クレムモンテ 35%
勇輝、沙羅、絵里、遥香、久し振りに4人で駅に向かっている。
「良いなあ〜、イデミスギノのケーキ食べたんだ」
遥香は空腹のお腹に手を置きながら羨ましがった。
遥香、イデミスギノのケーキをお腹を満たすためには食べないでくれ。
沙羅はメールしている。
「本当にそう思う、なんで課長がケーキを買ってくれたか知らないからだよ」
絵里が視線で勇輝を撫でながら遥香を見る。
「ああ、そういう事」
遥香も察したらしい。
「え、どういう事」
勇輝も気付いているらしく気まずそうだ。沙羅がふと視線を上げる。
その様子を気にしていた勇輝と絵里と目が合う。そして、再び携帯に視線を落とす。
勇輝が唐突に聞く
「遥香は誠と何して遊んでるの?」
遥香は勇輝の方を一瞬見て恥ずかしそうに
「え〜、どこにも行ってないよぉ。晩御飯食べに行ったりとかぁ」
遥香は質問をされて嬉しそうだ。もっと聞いて欲しそうなオーラを出している。
しかし、絵里が勇輝を「キッ」と睨む。勇輝は慌てて会話を変えようとする。
「えっとぉ、誠はまだ仕事かなぁ」
全く会話の方向性は変わらない。
絵里、それが出来る男ならとっくに可愛い彼女が隣にいるよ。
君の優しさに気付けなかった僕が
大人になれるでしょうか?
方向が違う沙羅と絵里と別れ、遥香と電車に乗った。
「誠は優しい?」
「うん」
精一杯の恋する可愛い顔で返事をした。しかし、心の歪んだ勇輝は「俺は遥香は無いなぁ」と、馬鹿な事を考えていた。
後にこの時期の勇輝を振り返ってみると、人に恵まれていたという事が解る。
それは勇輝も周りの人間も解っている。この時期の周りの人間により勇輝の心は少し美しくなった。
しかし、勇輝が人を信じれる様になるのはまだもう少し先の話だ。
遥香と乗り換えの駅で別れ携帯を見るとメールが来ていた
[隆史さん、1人で行くことになりました]
勇輝は何とも言えない微妙な表情をした。沙羅が行かないのは階段を3段飛ばして登る程嬉しい。しかし、沙羅の哀しい顔を思うと、その一段さえ脚が重い。
この頃に子供の頃、普通に持っていた優しさを取り戻して行っているのだろう。
高校時代、劣等感・敗北感から来る虚勢・背伸び。
これらが勇輝から優しさを失わせて行った。
しかし、優しさ失う事により強さを少しづつ身につけ、背伸びした自分に身の丈が追い付き、敗北感を少しだけ受け入れたのだろう。
まだまだ小さい男だが、社会に出で少しは成長した様である。
まあ、周りに比べればまだまだ子供だが。
沙羅や絵里に言わせれば、まだ小学生だ。
勇輝は言葉を選びながらメールを打ったが、全部消して簡単な内容を打ち直した。
[それが良い事なのか、悪い事なのか俺には解らないけど、憂さ晴らしには幾らでも付き合うよ]
直ぐに返信は来た
[ありがとう]
そしてもう一件
[取り敢えずラーメン、そして焼肉、カラオケ、、、、、、まだまだ考える]
[笑]
勇輝は簡単に返信して最寄駅の改札を出て自転車で家路に着いた。
あの時ついた嘘を優しさと今はまだ思えないけど
沙羅は無口に荷物を作っていた。隆史さんの家に数年の思い出と荷物がたまっている。
「合鍵送るから」
「、うん、、」
「・・・・・なあ、、、何でもない」
「・・・・うん」
会話が上手く成り立たない。
自分の荷物を片付け終わった沙羅は隆史さんの荷物の片付けを手伝っている。
「なあ、好きだよ」
「うん、、、」
沙羅はついに泣き出した、、、。隆史さんは黙って見ている。
やはり、沙羅が言って欲しい言葉は言ってもらえない。
<付いて来い。別れよう。月に一度は逢いに来るから>分かり易い言葉は色々有る。
数年後もこの時の隆史さんの気持ちは沙羅には解らなかったし理解も出来なかった。
荷物が出て行った部屋を2人で後にし、空港に向かう。駅に向かう途中の馴染みのお店が寂しく見える。もう二度と食べる事の無い豚カツやラーメン。
改札を入りホームで電車を待つ。ここで電車を待つのも最後だ。
この景色はいつまで覚えているだろう。
2人で電車に乗りもう二度と訪れないこの時間を噛み締めていた。
別れ際に隆史さんは
「誰よりも沙羅が必要だから」
沙羅はどこか他人事のように聞いていた。