ネトワイエ ラボラトワール
いつか空の飛び方を知りたいたいと思う者は、 まず最初に立ち上がり、歩き、走り、よじのぼり、踊ることを学ばなければならない。その過程なくして、飛ぶことはできないのだ。
ニーチェ
ショコラショーとグアヤキル、その組み合わせは無理だぞ勇輝。
糖分病の勇輝はアグレッシブな注文だ。
ケーキを食べながら、今日の報告を絵里と沙羅にしている。
「ぜんぜんダメダメじゃん勇輝」
絵里が「もっと頑張れよ」とばかりに呆れ顔だ。
「そんな事言われても。課長の反応が想定外だったんだもん」
「えっ、想定外って」
沙羅がケーキをサッサと食べ終えて話に食らいつく。
「ちょっと、待って下さい。私が理由を説明します」
一美(石井さん)が課長の反応の意味を話す。
「絵里さんは知ってると思いますが、、、私、昔課長にアプローチされていた時期が有ったんです。課長の反応が勇輝さんの想定外だったのはそのせいだと思います。。。勇輝さんは頑張ってましたよ」
一美は最後に勇輝をフォローするのも忘れずに簡単に説明をした。
「ええええ、課長っ!そういう人だったんだね。知らなかったぁ」
勇輝はキツすぎる糖分と戦いながら、会話に参加している。
「勇輝は男子だから知らないかもね。沙羅や私も軽くは誘われてるよ。それで反応がある子にアプローチしてるんじゃない」
絵里はボンボンショコラを追加している。
「絵里と私は課長に全く興味が無かったからねぇ」
沙羅はメニューを再び開いている。
「まあ、上手く行って良かったよ。私の作戦が良かったね」
絵里は一美にもケーキの追加を勧めている。
「お役に立てて良かったです」
ケーキの追加を終えて紅茶を飲む一美。
「選択に失敗して2個目が食べれない」
勇輝はとても悔しそうだ。
ケーキを食べて満足の4人はウインドウショッピングを楽しみながら楽しく会話をしている。
勇輝にとっては沙羅との大切な時間。
絵里にとっても大切な仲間との大切な時間。
一美にとっては、、、。
勇輝は気付いてるのか?沙羅ばかり見てないか⁈
「勇輝、私達は帰るから。今日のお礼として一美に晩御飯でお好み焼きでも食べさせてあげな」
絵里はやり手だ。まず、気が利かない勇輝に晩御飯を一緒に食べる選択肢を持たせる。
一美の為に勇輝と2人きりの時間を作る。
お金の無い勇輝にお好み焼きと比較的計算しやすい食べ物を選ぶところ。
「ちょっと、2人きりで?本気?」
おい、一美に失礼だ勇輝。
「私達はランチしたけど、一美はランチもせずに勇輝に付き合ってたんだよ。何も食べさせずに帰すつもり?」
絵里は反論出来ない様な言い方をする。
「私、お礼なんて大丈夫ですよ」
一美が遠慮している。いや、これが女性の演技なのだろう。。。たぶん。
「ほらぁ〜、一美ちゃんが遠慮してるでしょ。勇輝、男らしく行って来なさい」
沙羅にまで言われたらもうどうしようもない。
「お好み焼きでいい?か、一美さん」
頑張って名前で呼んでみる。
「勇輝、せめて一美ちゃんで行ってみようか」
沙羅が後押しする。
「一美ちゃんって呼んでもいいの?」
いちいち聞くな勇輝。
「大丈夫です。一美って呼び捨てでも良いですよ」
一美は勇輝の目をみて言っている。その視線を外しながら
「じゃあ、一美ちゃん。お好み焼きに行こう」
勇輝は一美の気持ちに気付いて無いのか?
そんな事は無いと思う。「もしかしてこの子は自分の事を好きなのかも」と少しは思っていると思う。だが「違ったら恥ずかしい」「そんな事は無いだろう」「まさか自分なんかを好きなんて事は無いだろう」
ネガティブな感情の方が勝ってしまう。
要するに根暗なのだ。
沙羅と絵里が帰って行くのを見送る勇輝。
それを何か考えながら一美は見ている。
「後楽園の金太郎ってお店が好きなんだけど、そこでいい?新宿でお店探す?」
「勇輝さんの好きなお店で大丈夫です。あっ、後楽園なら遊園地も有るからそれも楽しいですね」
「俺、高い所は苦手だよ」
「そこは我慢して下さい」
一美は笑いながらも勇輝の袖を摘んで駅の方へ歩き出した。
もちろん、勇輝はまだ高い所でも無いのにドキドキしていた。
水道橋駅を出て交差点を渡るとスグにパラシュートが有る。
「後楽園と言ったらパラシュートですよね」
一美は悪戯っぽく勇輝を見ている。
ここは格好をつけて乗るしかない。
「乗りたいの?行く?」
「良いんですか。やったぁ〜」
時間が遅いからか、あまり並ばずに勇輝達の順番がやってきた。
勇輝は少し無口になっている。
籠に乗って扉が閉じられた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。遠くを見る様にするから」
半笑いの勇輝だ。
籠が上にスルスルっと上がって行く。
勇輝は手摺を強く握りしめている。
それを見つめていた一美は勇輝の腕を掴んで
「掴まったても良いですか?」
上目遣いで聞いている
「うん。。」
自分の事で精一杯だが、少し気が紛れた。
「スカイツリーが見えるね」
「本当だ綺麗ですね。昇った事ありますか?」
と、質問した瞬間パラシュートは下に落ち出した。
「キャッ‼︎」
そう言うと同時に勇輝の腕に抱きついた。
勇輝は驚いて、パラシュートが落ちて行く恐怖が吹っ飛んだ。「えっ?どういう事?」
女子の計算有る行動なのか、計算の無い純粋な想いなのか、ただ怖いだけなのか。
下に着くと勇輝の腕を掴んだまま身体を離した。
「怖いかったで、、、きゃあ‼︎」
一美が言い終わる前に籠が再び上昇した。
そう、2回落ちる設定なのだ。
不意を突かれた一美は勇輝の身体に抱きつく迄はいかないが身体を密着させた。
思わぬ距離に2人はドキドキしている。スカイツリーは見えていない。いや、見ていない。
一美の顔が勇輝の目の前に有る。一瞬の沈黙。勇輝の目を見つめる一美。今度は視線から逃れる事は出来ない。
次の瞬間、籠は一気に落下した。2人共、目をそらす事は無く籠は下に着いた。
係の人が扉を開けて2人は籠から降り歩き出した。
しばらく無言の2人。周りには子供達が走り回っている。一美はもどかしい気持ちで勇輝の袖をもう一度掴んだ。
しかし、沈黙に耐えれなかった勇輝は
「ウォータースライダー好きなんだ。あれ乗ろうよ」
「私も好きですよ。乗りましょう」
一美は少し「そうじゃない」と顔に書いて有るが、勇輝が本当に好きそうなので笑顔で答えた。
チケットを買い船(?)に乗り込むと2人は自然と密着した。
そう、さっき一美と密着した事によって勇輝はもう一度引っ付く方法探していたのだ。
船が動き出し、2人はしばらく無言でいた。
坂を登りだすと一美が話し出した。
「勇輝さんは彼女いるんですか?」
「いないよ」
2人共に感情を、感じさせない喋り方だ。
ただ、お互いにドキドキは伝わってくる。
「好きな人はいますか?」
「いないよ」
「私、勇輝さんは沙羅さんが好きなんだと思ってました」
「えっ⁈違うよ」
「今日皆さんを見ていて、最初はその思いが確信に変わっていきました」
「それは勘違いだよ。俺達は本当に仲が良いだけだよ」
「ですよね、最後の方で理解しました。姉妹みたいな関係なんだなって」
「いや、兄弟でお願いします」
一美は少し笑った。ただ、勇輝が期待した程の身体の密着は無かった。一美もこのアトラクションではなかなか難しかった様だ。
一美は観覧車にも乗りたいと提案したが、時間を気にし過ぎて空気を読み切れない勇輝はお好み焼き屋へ行くと言い出した。
「解りました。今度付き合って下さいね」
次回の約束をする事で一美は納得した。
「勇輝、一美ちゃんの気持ちにちゃんと気付いてるかなぁ」
「どうだろうねぇ。一美が我慢出来ずに告白でもしてくれた方が早い気がする」
「一美ちゃん、大人しそうだからね」
「そんな事無いよ。あの子は結構キツイ所はキツイよ。案外、自分から攻めちゃうかもね」
「良い子ならそれでいいよ。絵里も良い子だから勧めたんでしょ」
「うーん、でも私もよく知ってるワケじゃ無いけどね」
「えっ、そうなの」
「まあ、悪い子じゃ無いと思うよ」
「勇輝が幸せになってくれたらそれで良いよ」
「そうだね」
2人は心から勇輝の事を好きなのだろう。
勇輝と一美はお好み焼き屋の前で相談していた。
「昔、よく来てたんだけど駅前に移転してたんだ」
「違う場所に有ったんですか。移転後初ですね」
「ところで、石、、、一美ちゃんはお腹空いてるの?」
「実はあんまり空いてないです」
「だよね、俺もなんだ。どこかで軽く済ませる?」
「近くで良い所知ってますか?」
「春日通り沿いにFOUFAUってワインバーが有るからそこにする?俺は飲めないけど」
「酔ったら責任持って介抱して下さいね」
何だか良い感じの2人で有る。
店に入ると勇輝は店員を探す。
「支配人は?」
サービスマンに話かけると
「先月いっぱいで辞めちゃったんですよ」
「そうなんですか。残念です。やっと顔を覚えてもらったのに」
FOUGAUはお酒の飲めない勇輝が、やっとの事で顔馴染みになったと思ったオシャレなお店だった。
席に着いて料理の注文を済ませ、一美はシャンパン、勇輝はジンジャエールで乾杯した。
「何に乾杯なんだろうね」
つまらない事を言ったなと思いながら「この後の会話は何を話せば良いんだろう」と悩んでいた。
「お洒落なお店を知ってるんですね」
「お洒落ってさっき行こうとしてたお店はお好み焼き屋さんだよ」
勇輝は少し笑いながら話しを続ける
「あまり量は食べれないけど、美味しい物を食べるのが好きなんだ」
「そう言えば絵里さんが言ってました。勇輝はケーキ屋さん詳しいって」
「甘い物は1番好きだね。フランス料理もお寿司も大好きだよ」
「わあ、今度美味しいフレンチ連れて行って下さい」
「今月はもうお金が厳しいからまた今度ね」
おい勇輝、せっかく次のデートの約束をするチャンスを貰ったのに、何て事をするんだ。
良い雰囲気で過ごす2人は側から見れば恋人に見える。
ダウンライトに照らされた一美は昼間より大人っぽい。
シャンパン、白ワイン、赤ワインと3杯飲んだ一美は少し酔いが回って来ている。
「次は、、、は、、、、何を頼も、、、う、かなぁ」
「一美ちゃん、酔ってきてるからそろそろ止めとこうか」
「大丈夫です。酔ったら勇輝さんが責任持って介抱してくれる約束ですから」
「俺、一美ちゃんの家がどこか知らないよぉ」
スマートなサービスマンがお勧めの梅酒を一美に持って来る。いつの間にか注文していたらしい。
「ゆ、、勇輝さ、んは、、、好きな人いるんですか?」
何故か最後の「好きな人いるんですか?」は詰まらずに言えていた事に勇輝は気づいてないが、
「いないよぉ。一美ちゃんはいるの?」
「いますよ、、鈍感な人で、、、人にお願いして仲良くして貰おうとしたら、、、会ってくれなくて。。。、、、いざ会って、、アプローチしても、全然気付いてくれなくて」
「そうなんだ、一美ちゃんみたいな可愛い子に好かれるなんて幸せな事なのに、気付かない人は本当に鈍感なんだね」
勇輝は終電を気にして時計を見ていた。勿論、一美の為である。
後ろではサービスマン達がクスクスと笑っている。
一美は梅酒のロックを半分まで一気に飲んだ。周りから見ればヤケになって飲んでいるのが解る。
しかし、勇輝には伝わらない。
いやさっきも言ったが、そう感じていても勇輝は自信が無いのだ。「もしかしたら勘違いかもしれない」と常に考えてしまう。
「勇輝さん、、、本当ぉーに、、、あぁ、もう、、、」
そう言いながら一美は机に踞ってしまう?
「大丈夫?、、すみませーん、お水頂けますか」
「本当にもお」
一美はやや怒っている。
「家まで送るから。何駅?」
「もお、、、本当に鈍感!やだ!」
「終電、調べるから教えて。ちかいの?」
「やだ、今日は勇輝さんの家に行く」
「はい⁉︎何言ってるの」
後ろでは我慢出来なくなったサービスマン達が大笑いしている。




