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卜部純の面接試験


とある学校の面接会場


僕は自分の番が来るのをじっと待っていた


気持ちを落ち着けるために何度見たか分からないメモ用紙に視線を落とす

そこには面接を想定した質問と回答がびっしりと書いてある


僕は人見知りな上、口下手だ


だからこうしてしっかりと準備をして何度も練習をしてきた

大丈夫、全部覚えたのだからきっと大丈夫


そう何度も自分に言い聞かせる




そして、面接が始まった





「それでは座ってくれ」


面接官に椅子へと促される

面接官は1人、受験生は3人。前2人の受験生に続いて椅子の前に立つ


「それじゃ、右から順に名前を言ってくれ」


どうやら僕とは反対側から始まるようだった

自分の番が来る前に脳内でイメージを固める


卜部純(うらべじゅん)といいます。よろしくお願いします」


無事名前を伝えて椅子に座る


「さて、これから面接を始めようと思う。普段通りと言っても難しいかもしれないが

 余り硬くならないで欲しい」



そう前置きをして面接を始めた



「休日はいつも何をしているんだ?」


面接官が僕とは反対側の受験生に質問を振る

質問の順番が予想外だったが、それくらいなら問題はない

良かった、これで準備をする時間を稼ぐことができる


「ゲームをしてます」


質問を振られた受験生はそう答えた


「ほう、どんな奴をしているんだ」


「友達と集まって、皆で狩ゲーをやってます」


「ああアレか、私もたまに妹とするぞ」


「そうなんですか!アレはいいものです」


会話が盛り上がっていた、面接官の興味を引く答えだったのかもしれない


「っと、少し長引いたな、それじゃ次の奴」


「俺はラノベを読んでます、難しい本とかは苦手で」


本当に苦手らしく、照れくさそうに頭を掻いていた


「ははっ、確かに堅苦しいのが好きというのは、お前くらいの年代では

 中々居ないだろうな」


「そうなんですよね、いつかは読んでみようと思っているんですけど」


「最近読んでいる本とかあるのか?」


「はい!最近の作品だと……」


こちらも先ほどと同様に盛り上がっている、また面接官の興味を引く

答えだったらしい


「中々読書家らしいな。よし、それじゃ次」


そしてようやく僕の番が回ってきた。前の2人のお陰で気持ちは落ち着いた

後は用意した答えを言うだけだ


「えっと、最近の休日は勉強を重点的にしています」


「そうか、大変だな。それじゃ次の質問だが……」


僕はそれだけで終わった


あれ、と思った


この流で行くとどんな教科の勉強をしているのかとか、もっと会話が弾んで

いくのかと思ったがそうではないらしい



その後の質問も、僕があらかじめ予想していた範囲内の質問で

すべて一字一句間違えることなく、用意していた答えを返した


なのに……


「そうか、なるほど」


僕の答えに対して帰ってくる言葉は一言だけで、会話が膨らむことは無い

まるで門前払いでもされているかのような感覚に囚われる

全部シミュレーション通りのはずだった、多少言葉につかえる時もあったが

何も間違ったことは言っていないはずだった


しかし、他の受験生と面接官が楽しそうに会話をしているのを聞いていると

どうしようもなく、不安に駆られた




「それでは最後の質問だが、この学園に入学したら何をしたい?」


いよいよ最後の質問、最後の質問は僕とは反対側にいる受験生からだった

そのことに感謝し、僕は軽く深呼吸をする

大丈夫ちゃんと落ち着く時間はある


「はい!俺は彼女を作りたいです!」


それを聞いて耳を疑った


何というか、この受験生たちは少し正直すぎるのではないかと思う

いままでの質問だって、僕が考えてきた答えと被るものは一つも無かった


確かに、年頃の男としてそれはおおよそ本心だろう

だが、ここは友達と笑い話をする場ではなく学校に入れるかどうかが

かかった場なのだ。そういう本心は心にしまっておいて、たとえ建前だとしても

将来のために勉強を頑張りたいとか部活を頑張りたいとかそういった目標を

言うものではないのだろうか


それにこの学校は女子の比率が多い。そういうことをあからさまに言っていると

不純異性交遊等問題を起こす可能性のある生徒として警戒される可能性もある

おおっぴらにそういったことを言うのは、さすがに問題なのではないだろうか



「青春だな、頑張って作れよ」


「はい!」



問題なかったようだ


自分の思っているより大分、男女の交際については寛容らしかった


不安が増してくる、また自分の時だけ門前払いのように言われて終わるのではないか

彼らのように変わったことを言えばいいのではないか


だが、僕はアドリブなんてことはできないし、何かを考えるにしても圧倒的に

時間が足りない


大丈夫、彼は彼、僕は僕だ

僕は無難に答えれば良い、この質問に対しても回答は用意してある


『将来のためにしっかりと勉強をして、部活動と両立させたい』


そう答えれば良い。変に奇をてらったりする必要はないんだ

何度も自分に言い聞かせる



「大体こう言う質問すると、勉強を頑張りたいだとか、部活を頑張りたいだとか

 返って来るんだが正直聞き飽きてたから斬新で良いな」



返す回答がなくなってしまった



「それじゃ隣の奴」


隣の受験生が質問に答えているが、僕はそれが頭の中に入ってこない

頭の中は真っ白で、どうしていいか分からなくなっていた


「ハハッ、お前もまた面白いことを言うな」


どうやら隣の受験生も面接官が気に入る回答をしたらしい


「どうやって本質を見ようかと思っていたが、始めからお前たちみたいに

 答えてくれるとこっちとしても大助かりだ。こっちで変わった質問用意しても

 いいんだが、そうすると後々面倒なことになるからな」


会話は良く聞こえないが、良い雰囲気だと言うのは伝わってきた


「それじゃ、最後はお前だ」


その言葉で現実に引き戻される


「えっと」


何を答えれば良い、何を言えばこの人は満足する?

やはり最初用意していた回答を……いやダメだ

聞き飽きたといわれたことをわざわざ言うなんて論外だ


自然と俯いてしまう


分からない、考えが浮かんでこない



「と……」



何か、何か言わないと……



「と、友達が欲しいです!」



気づけばそう口にしていた

そんな僕の答えに驚いたのか、面接官も少し驚いたような表情をしている


しまった、と思った


動揺していたとはいえ、よりにもよって変なことを口走ってしまった

これでは『寂しい奴』とか『協調性に問題あり』と思われかねない

だが、言ってしまった以上取り消すことはできない



「……そうか、それじゃぁたくさん友達作らないとな。頑張れよ」


その言葉は、とても優しく感じた


「は、はい」


「それじゃ、これで面接は終了だ、帰っていいぞ」




* * * * * * * * * *




合格発表当日、僕は合格発表会場に居た

僕の受験番号が掲示板に書いてある、どうやら合格していたらしい


しかし、なぜ合格していたのか僕には分からなかった



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