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狼の恋人  作者: Kずき
2/12

1


 六年後――


 週末の天気は崩れると天気予報が告げる。

 その後に流れたニュースを、青葉一彰(あおばかずあき)はトーストにバターをたっぷりと塗りつけながら眺めた。バターを塗った後には、表面がキラキラ輝くまで砂糖をまぶす。そんなトーストを二枚作るのが一彰にとってお決まりの作業だった。


「毎朝思うことだけど」


 手を動かしながらニュースを見ていると母が話しかけてくる。


「あんたのそういうところって、モテなさそうよね」


 母はテーブルに肘をついてニヤニヤしていた。スーツの上にエプロンを重ねた毎度のスタイル。女手一つで息子を育てた彼女を象徴するような姿だ。


「パンに砂糖をまぶすのが?」


「違う違う。なんて言うの? 習慣に対するこだわり? 同じことを、同じ時間に、同じやりかたで。きっちりし過ぎてるっていうか、隙がないっていうか、頑固そう。実際、頑固だし」


「きっちりしているのはいいことだろ。だらしないよりずっといい」


「あんたみたいなのって、女の子からしたら、『つきあったらめんどくさそう』って嫌煙されるのよ。そんで、四十路くらいになって、お嫁さんがもらえないものだからいよいよ料理の腕があがって、自分で作った夕食にワイン片手に悦に入っているタイプ。独身貴族予備軍」


「独身貴族でけっこう。僕は女なんかに興味ない」


 鼻をならして、シュガートーストにかじりつく。強がりではなく、今のところ異性には感心がないのだ。一彰の頭にあるのは部活のことだけ。問題を抱えていたから、なおさらだ。ある意味では、女の子とのお付き合いを考えられるほど気楽な身分ではない、とも言える。

 一体、どうするべきか。

 一彰が無意識のうちに、〝あいつら〟のことを考えていると、「貴族さん」と母に呼ばれる。


「高貴なご身分なお方にお願いするのはもうしわけないけれど、一杯いただけるかしら?」


 そう言って母はマグカップを掲げた。出勤前の母にコーヒーをいれてやるのも、一彰の日課だったのだ。


「僕が食べるパンへの習慣には文句を言うくせに、自分の飲むコーヒーへの習慣にはちゃっかり便乗するのな」


「一彰のこういう優しい一面を見抜いてくれる希有な女の子、現れないかしら。私、あんたを見てると自分の老後が心配で心配で」


「母さんの老後くらい、僕が一人で面倒みてやるよ」


 コーヒーを注いだマグカップを二つ、テーブルに運ぶ。一つを母の前へだすと、母は烏の足跡がついた目元をやわらかくして「ありがと」と受け取った。

 四十路をむかえた母は、さすがに小じわが目立ち始めている。それでも、瞳だけは少女のように悪戯っぽいままで、夏の陽射しにビー玉をすかしたような清々しさがある。母の切れ長で光をやどしているような瞳が、一彰は好きだった。

 ふいに、テレビから重々しいBGMが流れる。二人は同時にテレビに視線をむけた。そこには先月閉園になった遊園地の様子が映しだされていた。


「これ、またなの? 物騒ねぇ。誰がこんなことするのかしら」


 母がコーヒーをすすりながら、眉をよせる。


「悪戯にしては、ちょっとやり過ぎよね」


 テレビ画面には〝生きていた頃の″モモイロペリカン。


『以前は公園の平和を象徴し、子供たちの友達だったペリカンたち。それが今、無残な姿を晒しています。一体何故、誰が、このようなことをしたのでしょう? 先月に続き、二度目の事件。専門家の意見では、死体には全て大型の犬歯の跡が見受けられとの――』

次回は2013/02/07のUP予定です。

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