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第7話 中央広場にて

和菓子と洋菓子。ううん。洋菓子と和菓子。今の私にとってはそういうべき。不等号の向きが入れ替わってしまっている。

 もしかして、気づいてはいけないことに気づいてしまったのではないかと思う。気づかなければずっとこの街に何の疑問も持たずにいられたのに。もちろんアドバイスをくれたお姉さんを恨む気持ちは微塵もない。お門違いだってことくらいわかっている。私が悪いのだ。

 それからというもの、灰色の空の下を何も考えずに歩く時間が増えた。時折降ってくる雪の冷たさも、濡れた靴から届く冷たさも気にならないくらいにぼーっと歩いている。飽きると部屋に戻って暖をとる。そのときに初めてどれだけ冷えていたのかを実感できる。体は温まるけど心は冷えたまま。何の解決にもならないとわかっていて同じことを繰り返している。

 雪が止んだその日は、たまにはコースを変えようと言う気になり、中央広場に向かった。外側の周回の道はお店みたいなのが並んでいるけど、この放射状の道は住居が目立つ。といってもお店らしいものが見あたらないからそう思うだけなのだけど。風車はこの道にも挿してある。人が通るとわずかな風圧でカラッと音がし、羽の部分が傾く。六つある放射の道はどれも中央広場まで一直線に伸びている。中央広場はその名の通り中心にあって、外側、つまり放射の道の間にはベンチが備え付けられていて、四人くらいは座れるようになっている。風車もやっぱりあって、ベンチの隅に挿しこまれている。直径五十メートル以上はりそうな広場の中心は雪に埋もれていて、綺麗な平原がつくられている。人が歩いた跡がくっきりと外側の枠を作り出している。

 ふと歩き疲れて、誰も座っていないベンチを見つけ、コートのまま座ってみる。すると、鉄部分の冷たさがコートを介してなお体に伝わるのがわかった。しかも雪で少し濡れているのか、じわっといやな湿気も感じる。そういえば、街の外では歩いてばかりだったような気がする。ほとんど立ち止まったことはないし、ましてや腰掛けることもなかった。

 もしもここが現実世界だったら、子供たちが広場の中心に飛び込んで遊んでいる姿が見られそう。けどここではそんなことをする人は誰もいない。踏みしめた雪が自然に枠をつくるだけだ。雪の深さは私の膝までの中間くらいだから、だいぶ深い。ちゃんとした円形ではないけど、その表面は自然の美しい白。テレビで見た冬山の平原のよう。みんなここだけは綺麗なままにしておきたいのか、中心へ踏み込む人は誰もいない。対角線上の反対側に抜ける人も、中心を通らずに半回転して別の道に入ってゆく。

 何があるわけではないけど、この街の中でもっとも広く開放的な場所なので、留まりたい気分にさせてくれる。けれど、そんな想いを裏切る出来事が起きた。

 放射の道からカラカラっと風車の回転する音が聞こえてきたのだ。広場にいた人は留まったり放射の道に入ったりしている。残念だけど去るしかないと思い、腰を上げて道のひとつに入り、広場のほうを向く。すると、そこには四人が立っていた。ここに”竜巻”が来る!? そういえば、竜巻をみるのはこれが初めてかもしれない。

他の人と一緒に中央広場の推移を見守る。

 四人のうち一人は細身の男の人。一人はモデルというより風俗に近い格好のお姉さん。残念ながら私が知り合った人ではない。一人は下を向くお爺さん。最後は少し太ったいわゆる”おたく”っぽい男の人。お爺さんだけはなぜかそわそわしていて落ち着かない様子。

 少し間があって、急に風を感じるようになる。どこから吹いてくるかと思ったら上空からだった。広場の周回を巻くようにして回転し、勢いは放射の道にまで及んでいる。風の音はだんだんと大きくなる。風が”下りて”来ているのだろう。近くの風車はだんだん回転速度と音を増していく。

 風はついにはものすごい突風となって広場の平面を襲う。間接的に風を受けて長い髪が顔にまとわりつくくらいの強い風。あわててポケットからたまたまあったゴムを使って髪を縛った。数本が目の周りにまとわりつくけどもう仕方ない。少しは乱れは防げているから。それよりも中央広場を見ていたい。風はc地上に降りるとそのまま回転を続け、四人に向かって吹いている。四人のうち三人はうまく風に乗り、すでに足をつかずに風まかせ。一人だけ、風の中を泳ぐようにしてあわてている人がいる。あのお爺さんだ。白髪を上空に向けて立たせながら宙返りしたり空に背を向けたりしている。叫び声をあげているのもお爺さんだけだ。

「た、た、たっすけてくれぇーっ!」

 なぜ彼が助けを求めたのか、このときはわからなかった。

 よく見ると竜巻は中心に向かって吹いているようで、中心に白い柱ができつつあった。その白の正体はもちろんあの雪で、すぐに中心全部を飲み込んで雪の柱を作った。まるで”柱”を風が守っているようにも見えた。

 風はいよいよ上空に向けて吹き始める。細身の人、派手なお姉さん、おたくの人と順番に上空へと吹き上げられていった。お爺さんの番になり、少しずつ体が地上から離れていく。

「わ、わしは、わしはぁーっ!」

 道を分ける建物の高さを超えると、お爺さんを見ていた人の目が私を含めて凍り付いた。ほかの三人と同様に上空に消えていくのかと思ったら、勢いを増して回転に耐えきれなかったのか、竜巻からはずれて街の外に放り出されていった。お爺さんの叫びはいよいよ大きくなったがやがて風とともに聞こえなくなった。

 竜巻は誰もいなくなった広場を後に上空へと消えていく。そこにはベンチだけが寂しく残り、中心にあった雪は残骸一つ残さず消えていた。

 人々は再びだんまりと歩き出した。あのお爺さんは、おそらく道を見つけずに風に乗ろうとしたんだ。なんとなくそう思った。あのひとは結局この街から出られたのだろうか。もし出られるのなら・・・と一瞬頭をよぎったけど、すぐに消えた。仮に出られたとしても、今の私のままではだめ。そこのところは強い確信があるから。でも、どうしたらいいのか、見当もつかない。そんなもやもやのまま、私はこの街を歩き続けている。

結論までの道筋はあるのですが、過程を書きたいがためにゆっくりとした展開が続いています。

たぶん、たぶん残り3話です。

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