第1話 闇から光へ
気がついたとき、私は暗闇の中にいた。何も見えない闇の中で、単純に目が覚めたという状態。手のひらを自分の目の前に出してみても、白魚とも言われる女の子の指も含めて輪郭さえ見えない。
服装は、たぶん制服。シャツの冷たさとストッキングのピリピリ感を肌で受けていたから。ブレザーにカジュアルコート、少し短めのスカートにストッキング。肩に重みを感じるということは、ショルダーバッグを提げているのだと思う。四角く固い、上のほうにチャックのようなものがあるので、学校に持っていっているバッグ。定番すぎるいつもの通学スタイル。
さっき目覚める前に何をしていたのか、実は思いだせない。学校に行くか帰るかする途中だったのだろうか。よくわからないけど、暗闇の中にいることだけは間違いない。とりあえず、あてもなく歩くことにした。床に足をつけて一歩ずつ歩くけれど、靴音がしない。でも足だけは動いている。少しずつずれてくるショルダーバッグの肩ひもを直しながら。
しばらく歩いたのち、やっと体が見えるくらいに明るくなってきた。自分の格好を目で確認。やっぱり制服だった。違ったのはストッキングの色で、藍色ではなくて黒だった。横のポケットに手を入れると、予想通り手袋があった。黄色で中指のあたりに赤いワンポイントが入っている。かじかむ手をその手袋で暖める。頬に突き刺すような寒さの中で、ひたすら歩き続ける。
明るくなってきた、というよりは、周りが白くなってきたという方が正しい。純粋に真っ白な空間になりつつある。足下は寒いと言うより冷たくなってきている。いつのまにかザクッザクッという音とともに足が冷たいものに埋もれるように感じられる。どうやら雪の上を歩いているようだと、今更ながら理解できた。やっと明るいところに出たのは嬉しかったけど、その嬉しさはすぐに消えた。暗闇と今と、どこを歩いているかわからないことには変わりがないから。強いて言えば、自分の服装がわかったことと、今、雪の上を歩いているらしいということだけ。要するに、ただ歩くだけという状況にはわずかな差もみられない。静寂を破るのは、雪を踏む音と、自分のため息。
いつまで冷たい雪の上を歩かないといけないのだろう。
真っ白な景色のなかにすすこけた線を見つけたのは、雪を踏むようになってから二十分ほどしてから。靴下から冷たさがにじみ始めた頃。近づくほどその幅が広がり、正面が扉のようになっていることに気づくまでさらに十分かかった。色の変わっているその部分に到着し、後ろを振り返る。雪の上を歩いてきたことを伺わせる私の靴の跡が遠くへと伸びている。まっすぐ歩いてきたつもりだけど、わりと蛇行していた。
改めて門に向きあう。継ぎ目があるけど取っ手がない。開くことができないなら、押すしかない。こうみえて私は女の子のなかでも力の強い方だ。継ぎ目を中心に両手で扉を開ける。パァーッとまぶしい光が見えたかと思うと、その光の中に吸い込まれた。