第2話 散策
真っ白な空間に現れた門を開け、やってきたのは、どこかの街だった。さっきまで黒だけの空間と白だけの空間にいたためか、いくつかの色が混在してるこの光景が、とても新鮮に思える。地面は雪一色で、新雪のためか、踏み込むたびにサクサクという音が足から奏でられ、冷たさが足にしみてくる。
ふと後ろを振り返ると、そこには私の身長の数倍はある壁がそびえ立っていた。門を開けてそこを通ってきたはずだけど、周りに門らしきものはなにもなく、灰色の壁がただ並んでいる。うすうす思っていたけれど、これは夢なのだろうか。いや、きっと夢だ。夢なら何かのきっかけでしか抜けられないことを覚悟する。夢なら醒めて!なんてお願いするほど女の子してないから。ベタな小説だってあっさり醒まさせてはくれない。
これは夢。そう割り切ろう。だったら、まずは現状を知るために、この街を巡ることにした。
小雪が降っているけどコートのおかげで頭以外は濡れない。頭にかかった粉雪は、手で振り払うと、コートの模様になったり、溶けてどこかに消えたりした。
バッグの中に何かないかと開けてみると、手袋があった。お気に入りの毛糸の帽子は無い。雪の日なんて想定していない薄手のもの。頭は守れないけど少しでも寒さから身を守るため手袋をつける。・・・ないよりはいいかな。
一時間くらいかけて一周してわかったことがいくつかある。街は一周三十分くらい、道幅はどこも車一台が通れるぐらいであること。中心に続く道が全部で六つあること。中心には広場があってベンチがいくつかあること。外周の内側と中央広場に続く六つの道沿いは住宅と商店が連なっていること。そして、この街に”出口”が無いこと。
そう、この街はどこにも外に行く道がない。でも、夢なんだから当然だろうと妙に納得してしまった。頭の悪さが幸いしたかもしれない。
じっとしていても寒いだけなので、とりあえずゆっくりと歩き始める。なにもしていないよりはいい。今度は少しじっくりと周りを見てみることにした。
おじいさんから子供まで、たくさんの人が厚着で歩いている。その誰もが、うつむいているか、悲しそうな顔をしている。まるで空のように、心にもやがかかり始めるのがわかった。私が話しかけようとすると、足早に逃げていく。そして誰とも話そうとしない。
雪はその結晶の中で音波を弾かせる。音波はやがて勢いをなくして消えてしまう。だから雪が降ると静かになるんだと以前聴いたことがある。話しかける声の私がどうやら一番うるさいらしく、周囲の目が一層冷ややかになっていくのがわかった。
もうひとつ、気づいたことがある。地面に風車が挿してある。有名な時代劇で隠密がメッセージを届けたり武器に使うあの風車。モノトーンの世界にあって正直言っていw間がある。赤、青、黄色、緑、ピンクなど様々なバリエーションがあり、積もった雪に無造作に挿されている。人が通るとその勢いで少しだけ回転し、小さな風の音を奏でる。縁日でしか見たことのない風車の前にしゃがんでふっと息を吹きかけると、勢いよく回転する。しんしんと降ってくる雪の中で、いったい何の役に立つのだろう。
そう思っていると、どこかから声がかかった。
「おねえちゃん」
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