檸檬2
私は、数年ぶりに現れたレオン様へ驚きながらも伯爵令嬢として感情をあまり顕にしないように表情を取り繕った。そして、いつも通りの微笑みを浮かべた。
「お久しぶりですわね。何年ぶりかしら。相も変わらずお元気そうで何よりですわ。」
「君も、相変わらず元気そうだ。最後に逢ったのが君の15歳の御披露目だったから、もう、2年は前だ。」
笑みを濃くしたレオン様をみて第一声は成功したようだとホッと息をつく。
「いつお戻りに?
私、レオン様はまだまだあちらにいらっしゃるのかと思っておりましたわ。」
言外に何故帰ってきたのかと問うと、少し困ったような表情になった。
「う~ん。ちょっとした約束があってね。もともと3年以内で帰国する予定だったんだよ。」
その返事を聞いて私は、納得した。レオン様は社交界でも大人気の優良株だ。まさに身分は次期公爵、王族の覚えもよく、眉目秀麗な彼が慕われないはずはなく、色々と噂を耳にしていた。最も2年前までの話であるが。
その噂とは、まぁ大体が色恋沙汰であり大袈裟な部分もあるだろうが火のないところに煙りはたたないである。
ということから、何となくその約束とやらが女性絡みであると察した。
そして、視線を反らし窓の外へ目をやると、蓮池が見えた。一面に蓮の葉がひしめいて月明かりにわずかな水面が反射していた。
「花が咲いているかと思いましたのに、残念ですわ。
私も、お約束しておけばよかったです。」
暗に女性を花に例え拗ねたように口にしてみてもレオン様は何事もないように口許は緩く弧をかいたまま。
「蓮花がみたかったのか。」
「ええ、満開の蓮池は異なる世界にいるような感覚にされますわ。」
「その言い方は、まるで今生から抜け出したいかのようだね。」
「そんなこと、ございませんわ。」
私たちは、笑いながら当たり障りのない会話をした。
「花は咲いていないが、池の近くにいってみないか?」
レオン様のお誘いを受け彼の手をとり、テラスをでた。
頬を撫でる夜風が気持ちよかった。私は意識せずほほえんでいた。
「気持ちのよい風ですわね。彼の国はこちらより雨が少なく過ごしやすいと聞きますわ。レオン様もやはりあちらがお好きなのですか。」
「確かに、こちらより雨はなく空気も乾いているので過ごしやすいな。ただこの国にしかなく彼の国には、ないものもあるから。
ソフィーはカタ-ナ国に興味があるのか。」
「そうですわね。彼の地の千年樹、一度は目にしてみたいとおもいますわ。」
「ならばいつか、共に見に行こう。それとも私では役不足か。」
そんな言葉がまさか出るとは思わず驚きを顔にだしてしまったが、これも社交辞令と気付き無難な答えをくちにする。
「まあ、ご一緒に千年樹を。そんな機会がございましたらうれしいですわ。ですが、ご婦人がたに人気のレオン様とご一緒でしたらお庭を愛でるだけでも十分でございます。」
すると、レオン様は急に真剣な眼差しになり私を正面から見つめた。
「ソフィー、私は君を結婚相手へと思っているんだ。どうか私を君の婿候補に入れてくれないか。」
今度こそ私は驚きを隠せなかった。だって、まさかのまさかである。
レオン様のキラキラひかるお髪と私のレモンイエローのドレスの裾がゆらゆらと揺れていた。