。

 そう思いながら見ていると、師匠は何時の間にか武器を取り出し……いえ、周りは分からないと思いますが……きっと≪創製≫で作り出したんでしょう。

 武器を作っている最中だったから、油断していたのでしょうか……大型のモンスターが師匠に接近するのが見えます。

 ですが、ギリギリの辺りで回避をして、そのまま武器を構えているのが見えます。透き通るような透明な弓、そこから何時の間に矢を番えていたのか分かりませんが……赤色の矢が放たれるのが見えました。

 その赤い矢が迫り来るモンスターに命中した途端、モンスターを飲み込むように火球が生まれていました。


「え、何あれ?」

「凄いのである!! この娘は魔力を凝縮させたものを、グランドタイガーに撃ち出したのである!! これを見て、我輩は益々興味を持ったのである!! 更に見よ!!」


 丁寧に解説をしてくれる【叡智】のクロウは、きっと攻撃されないのを理解してるからそう言ってるのでしょうか……。そう思うと悔しく思いますが、何も出来ないのは当たってるので何も言えません。

 そして、次に師匠は無数の光る矢を冒険者に向けて撃ち出すのが見えました。え、まさか……師匠、何をっ!?

 いきなり弓を向けられた冒険者たちもきっと溜まったものではないだろうと思いつつ、師匠の奇行に驚くワタシでしたが師匠の放った矢は冒険者たちに突き刺さるのが見えました。

 けれど、次の瞬間……冒険者たちに≪回復≫が掛かり、目に見えているような傷が治って行くのが見えました。もしかして、あの無数に跳んでいった光る矢が全部≪回復≫の魔法なんですか!?

 驚いているのはワタシだけではなく周りの人たちも同じようで、食い入るように水の幕を見続けます。


「通常の≪回復≫はどれほどの威力を持っているかは分からぬが、この魔法はわざと散らばらせて放っているように見えるのである!! これほどの魔法の才は我輩の弟子なんて目じゃないというレベルである!!」

「じゃあ、師匠が居たら王都なんてすぐに……」


 そう期待しながら、ワタシは呟きます。その声が聞こえたらしい【叡智】のクロウは残念そうに首を振りました。

 本当に、残念そうに……。


「残念である。本当に残念である!! 生きていたならば、我輩はあの娘と戦ってみたかったと思うのである!!」

「え……? いき、て……? どういう、こと……ですか?」

「つまりはこういうことである!!」


 震えるワタシの声に応えるように【叡智】のクロウは水の幕に映る光景を違うものへと変えました。

 倒壊した街並みの中、師匠と魔族が戦っています。きっとこの魔族は……【破壊】のティーガなのかも知れません。

 何度も師匠が矢の形にした魔法を撃ち出していますが、そのどれもが【破壊】のティーガへの決定打になっている様子がありません。

 どうしてかと思いつつ見ていると、【叡智】のクロウが【破壊】のティーガは魔法無効化体質だと声高らかに言いました。

 話で聞いたことしかないレアな体質をしているのが水の幕に映っている魔族。魔法は一切効果が無いと考えれば普通なのに、師匠は諦めずに何度も魔法を撃ち続けています。

 魔法が一切効かないなら物理で責めれば良いのではと思いながら見ていると、ついに師匠が【破壊】のティーガに捕まり……地面へと叩き付けられました。


「――っっ!!」

「アリスッ!?」

「あの娘はアリスと言う名前であったか!! 仲間が居たというのならばこの続きを見るのである!!」


 【叡智】のクロウの声が遠くに感じながら、ワタシは食い入るように師匠を見続けます。

 師匠は何度も地面に叩き付けられて、頭から血が垂れていて……それでも、武器を手放していませんでした。

 師匠、師匠師匠! 誰か師匠を助けてくださいっ!! そう心から願っていると、震える手で師匠は弓を【破壊】のティーガに向けて構えるのが見えました。

 次の瞬間、【破壊】のティーガが震えだし……師匠を手放すとともに、爆散しました。

 いったい何が起こったのかと信じられないワタシ……いえ、これを見ていたワタシたち全員にご丁寧に【叡智】のクロウは説明してくれました。純粋な魔力だけを体内にぶつけて、爆発させたのだと。


「だったら、だったら……【破壊】のティーガを倒したのに王都が燃え広がっているんだよっ!?」


 誰かが問い質すように叫ぶのが聞こえました。

 すると、水の幕に映る光景で……何かが師匠を殴り飛ばしているのが見えました。

 スライムのようでスライムではない……見たことも無い、血が集まったような赤黒いモンスター。

 それが師匠を殴り飛ばした先に、触手を放ち――吊り上げるように師匠を持ち上げました。


「この力は魔王様が我輩たちにくださった最後の力である!! ティーガは最後の力を使い、このアリスとか言う娘を殺すことを選んだのである!!」


 友を亡くすことを哀れむように【叡智】のクロウは叫びます。ですが、その声はワタシの耳には届きません。全てを視力に注いで……食い入るように水の幕を見続けているのですから。

 師匠の柔らかくてスベスベとしていた腕に触手が巻きつき、片腕を粉砕し……もう片腕を捻れるはずが無い方向まで捻っていきます。師匠が叫び声を上げているであろう顔が見えます。

 師匠の煌びやかで綺麗な金髪が乱暴に掴み上げられ、細い足を触手が貫き……無理矢理伸ばして行きます。

 気絶した師匠を叩き起こすように腹を殴りつけて、口から血とともに胃の物を吐き出すのが見えます。

 それだけでも、拷問にしか見えません。その光景を見続けながら、ワタシは震えるように口から声を漏らします。


「いや、いや……やめて、やめてください……師匠、ししょう…………」


 声が震える。けれど、目の前の光景は動き続けます。

 ボロボロになった師匠へと、鋭い触手が向けられ……師匠の胸を、貫きました。


「い、いやああああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

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