デギュスタシオン
USJで遊んでその日で帰る予定だった勇輝はまたまた動揺している。
食べ物に執着の強い沙羅の事を理解してたこ焼き・お好み焼きはちゃんと食べさせた。
しかし、まさかこんな事になるとは。
「神戸牛食べずに帰れないよね」
「へっ⁈」
USJを出て2人は夜、神戸に向かっていた。勇輝の予定では今の時間は新幹線に乗っていた。
「神戸の宿はどうするのさ?」
「まあ、いざとなったらラブホでも」
「はあ?何言ってるの」
「勇輝が望むなら覚悟は出来てるよ」
動揺する勇輝見て楽しんでいる沙羅、USJの疲れで嫌な事を少し忘れられてるらしい。
「もう時間が時間だから宿を取り敢えず見つけて、神戸牛は明日のお昼だね」
「勇輝の奢り!」
「割り勘です!」
「ケチぃ〜、親友だろぉ」
「・・・・・」
勇輝は、、、、嬉しかった。親友と言って貰えた事が。実はこの時は神戸牛を奢ってイイとさえ思ってしまった。
日曜日の朝、遥香は念入りにメイクをして横浜に向かった。誠と横浜で映画を見て、ショッピングをして、お食事という予定になった。
こうやってみると誠と遥香はリア充だと思われるのだが。。。
1時間弱電車に揺られて遥香は桜木町に着いた。
汽車道を歩いてワールドポーターズに向かう。
「駅前の映画館が良かったなぁ」
と呟きながら線路の上を歩く。
前に見慣れた背中が有った。遥香は小走りになり、その背中に抱きついた。
「おはよぉ〜」
誠はビックリして、、、いや違う。遥香の重量でよろけた。正直なところ少し「イラっ」ともした。しかし、今日を楽しむために誠は我慢した。
「おはよう、お互い少し早く着いてるね」
遥香は誠の手を掴み歩き出した。
「喉が乾わいちゃった。タリーズ行こう」
「スタバが良いなぁ」
「映画のチケット買って時間が有ったら行こう」
チケット売り場で見たかった映画の席を確保して2人はワールドポーターズの中を散歩した。
「お茶するんじゃ無かったの?」
誠は休憩を提案した。
「スカート探してるんだ。選ぶの手伝って」
「買って欲しいの?」
「さあ、どうでしょう。ウソウソ、自分で買うよ」
遥香はお店に入り、可愛いミニスカートを手に取った。
「ちょっと試着してみるから待っててね」
おいおい、そのサイズ入るのか。もうワンサイズ大き目の方が、、、。
遥香が店員さんを呼んでいる。店員さんが違うサイズのミニスカートを持ってくる。やはりな。
「ねえ、誠。これどうかなぁ?」
「ちょっと短くない?」
「えっ、ダメ?可愛く無い?」
「いや、可愛いよ。でも、そんなの履いたら俺が我慢出来なくなっちゃうよ」
「じゃあ、この後はこれを履いてデートしよ〜と」
「えっ⁈」
遥香が店員さんを呼んでこのまま履いて行く事を伝えている。自分の着てきた服を袋に入れて貰いレジでお金を払っている。
「お待たせ。さあ、誘惑しちゃうぞぉ〜」
誠はシッカリ興奮していた。
勇輝が見ていたらやはり「キモっ」と言ってしまっていただろう。
映画を見終わると、2人は赤煉瓦に向かって歩き始めた。本当に仲が良さ気なカップルだ。
赤煉瓦でウィンドウショッピングをしながらお昼ご飯を食べた。
誠はソワソワしている。自分の事で精一杯で遥香の事にあまり気が付いていない。遥香は時々、何時もは見ない種類の服や雑貨を見ている。
「ねえ、元町方面に行って。石川町に抜けない?」
誠は携帯をいじって何を調べてるかと思ったら、、、。
「いいよ。でも、モトヤでパンケーキ食べてからね」
2人は大桟橋には寄らずまっすぐに山下公園に向かった。
公園を抜けパンケーキ屋へ。
「よし、食べるぞぉ〜」
遥香、本当に凄い食べるんだろうなぁ。
神戸でホテル探しは比較的簡単に終わった。生田神社近くのモントレー。
簡単に食事をして2人は宿に戻った。
「夜景見たいなぁ〜」
「ケーブルカー終わってます」
「車出してぇ」
「無いです」
「勇輝、昔言ってたよ。摩耶山の夜景が凄い綺麗だって」
「綺麗だよぉ〜」
「ケチ!」
沙羅は枕を投げつけた。
勇輝はそれどころでは無かったのだ。部屋にはダブルベッドが一つ。勇輝は心で叫んでいる「どこで寝るんだ俺は!」
「んっ⁈何を考えているのかなぁ、勇輝君」
沙羅がエスパー化した。
「何も考えて無い。なんだよ」
沙羅は笑いながら
「シャワー浴びてきちゃうねぇ〜」
沙羅はカバンから着替えを取り出しバスルームへ向かった。
勇輝は思わずベットで正座をしてしまう。バスルームから水の流れる音がしている。「え、え、嘘だよなこの展開。俺が沙羅と⁈どうするんだ?そんなつもりは無かったぞ。。。断ったらダメなのか。据え膳なのか」頭の中はグルグルだ。水の音が止まった。ドアが少しだけ開く。
「勇輝、一緒に入るぅ」
「おい、、、入らへんわ」
沙羅はシャワーを終え髪を乾かす。バスローブ姿の自分の姿を鏡で確認している。「電気は消して貰った方が良いかな。勇輝にもシャワー浴びて貰いたいけど、その間に寝ちゃう気もするなぁ」
バスルームの排水口の髪の毛などをチェックしてドアを開ける。素早く入り口の電気を消して部屋を暗くした。勇輝の声は聞こえない。「寝ちゃったのかなぁ」沙羅は壁をつたいながらベットに向かう。
「勇輝もシャワー浴びたい?私はそのままの勇輝で平気だけど」
返事が無い。「寝たのかなぁ」沙羅はベットに辿り着き首を傾げたと思ったらベットに飛び乗った。勇輝を一気に襲うつもりだ。布団を剥がし一気に、、、。
「いない。。。」
勇輝はかなりの距離を歩いていた。いや最初は走っていただろう。坂を駆け下りていた。
勇輝は沙羅の事が大好きだ。決して失いたく無い友達。
もし、手を出してしまったら違う好きになってしまうかも知れない。その時、沙羅を自分の物にしたくなってしまってそれが叶わなかったら。。。
全てを失ってしまいそうで怖くて堪らなかった。
今、どこに居るのだろう。脚が疲れている。電話のバイブが呼んでいる。
「はい」
「勇輝、どこ行ったの?サミシクテ可哀想な女の子置いて出て行くなんて、、、」
「・・・・・ごめん」
頭がいっぱいで昨夜の事を忘れていた。
「すぐに戻るよ」
「うーん、私が行くよ。どこに居るの?」
「えっ⁈疲れて無いの?」
「夜景が見たいって言ったのは私だぞ」
「そうか、じゃあメリケンパークで待ち合わせで。着いたら連絡して、モザイクモールが綺麗に見えるかも知れない」
沙羅は服を着て外に出た。しかし、道が全く解らない。
「タクシーだな。この旅行の出費は凄いなぁ」
タクシーを捕まえてメリケンパークに向かう。
勇輝は先に着いていた。メリケンパークの東の端。震災の後をそのまま残している場所。
勇輝の記憶に突き刺さる。
震災の年、丁度就職で関西に職場を得る事は出来なかった。家族と別れ東京に出て1人寂しく暮らしていた。
人見知りで自己顕示欲が強い勇輝は友達も出来ず半年が過ぎていた頃、沙羅と絵里が関わって来た。
最初はウザくてしょうがなかった。呑めない勇輝を夜の街に連れ出して2人は酔っ払い、家に帰れず、勇輝の家に泊まりに来る。
これを何回も何回も。本当に酒好きは嫌だった。
しかし、数ヶ月して気付いた。2人は一回もお酒を勧めない。
一人暮らしの勇輝に気を使っていつも少し多めにお金を出してくれる。
1人にならない様に助けてくれていたのだ。
いつの間にか勇輝の顔も笑顔が増えていた。
職場で人と揉めてばかりだったのが円滑に出来るようになっていた。
目がウルウルしていた。
斜めになった街灯を見ながらそんな事を思い出していた。携帯が呼んでいる。
「着いたよ、どこ?」
「沙羅はどこに居るの?」
「んっ⁈勇輝泣いてるの?今はタワーの下に居るよ」
「解ったポートタワーの下だね。すぐに行く」
勇輝は走って沙羅の元に向かった。
沙羅はいつもの優しい笑顔で待っていた。こんな時まで気を使わせてしまっているようだ。
「お待たせ。反対側でボーっとしてた」
「コッチでよかった?」
「うん、海の向こう側がモザイクモールだよ。なんか、好きなんだ」
「綺麗だね。あっち側まで歩こうよ」
「そうだな散歩だし」
人は色々な想いを抱えて生きている。それを全部人に話せる人なんていないと思う。この時の沙羅も勇輝も、相手の事は聞かずにただ今を楽しんだ。
モザイクモール側からポートタワーを見る。
「ここは開いてる時間帯に来たいね」
「明日は来る時間有るかなぁ。行きたいところは有るの?」
「有るよ。明日のプランは任せて」
沙羅は自信ありげに笑っている。
2人でくだらない事を話している。遥香の事や誠の事も、そしていかに絵里が頼り甲斐が有るか。
「絵里も一緒に来たかったね」
沙羅は心からそう言っていた。
「そうだね、そしたら今から呑み時間になれたのに」
「明日、起きれなくなるけどね」
「そうだな、もう寝なきゃな」
「そうだね、何もしないからホテルに帰ろう」
「それは本来男のセリフだね」
勇輝は恥ずかしそうにそう言った。
夜は深まり2人はタクシーで宿に帰る。すっかり疲れていたが勇輝はシャワーを浴びた。
バスルームから出ると、沙羅は既に寝ていた。
「まあ、相当疲れてるわな」
勇輝は布団をかけてやるとソファーに向かった。
「こら、どこで寝るつもりだ」
背後から声がした。沙羅が細くなった目でコッチを見ている。
「いや、ソファーで、、、」
「これはダブルベッドだ!そして布団は1枚しかない。一緒に寝るしかないでしょう。、、、何もしないからおいで」
沙羅がほんのり笑っている。
「それは男のセリフだよ」
さっきと同じ会話を交わしながら、勇輝は出来る限り沙羅から距離を取ってベットに入った。
勇輝もかなり疲れていたらしい。いつ寝たか記憶が無いほど一瞬で眠りに付いてしまった。
遥香と誠は注文のパンケーキを食べ切って動けなくなっていた。
「こんなに量が多いんだね」
遥香は、、、いや遥香でさえパンケーキの量にヤられていた。
「もう少し少なく頼めば良かったね。欲張りすぎたな」
誠もやはりスグには動けない。本当は早く移動したいのだが。
「もう少し休憩だね。いざとなったら、、、石川町は無理でも東京で、、、ね」
「ダメだよ、、、、、東京までは我慢出来ないから」
「わかったよ。もう少し休憩したらね」
正直、勇輝にコメントしてもらいたい「気持ち悪い」と、、、。
その後2人は、石川町にあるホテル街へと姿を消した。
さて、こちらはやっと日曜日のお話。
朝から沙羅は元気だ。朝食ブッフェを止まること無く食べている。
お腹の弱い勇輝は控え目に食べ、オレンジジュースとカフェオレ、クロワッサンを楽しんだ。
部屋で休憩、などせずに直ぐに出掛けた。異人館の風見鶏の館。元町を歩き、港に行き遊覧船。南京街、
「シュウマイ食べる」
「南京街はねロウショウキって有名な豚まん屋さんが有るんだ。それ食べようよ」
「シュウマイ食べる」
「へっ⁈聞いてた?じゃあシュウマイ買っててよ豚まん買ってくるから。並んでるかなぁ」
実は勇輝は異人館に行ったことは無かった。遊覧船は小学校の遠足以来。デートみたいで楽しかった。
「北野坂のカフェに行きたい」
「じゃあ、そこから新神戸に行って新幹線で帰るか」
沙羅は何も答えずにテクテクと歩きだした。沙羅は北野坂をゆっくりと登った。登り切った後、坂の下を見て何か呟いた。
携帯を見て突然坂を走って下る。
勇輝は慌てて追いかける。下り坂でなかなか止まれない。沙羅が転けてしまった。勇輝はそれを飛び越えて何とか止まった。
振り返ると沙羅は涙ぐんでいる。
「大丈夫?痛いの?怪我は?」
「・・・・・・」
沙羅は答えない。どんどん涙が溢れて行く。
「どこ?どこを怪我した?」
勇輝は慌てる。沙羅は膝を擦りむいている。
「ちょっと、、、、、」
「だ、、だい、、、だいじょ、、うぶ、だ、だから」
「そう、バンドエイド買ってくる?」
「、、、、、、、、北野、、坂で、、、、、待ってい、、、る、から」
「えっ⁈」
「異人館、、、から、、元町まで、、、
歩いた道」
「えっ⁈え!」
「例え、、、君が、、、来ないとしても。居るはずの無い、、、君を探してしまう」
「えっ!風見鶏の恋人‼︎」
「忘れる為?もう一度会う為?北野坂で何で待つの」
沙羅は号泣した。昨夜、何が有ったかは解らない。でも、良い結果では無かったのか。
こういう時、イケメンなら沙羅を抱き締めるのだろうか。勇輝はただ沙羅の側に座り沙羅が泣き止むのを待っていた。
「ねえ勇輝、帰ろうか」
沙羅は涙が止まり立ち上がると言った。
「タイツ買ってからね。見てみなボロボロだよ」
「・・・本当だね、どうしよう」
「ドンキホーテで買って、タクシーで新神戸に行こう」
「そうだね」
2人で坂を下りだす。
「沙羅」
坂の下から声がする。
見覚えの有るすがた、聞き覚えの有る声。勇輝は納得が行かない、殴ってやりたい。
しかし、沙羅の表情を見ると嬉しそうな気がする。沙羅の背中を軽く押す。
「先に帰るね」
沙羅は勇輝を引き止め様としたが、勇輝は優しくその手を振りほどき、
「じゃあ、新神戸で待ってるよ」
沙羅は頷き、1人坂を下りて行く。
勇輝は2人を見送り、タクシーで新神戸に向かった。
「お土産なに買うかなぁ」
勇輝はわざと違う事を考える様にした。




