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第4話 風とお姉さん 前編

ふたりめの出会いです

彼の残したメッセージは、私をもっとも驚愕させた。メモ用紙に書かれたその文字は子供らしい角張った字で、読みやすいように何度か消しゴムで消した跡があった。


 いったい彼になにがあったの? ここからでる方法が見つかったの? 寝ている間になにがあったの?

疑問符が頭の中を駆け回る。テレビもない、ネットもない、携帯電話は持っているけどもちろん圏外。彼に関する手がかりはなにもない。

 とにかく、彼を捜すことにした。用意をして階段を駆け降り、雪が降り続いている町中に出る。外周、中央広場へ続く道、中央広場。くまなく探したつもりだけど、やっぱり見つからない。二時間ほど探してまた靴が濡れて冷気を感じ始めたことで興奮が冷めて皮肉にも落ち着きを取り戻した。

 相変わらず街はどこか暗い。目を合わせようとしても、合っても目を背けられる。雪を踏みつける音が妙に大きく聞こえる。今頃になって、ようやく今の状況が怖くなってきた。今の私は、まぎれもない現実の私。認めたくないけど、認めないといけない。眠って起きれば日常が戻ってくるなんて軽く考えていた自分が情けなくなってくる。コートを深々とかぶり、いつのまにか自分の足だけを見ながら歩き始めていた。


 前を見ずに歩いて三人ほどぶつかり、足の冷気をあたりまえのように感じ始めた頃、初めて聴く音が聴こえてきた。カラカラカラ・・・と、何かが断続的にこすれる音。その数はふたつ、みっつ、ううん、いくつも聴こえる。その音が気になりだし、なんとなく顔を上げる。すると、今までになかった光景がそこに展開していた。

 下を向いていた人たちが顔を上げて走り出し、建物の中に入ったり、中央広場への道に隠れたりしている。そして、音の正体が風車だとわかった。地面に突き刺さっている風車が、今までになく激しく回転している。カラフルな風車はその軌跡で丸い円を描き、小さな花が咲いたような姿を見せてくれる。中心が白で、様々な色の小さな花びらが上下左右に広がっている。風車の音は少しずつ大きくなり、回転スピードも上がっているように見える。外周にはまだ何人かが残っている。ある人は仁王立ちし、ある人は何かを迎えるように両手を前に向けている。私はどうしていいのかわからず、あたりをただ見回している。冷たい風が何かを促すように当たってくる。そこへ、強い力で腕を引っ張る何者かが現れた。

「あんた何やってるの!? 早くこっち来なさい!」

 女の人の低めの声がする方向に無理矢理引っ張られ、中央広場へ続く道へと引きずり込まれる。その衝撃で尻餅をついてしまった。ほぼ固まっている雪の上に思い切り落下してしまった私を、両脇を担いでさらに奥へと引っ込ませる。その反動でお尻をこすり、頭も固い雪の上にぶつけてしまった。さすがにちょっとカチンときて、誰にともなく怒りをぶつける。

「いったぁーい。。。な、何するんですか!」

 姿の見えない相手に文句をぶつける。

「ごめん。静かにして。あとで説明するから、そのままでいて」

「そのままで、って、いったいなんなんですか?」

「いいからじっとして。よく見てなさい。もうすぐ始まるから」

 低い声が少し迫力を増して私に襲いかかる。その声に萎縮してしまい、じっと動かずにいると、すぐに異変が始まった。

 雪雲特有の白い雲にグレーがかった薄墨の雲に覆われだし、風がさらに強くなってきているのがわかる。

 何かが起こる。それだけはいくら鈍感な私でも理解できた。

 雷が落ちる前のうなるような音を空が響かせている。私の後ろに何人いるかはわからないけど、みんな息を殺して経過を見守っているようだ。空の音が断続的になり、数秒経つと一気に静寂が訪れた。しかし、それは最終段階の合図だった。ものすごい音をたてて空から強い風が吹きおろされてきたのだ。外周への交差点からかすかに雲の上から粉雪が吹き降りてくるのが見える。外周に接続する道の正面にいる私の髪は直接こない風にかき乱される。

「きゃああっ」

「うわああっ」

 後ろで叫び声が聞こえるけれど、自分自身髪が視界を遮りそれどころじゃない。脇の拘束が外れていることも認識できず、お尻をついたまま腰を抜かしている。

風は地上降りると外周に向かって数十秒に渡って吹き続ける。まるで駅で新幹線の通過を待つような音と衝撃と髪の乱れを誘発する。そのうちに上空から降りてきた風と別の風がぶつかりさらに風力が増してくる。この道に入り込んでいなければ吹き飛ばされていたことは間違いない。風車の回転する音はもはや何も聴こえず、ただ風が通りすぎる轟音だけが耳に入る。数分経って、建物の隙間からその風が雲の上に吸い込まれていくのが見えた。そこにいくつかの人型のつぶつぶが見えるのが気になったが、それ以上に、風がピタリと止んだことのほうが気になりだした。轟音は私の後ろ、おそらくだいぶ遠く、この外周の反対側から大きく聞こえるようになり、それも通過の終わった駅のように少しずつ名残惜しそうに消えていった。

 辺りは再び粉雪の舞ういつもの寂しい街へと戻っていった。私の後ろに何人かいたらしい人は、歩き始めて足音を遠ざけていった。


「大丈夫? ごめんね。急に引っ張ったりして」

 最初の女の人の声がまたした。しかし今度はとても優しい声だった。

「起きあがれる?」

 私はその声に応えず、無言で手をついて立ち上がり、振り向いた。

 少し背の高い女の人がそこにいた。自分を引っ張った腕は少し太めでたくましさを感じる。明らかに年上、大人の女性。

「あの、その、助けていただいて・・・」

 自分は助けられた、と思い、礼を言おうとしたけれど、彼女の返答はおもいがけないものだった。

「助けたわけじゃないよ。あんたはまだあそこにいちゃいけない子だと思っただけ」

 何を言っているのかまったく見当がつかない。

「あの、どういうことか教えてもらえませんか?」

「いいよ。とりあえず、ここじゃ寒いから、あんたの部屋に行こうか。部屋、ある?」

「え、ええ・・・」

 こういう場合”あたしの部屋に来ない?”だと思ったのだけど、なぜか私が彼女を招待することになった。

後編に続きます

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