テ ウ カフェ
朝から仕事が忙しく、遥香に謝るチャンスが無い。
沙羅は暗くずっと下を見て仕事をしている。
絵里は時々目が合うが、何時もと何か感じが違い、目が合った後はぎこちなく目を反らす。
遥香は何となく目を合わせ辛く、、、時々視界の隅に入るが、比較的元気に見える。
もうすぐお昼だ、誰とも喋っていない。「なんだ?この仕事量は?今日は帰れるのか?」
「勇輝、頼んでた仕事だが今日までに仕上げてくれ。明日の朝の会議に必要になった」
課長が新しい仕事の依頼。勇輝は普段ならイライラしそうだが、今日は沙羅と遥香ぎ気になってそれどころでは無い。
「は、はいっ」
なんなんだ?今日は凄い追われている。携帯のバイブが呼んでいる。
<今日、時間取れなそうだね。明日にしようか>
絵里からだ。
<お昼時間なら時間取れるけど、どう?>
勇輝は何とか2人と話したい。このまま帰っては今夜も精神がヤバイ気がする。
<お昼に話したい話では無いなぁ。明日にしよう>
気になる言い方だ。
<解った。明日にするよ。ところで仕事を手伝ってくれない。終わる気がし無い>
<手伝いたいんだけど、課長から仕事を頼まれていて。。。勇輝ほどでは無いけど、結構仕事が有るんだ。今日は従業員食堂決定だわ>
<そうか、じゃあお互いに頑張ろう>
時計を見るとあと5分で休憩時間だ。
勇輝は仕事を進めながら「お昼ご飯無しでも良いかも」と考えながら仕事をこなしていく。
周りがゾロゾロとお昼に出て行く。「他の人間は忙しく無いのか?」と頭で思うがそれどころでも無い。
忙しく仕事をこなしていたが、飲み物位買いに行こうと顔を上げると、そこには遥香の姿が合った。いや、目の前にいる訳では無いのだがそこにいる事に驚いたのだ。
疲れているのか、机に突っ伏して寝ている。昨夜、終電終了後に追い出した自分としては心苦しい。「帰って無いのかなぁ」昨夜と同じ服装だが、昨夜の服装を覚えて無いのは昨日の精神状態のせいでは無いだろう。もともとがそういう人間だ。
何か自分だけが席を立つのも悪い気がして勇輝はそのまま仕事を続けた。
もちろん、勇輝のせいで疲れているのも有るが、大部分が誠とのデートと誠との昨夜の事である。
そんな事は勇輝には解る筈がない。
定時の時間が近付き、やはり仕事は全く終わらない。周りは片付けている人間もいる。「仕事は平等に割り振られているのか」そんな疑問も頭をよぎるが「自分の要領が悪いのか」とも考えて諦めていた。
定時で遥香は帰ってしまった。結局謝れなかった。「後でメールをしておこう」と諦めて仕事を続ける。
沙羅と絵里も30分位の残業で終わった様だ。勇輝の机にペットボトルのお茶を置いて。
「勇輝、明日ね。今日はちょっと疲れてるから帰るね」
沙羅と絵里が帰って行く。「んっ⁈皆んな帰って行くぞ。俺はまだ終わる気配すら無い」
課長や他の人間もサラッと挨拶をして帰って行った。
勇輝は仕方なく1人仕事をした。既に9時は過ぎでいた。
明日までの仕事はこなしたが、明日は早く終わって沙羅と絵里とで話がしたい。
もうひと頑張りして、明日に余裕を持たせる為に机に向かう。「遥香にメールをしとかないと忘れてしまうな」そう思い遥香に昨夜の事を謝罪するメールを送っておいた。
10時半をまわった位で、何とか目処がついた。「明日の夜に備えて帰るか」
課長の机の上に頼まれた資料を置いて帰る準備をする。
周りの部署はまだ仕事をしている人間もいるらしいが勇輝の部屋は1人寂しい感じだ。
会社を出てお腹が空いている事を思い出したが、面倒臭くなって電車に乗った。
どうやら疲れているらしく、端っこの座席で一瞬で丸まって寝てしまっていた。
東京駅の騒がしさでなんとなく目を覚ました勇輝は視線の先に遥香を見た気がしたが、気のせいだと思い再び目を瞑るたが、今日はなんとなく頭に服装が焼き付いていた。
ふと、もう一度頭を上げると人がたくさんいて確認が出来ないが、遥香だ。
なんとなく目を合わせ辛く勇輝は寝たふりをしたが、なぜこの時間にこの電車に乗っているのかが気になりはじめた。
顔を上げて確認をしたくなったが、どうして良いか解らない。
そっと顔を上げると丁度駅に着いたタイミングだったらしく人が沢山降りていく。
上野駅らしい。遥香が誰かに手を振っている。視線の先は誰だかは確認出来ない。電車の扉が閉まった時、何故か飛び降りていた勇輝が居た。
遥香に見つかりたくないからか、遥香の相手が気になったのか。「誠なら上野で降りないはず」そんな事を思っていた。
そして、降りてから重要な事に気付く、「遥香が手を振っていた先の人物が全くどんな服装かも解らない」自分の馬鹿さに呆れて何となく手を振っていた先の集団の方に歩き出す。
そして、ふと見覚えの有る後ろ姿がある事に気付く。誰だかイマイチ思い出せない。いや、確証が無いと言うべきか。
その男性に追いつく為に急ぐ勇輝。しかし、その男性は思ったより早く移動して行ってしまう。
勇輝は頑張って人混みをかき分けて階段を上るが登りきった先にてその男性は見つからなかった。
「あれは、たぶん、、、」
思わず声に出しながら呟いた。
遥香は約束していた月曜日の高級な食事を終えて満足していた。丸ビル最上階のイタリアンでディナー。かなりの満足感。オシャレな料理だった。
サービスマンに外人さんまで居る。夜景はが綺麗で、、、。もう言うことが無い筈だった。
上野駅に着いて食事の相手に手を振って電車が動き出した時に電車の外に勇輝を見た気がした。
慌てた遥香は
<近くに勇輝が居るかも知れないから気をつけて>
勇輝は周りをしばらく探したが、目当ての男の後ろ姿は見つからなかった。
諦めてホームに降りて帰りの電車を待った。「あれは、、、えっ、、でも。本当に⁈」
勇輝がホームに降りた時、柱の陰から男性が現れた。
「危なかった」
男はそう呟くと勇輝が降りた階段とは別の方向の人混みに消えて行った。
遥香はさっきホームに居たのが勇輝か気になって仕方が無い。「そういえば勇輝からのメールに返信していない」遥香は携帯を取り出し勇輝にメールをする。
<大丈夫だよ。こっちこそごめんね、疲れてる時に押しかけて。ところで今は何してる?>
本当のところは昨夜の事が少し怒っていたが、それどころでは無い。メールなんてしたく無かったが仕方が無い。
勇輝は携帯を取り出した。遥香からのメールだ。「同じ車両にいたことはバレてたのかなぁ」
<今は会社の帰りです。仕事がなかなか終わらなかったんだ>
遥香は先程の男性からのメールで勇輝が上野駅に居たことを確信した。「バレたかも知れない」
翌日の朝、誠が部署を訪ねて来た。沙羅と絵里に軽く挨拶をして勇輝の元に来る。
「沙羅、全く相手にしてくれないよ」
誠はヒソヒソと勇輝に話してくる。
「お前も馬鹿だなぁ、遥香はどうするんだよ」
勇輝もヒソヒソと話す。
2人のヒソヒソ話を周りの人が気にしてないフリをしながら耳を傾けている。
その様子に気付かない2人だが、あまり周りには聞こえて無いようだ。
遥香がそっと外に出て行く。
「遥香は、、、付き合い続けるよ。沙羅とは駄目そうだし」
「はぁ〜、皆んなどうかしてるよ」
「皆んな?」
「ああ、こっちの事」
「なんだよ、教えろよ」
「また、今度教えるよ。今はまだ言えないんだ」
昨夜の出来事を誠に今はまだ言えない。
誠は遥香を追って外に出て行った。それを楽しそうな目で見る絵里。面倒臭そうな目で見る沙羅。
そして、もう1人課長が見ていた。
そう、昨夜の遥香の相手は課長だった。でも、まさか。「そんな危ない橋を遥香は渡るのか。」
誠も同じ様な事をしている。遥香も有り得る話だ。
たまたま2人で食事をしていただけかも知れない。「昨日の仕事量は課長の嫌がらせなのかな?遥香の彼氏として?」
そう思うと2人は怪しい。
仕事が終わり沙羅と絵里とで飲みに出かける。
2人に昨日の出来事を話すと。
「私はランチに課長が一緒に行った時から疑ってるよ」
絵里が簡単に答える。
「えっ⁈何か有ったあの時?」
沙羅が驚いている。
「あの時、遥香が課長にアプローチしてる感じがしたから。何か約束してそうな感じもしたし」
絵里の観察力は本当に怖い。
「よく見てるねぇ」
勇輝は感心している。
「今度、直接聞いてみたら。遥香も勇輝になら話すかもよ。勇輝にもアプローチしてるでしょ、あの子」
「いや、そんな事無いよ」
本当に絵里は怖い。どこまで知ってるんだか。勇輝はこれ以上に聞かれたら答え辛い事も出て来そうなので、本題に入る事にした。
「で、話ってなんだろ?」
沙羅は勇輝を見て話し出した。
「日曜日に私が会社を辞める話はしたよね」
「うん。思い止まって欲しいと考えてる」
勇輝は嫌がる。
「でね、辞めたらなんだけど、、、」
勇輝の話を聞こえ無い振りをして続ける沙羅。
「ワーホリでオーストラリアに行こうと思ってる」
「ええええっ!」
勇輝はもう言葉が出ない。
絵里が何か話しているが、耳にはいってはいなかった。




