デコラシオン
遥香は可愛いミニスカートにいつもより時間をかけたメイク、かかとの高い靴。
汐留のオシャレなカフェに着いた。
「お待たせ」
遥香は精一杯の笑顔と色気でその男性に声をかけた。
「そんなに待って無いよ。いつもよりさらに可愛いね」
スマートな言い方だ。言い慣れている感じもする。
金曜日の夜、どこのお店も賑わっている。
「お腹空いた?何か食べたいものはある?」
「イタリアン以外がいい。最近食べたばかりだから」
「うーん、どうしようかな。高級系?砕けた系?」
「それは、、、高級な方を食べたいけど。食事の後をどうするかで、、、。その、今日は食事だけ?」
「食事だけじゃ無い方が良いって事?」
「意地悪。」
「じゃあ、汐留じゃ無い方が良かったね。移動しようか」
「どこがいいの?」
「鶯谷?ご飯が困りそうだね。新宿か池袋にいく?」
「池袋よりは、、、新宿がいいかな」
「泊まる所は決まってるの?」
「ラブホ」
「えっ⁉︎」
「冗談だから。何とかなるでしょ」
沙羅は少し機嫌が悪い。御堂筋線の乗り場に向かう。
「あの〜、やな予感がしますが」
「だからついて来て貰ってるんでしょ」
「ですね」
2人は地下鉄に揺られ隆史さんの住む町に向った。
江坂の駅を出ると沙羅はカフェに入った。携帯を眺めながら爪を口元に当てている。勇輝は話しかけれない。静かな時間が過ぎて行く。
「はあ〜」
勇輝は「ビクッ」となり沙羅を見る。
「なに?」
「いや、どうしたのかなぁ〜と思って」
「何か言いたいんでしょ」
「・・・・・俺、見てこようか?住所教えてよ」
沙羅には予想外の事だったらしく、キョトンとしている。
「えっ?誰がどこに行くの?」
「だから俺が隆史さんの所に」
「・・・・・・一緒に行く、、、私が会うから外で待ってて欲しい」
「いくらでも待つよ」
2人は店を出て隆史さんの家へと移動を動き始めた。
「・・・・・・。」
沙羅は建物の前で再び沈黙している。勇輝はどうして良いか解らない。
「どの部屋?」
「あの部屋」
沙羅が3階の部屋を指差した。どうやら灯りが点いている。
沙羅は動かない。気付けば勇輝の服を少し掴んでいる。
どれ位たっただろうか。突然、勇輝が動き出した。
「俺、行ってくるよ」
スッと動き出した勇輝を沙羅は唖然と見ている。声も出ない沙羅を尻目に勇輝は建物の中に消えて行った。
勇輝はインターホンを押すのを一瞬躊躇したが、思い切って押した。
インターホンの音が部屋の中で響いている。勇輝が隆史さんに会うのは2回目だ。一回目は、、、。
「はい、誰ですか?」
中から声がした。
「あの、突然で申し訳無いです。勇輝です。」
「えっ⁈誰?」
中で隆史さんは止まっている。
「えっ⁈何?」
中で声がする。なんだか勇輝は開き直ってきた。
「あの、沙羅の友人の勇輝です。お話出来ますか?」
そっと扉が開いた。隙間から隆史さんの頭が出てきた。
「本当だ。勇輝くんだ」
隆史さんが扉の外に出て来た。
「どうしたの?なに?」
確かに可笑しな状況だ。勇輝何を話して良いか解らない。沙羅が居ることは言って良いのかさえ解らない。
「あの、そのですね。。。。」
隆史さんは勇輝の様子を伺っている。
少しの沈黙の後、勇輝は話し出した。
「沙羅とはどうなってるんですか?」
「だよな、勇輝くんが来るなら沙羅の事だよな。。。何、やっぱり沙羅と君は怪しい仲だったという事かな?」
昔から少しの疑いを持っている隆史さんが勇輝を強い視線で見る。
「僕は沙羅とは何も有りませんよ。でも、友達です。沙羅が悲しそうだと気になります。友達だからと言って2人の関係に口を出して良いとは思ってません。だから結果のみ聞きます。今の2人はどうなっていて、今後どうなるんですか?」
「君の言う事は解るよ。疑いは消えて無いけどね。でも、2人の事を君に話す必要は無いよね。」
「そうですね。じゃあ、沙羅にはちゃんと話しているという事ですね」
「・・・・・」
隆史さんは答えない。
その時、背後でエレベーターの扉が開く音がした。
新宿の街で食事の後を終え、そしてホテルで数時間過ごした遥香はお風呂で暖まって石鹸ポイ香りをさせて色っぽさを感じる。まあ、勇輝は全力で否定するだろうが。
「帰るのぉ?」
遥香ぎ甘い声を出す。勇輝には耐えれない声を
「帰らなくちゃね。明日は用事が有るから」
「何の用事なんだか。拗ねちゃうぞ」
腕に絡みつきながら身体を強く寄せる。遥香の体重に耐えれず少しふらつくが
「月曜日に美味しいものを食べようよ。今度は高級なやつ」
「食べ物で騙す気だぁ〜。。。。しょうがないから騙されてあげる」
新宿駅が近づくと人混みの中で遥香は少し離れて話しかける。
「ここでキスしたいなぁ」
「いやいや、それは無理でしょ。これだけの人混みだよ。」
勇輝なら遥香と付き合ってても全力で拒否だ。もっと可愛い子なら付き合って無くてもお願いしたいが。
遥香は少し不満そうだが、どうやら言ってみただけらしい。
改札を通り2人は別れた。
遥香は鞄から携帯をを取り出した。
<日曜日、映画に行こうよ>
携帯を鞄にしまい窓に映る自分を見ながら何かを考えいる。携帯のバイブが動いているが、遥香は動かず窓に映る自分を見続けていた。
「絵里、なんで沙羅は俺の相手をしてくれないんだ」
「知らないよ。顔が嫌いなんじゃ無いの」
絵里は誠に誘われて呑みに来たが、完全に失敗だった。沙羅が大阪に行くのは知っていたが、まさか勇輝を連れて行くとは計算外だった。本当は隣には勇輝が居る予定だった。
「おいおい、失礼じゃ無いか」
完全に酒に呑まれた誠にイライラしだした。
「金曜日の夜に付き合ってあげてるんだから、もう少しコッチが飲みたいのに。先に呑まれないでよ」
「何だよぉ〜、もう一軒行こうぜぇ」
「うるさい、帰りなよ。私は明日、用事が有るんだ」
「ええええ」
「遥香にはどう説明してるのよ?」
「説明なんてしてないよ」
「はあ、面倒臭い」
誠の携帯が鳴る
<日曜日、映画に行こうよ>
「遥香が日曜日に映画に行こうってさぁ。俺、愛されてるぅ〜」
「屑だね」
絵里は誠の腕を引っ張って店を出る。
「ほら帰るよ」
「沙羅は?なんで返信来ないんだろう?今は何してるんだろ?」
「屑、帰るよ」
何とか誠を帰らせると
「はあ、勇輝。私達、大変だね。周りの便利屋さんかね」
1人、呟き家路についた。
エレベーターの方から足音が聞こえる。勇輝は振り向けない。隆史さんの顔は少し引きつっている気がする。少しづつ近づく足音「きっと隣の部屋の人だ。上がって来てなんか居ないはず」と、都合の良いことを勇輝は考えていたが真後ろに足音が来た時、その足音の主の声がした。
「隆史、お客さん?」
「⁈」
勇輝はパニックだ。「沙羅、、、じゃ無い?」
「あ、、あぁ、友達なんだ。ちょっと外に出て来るよ」
隆史さんは勇輝の腕を掴みエレベーター方向に歩き出す。
「上がって貰わなくていいの?」
「大丈夫、すぐ帰って来るから」
勇輝は訳が解らないままエレベーターに連れて行かれる。
一瞬、足音の主の顔が見えた。髪の長い鼻の高い綺麗な人だ。沙羅とは違い大人っぽい。
エレベーターに隆史さんと乗り1階に降りていく。
「沙羅には、、、。」
隆史さんの言葉は続かない。
「二股ですか?」
「二股じゃ無い。。。迷ってるだけだ」
「一緒に住んでるんですか?」
「・・・・・」
エレベーターが1階に着き扉が開く。
目の前には沙羅が居た。
「沙羅、、、」
この時の声は隆史さんなのか勇輝なのかは覚えていない。
勇輝も隆史さんも頭の中はグルグルしていた。そして、1階のエレベーター前に居た沙羅も驚いて何も話せない。
1番最初に冷静になったのは隆史さんだった。2人を引っ張り、沙羅と勇輝がさっきまでいたカフェに連れて行った。
3人は注文を終え沈黙。それぞれがそれぞれの理由で目を合わせられない。黙って大阪に来た事。女の人が家に居ること。それを知ってしまった人。
「えっと、なんで2人は大阪に居るのかな?しかも2人が一緒に、、、なんで?」
隆史さんは沈黙に耐えられず2人に質問した。
沙羅はまだ何も喋れない。勇輝は沙羅をチラッと見て
「僕は席を外しますか?」
隆史さんが安堵の表情に変わった。
「あの〜、嘘ついても僕が見た事は後で沙羅に話しますからね」
隆史さんはまた暗い顔に戻る。
勇輝は立ち上がった。その時、沙羅が勇輝を掴む。
「・・・・・」
無言で首を振る沙羅。
この気まずさから逃げたかったが、勇輝はもう少しここに居ることにした。
「まず、何から話し合いますかね」
勇輝は早く逃げ出す為に会話をリードする事にした。
「隆史さん、まずですね。なぜ今日沙羅がココに来たか解りますか?」
「解らない。。。。かな」
隆史さんは勇輝をチラッと見た。
「解らないですか。では、沙羅はなんで今日ココに来たのかな?」
「・・・・・」
沙羅は下を向いている。
「では最近、隆史さんは沙羅に連絡はしていましたか?」
「してたよ。なあ」
「・・・・・メールしか来ない。電話しても出ないし。掛け直しても来ない」
沙羅がやっと喋った。
「いや、忙しくて。。。」
「んっっうんっ」
勇輝が咳払いをすると、隆史さんは慌てて言い訳をする。
「チョット待って勇輝くん。説明はするから。ねっ‼︎」
「説明?ですか?今の状態だと説明は無理だと思いますが。言い訳なら出来るけど」
隆史さんは言葉を飲み込む。
「ダメですね。取り敢えずさっきの状況を沙羅に話して、後は2人で話し合った方が良いと思います」
沙羅が勇輝を見て首を振っている。
「沙羅、じゃあ話を聞いてから2人で話した方が良いか決めて」
沙羅がそっと頷く。隆史さんは頭を抱えている。
勇輝はさっき隆史さんの部屋の前で有った事を自分の覚えてる限りを冷静に話した。隆史さんはたまに口をはさもうとしたが、勇輝は聞き入れなかった。沙羅はそんな2人を黙って見ていた。
「そういうことなんだ。理解はした?」
沙羅は静かに頷く。
「で、後は隆史さんは沙羅に言い訳して下さい。そして、2人がそれぞれ今後の関係をどうしたいかを話して下さい。それから2人が今後どうするか話し合って下さい」
これで、2人の話はまとまると思われる。勇輝は席を立ち沙羅を見る。
「近くのファミレスにでも居るから。終わったら連絡頂戴」
そして、隆史さんの方を見て
「僕が沙羅を迎えに来なくていい状況になる事を望んでいます。隆史さんが家に帰らないのか?家に居る彼女を追い出すのか?方法は全く現実的では無いですが、、、。」
勇輝は店を出た。出た途端に二人きりにした事を少し後悔した。でも、前に進めなきゃ沙羅の笑顔が減ってしまう。
大好きなチョコレートパフェとクラブハウスサンドイッチの事を考えながらファミレスを探した。
しばらく沈黙は続いた。沙羅は何度か顔を上げて隆史さんを見たが、その度に隆史さんは少し目をそらしていた。
「隆史さんはその女の人の事が好きになったの?」
「いや、えーと、沙羅が好きだ」
「えっ?」
沙羅は少し苛ついた。
そこからは言葉が止まることなく2人は言葉の粗を拾い揚げ足を取り。批判し合いながら。ドロドロとした口喧嘩をした。
だが、沙羅は久々に言いたい事をしっかりと言えていた。本当は毎日電話で話したかった事。逢いたかった事。大阪に行って欲しくなかった事。
聞けば聞くほど、言えば言うほど、隆史さんの事が好きな事が周りには解る、そして自分でもその事に気付く。
涙が止まらない。心が大好きだと言っている。
隆史さんは何も話さなくなっていた。じっと沙羅の話を聞いていた。
しばらく2人は沈黙した。どれ位、1分だったのか、1時間だったのか。
ずっと黙っていた隆史さんが声をだした。
「俺も沙羅が好きなんだ」
隆史さんの口から漏れた言葉。しかし、この状況では沙羅の心には響かない。
「何言ってるの?私の気持ちを何だと思ってるの?」
「好きなんだ」
「意味がわからない」
2人はこの後も1時間以上話していた。
少なくとも一回、
何か小さいことを断念しなければ、
毎日は下手に使われ、
翌日も駄目になるおそれがある。
ニーチェ
一つの欲しい物を手に入れて、それに慣れてしまい新しい物が欲しくなる。でも、だからと言って古い物を捨てる事も出来ない。
多かれ少なかれ、人にはそんなところがある。隆史さんは今回はそれを恋愛に用いてしまった。
2人は店を出て、隆史さんは家の方向へ。沙羅は駅の方向へ向かいながら勇輝に電話をした。
「おお、終わった。どうだった?」
「・・・・・うん」
「迎えに行くから。待ってて」
「・・・うん」
勇輝は追加で頼んだチョコレートパフェを半分残し。凄い残念そうな顔で店を出た。
走ってカフェに向かったが、スグ近くに沙羅はいた。
「大丈夫?」
「うん」
「お腹空いた?」
「・・・ううん」
静かに首を振る。何だかしおらしくて何時もより可愛い。
「取り敢えず、梅田に行って考えますか?」
沙羅が黙って頷く。
勇輝が歩き出すと、沙羅はなんとなく勇輝の袖を掴んで駅まで歩いて行った。
「明日はUSJで遊んで帰るか」
「・・・勇輝の奢りでね」
「お、、おうっ」
財布の中身を心配しながら何とか笑顔を作っている沙羅を元気にしたいと考えている勇輝だった。




