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お仕事

呪いのプロを自称する女幽霊、ギャルの聖地で成仏を目指す

作者: 御堂
掲載日:2026/03/11

山田山市のギャルの聖地といえば、shandy(シャンディ)イオンモール山田山店である。

首都東京から離れた地方都市ではあっても、ギャルは日本全国に生息しており、ここ…山田山市も例外ではなかった。

ギャルの聖地であるので、客層はギャルばかりだし、店員も当然ギャルである。

ギャルの、ギャルによる、ギャルのための店。

それがshandyである。

shandyの店員はshandyで働いている事を誇りとしている。そして憧れの眼差しを向けられる事を自覚しており、また店員側もギャル客を仲間として大切に扱うため、常に繁盛している店舗であった。


そんなshandyイオンモール山田山店に、近頃新人店員が入職した。

名前は無い。

名前はないが、女幽霊である。

呪いのプロを自称する彼女の見た目は、

黒いロングヘアに白いワンピース、裸足。

某呪いのビデオで一世風靡した、あの有名な幽霊にそっくりである。

よって付けられた源氏名は【貞子】であった。


「サダっち〜?接客中顔かくすなってウチゆったよね〜?ガチ暗いからw ウチのピン貸したげるー!これ、めっちゃデコったヤツw」

源氏名・貞子(以下・貞子)の髪に、ゴテゴテに盛ったヘアクリップを刺して笑うのは、教育係の先輩店員・ゅち である。

ヘアクリップもゴテゴテなら、ゅちのネイルもゴッテゴテであるが、器用に指先を駆使して貞子の前髪をかきあげて留める。

「ぁ、う…アリガト…」

発語がたどたどしい貞子に、ゅちが破顔する。

「いーって、そゆの。ってかめーっちゃいいじゃん!やっぱ盛るの優勝すぎなんだけどwwwあ、いらっしゃいませぇー」

教育係のテンションに未だついていけない貞子が、髪に挟まれたクリップを鏡で確認する。樹脂で作られたスイーツの盛り合わせが、細長いピンの上に並んでいた。


白ワンピのいかにも女幽霊である貞子がギャルの聖地で働いている理由…。

それは単純に「呪いで食っていけなくなったから」である。

YouTuberとして呪いを普及させるべく奮闘してきた貞子だが、呪いと銘打ってる段階で、動画をアップした瞬間、GoogleのAIに「衝撃的なコンテンツ」「自傷・対人への危害」と判定されて即BANを食らう。

収益化どころか、チャンネルごと消滅の憂き目にあった。それも数え切れない程。

さらに井戸から出るだけの動画は、今の刺激に慣れた視聴者には「地味すぎw」「再生速度1.5倍で十分」「呪いに七日とか意味不」と酷評される始末だ。

そもそも、貞子は源氏名が貞子であるだけで、リングの貞子ではない。ただの呪いに特化した女幽霊というだけの存在だ。

なので、井戸から不気味に這い出る…。というのも二番煎じもいいところだし、今のZ世代はビデオというものをそもそも知らないのである。せいぜいが彼らの親世代が「懐かしいわね」と目を細める程度なのだ。

そして極めつけは、リングの貞子がホラー分野にとどまらず、公式野球の始球式に出たり、エンタメ要素強めの映画に出演していることだ。

そのせいで恐ろしいと言うよりは…どちらかと言えば、ドジっ子属性の幽霊という認知が強いのである。

令和の波に乗れず、やることの無くなった幽霊が最終的にとる手段は、一つしかない。


「そうだ、成仏しよう!」


ところが、成仏するにも手順がある。

まず名前が必要でその次が葬式代。そして線香代が必要なのだ。

真っ当に(?)亡くなれば、親族やら生前に委託を受けた人間やらが滞りなく死者を送り出すので問題は無い。

しかし、世を呪い、人を呪ってきた貞子である。

まず名前は真っ先に忘れたし、頼みのYouTubeも収益化はできない。

完全に詰みだったところに現れたのが、山田山市役所 特別相談係の佐藤という男だった。


「金がないなら働きなさい。そうですねぇ、これまで縁のなかった業界で働いてみては?あなた暗いんですから、底抜けに明るい職場がいいかもしれませんね。例えばあそことか」


そう言って紹介されたのがshandyだったのである。



「え、サダっちの服って白ワンピ一本勝負?ガチでウケるんだけどwww」

ゅち が閉店後の店内で笑い崩れる。ゅちのゴテゴテヘアクリップを付けた貞子は、着ている白ワンピを叩きながら頷く。洗い替えも一張羅も全てこの白ワンピ一本でやってきた。ゅちが床から起き上がりながら、ゴテゴテネイルの着いた指で涙を拭く。バサバサのつけまつ毛が少し濡れていた。

「じゃーさー!社割で服お迎えしちゃお?ウチが全身プロデュースしたげるー!絶対優勝すっから!」

「あ、う」

「いいって、遠慮とかー。ウチ服選ぶの好きだしーw」

葬式代と線香代もだが、まず名前を調べてもらうための調査費用も貞子が支払わねばならない。余計な出費は抑えたいところだったが。

初出勤の今日、先輩店員達と客層を見て、貞子もTPOというものを多少は学んだ。

「あ、そーだ!そしたらさ、髪もネイルもメイクもギャルにしていこ?どーせなら楽しく働きたくね?サダっち骨格優勝してっからぜーったい盛れるよ?」

「う?」

「イケるイケるー!テンチョーもサダっち磨きがいあるってゆってたし」

「…ぁ、あ」

「ギャル、マジで人生の解像度アガるよ?w」

ゅちがそういいながら、店中を回って次々と服や小物をカゴに入れていく。

「着回し効くヤツいれたから、これ着て明日からガンバろ!明日からメイクレッスンやっからね?」

ガシッと貞子の細く血色の悪い手を握るゅち。

彼女の言っていることの半分くらいしか理解出来なかった貞子だが、ギャルメイクの眼力に負けて恐る恐る頷く。ゅちが太陽よりも眩しい笑顔を見せる。

一瞬で昇天しそうになったが、貞子はどうにか耐えた。

昇天するより、もう少しだけ未知の世界(ギャル)を知りたいと思い始めていた。



貞子shandy初出勤から七日後。

未知の世界(ギャル)を満喫するギャル・サダっちは、一生懸命働いている。

発語もままならなかった初日に比べて、「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」位は人並みに言えるようになった。

ゅちが太鼓判を押した貞子の「骨格優勝」のおかげか。ギャル客からは理想的なイケてるギャルとして見られるようになり、ゅちのコーディネートのおかげで、店の売り上げも上々であった。

洋服代やネイル、メイク用品の費用はバカにならない。社割で買えるものは買い求め、メイクやネイルなどは ゅちや他の先輩ギャル店員からもらったり借りたりなどで凌いでいる。

ギャルは互助が基本だ。助け合い精神がギャルをギャルたらしめている。みんなで楽しく。この基本方針(ギャルマインド)を貞子は気に入り始めていた。



楽しいshandy店員としての日々であったが、店側として憂う問題はある。

クレームや納品の不備などは仕方ないが、仕方ないでは済まされないのが万引きである。

「最近マジで多くない?万引きとかタイパ悪すぎてシンプルに意味不」

いつも明るい ゅちが、商品を盗まれる事態に怒っている。これには貞子も同じように腹を立てていた。

「万引きGメンとか入れたいけどさー、ビジュアル的にウチらの店に馴染まないんだよねー」

メリハリボディにピタピタのTシャツを着た店長が、風を起こしそうな程に長いつけまつ毛を伏せて悩んでいる。

「ワンチャン、現行犯で凸るしかない感じ?」

「ソレなー」

閉店後の店舗で帳簿と納品のリストを前に、ギャル店員達が沈む。

現行犯確保なら得意分野かもしれない、と貞子は密かに思った。

「とりあえず、店内の見回りはシッカリやってこ」

長いネイルをものともせずに、店長が店員達を集めたグループLINEにメッセージを送っている。

貞子は、元呪いのプロとして目にものを見せてやる決意を固めた。



それは日曜日の昼間に起こった。

ギャルの聖地で、イマイチまだギャルになりきれていないJKが二人。ヘアアクセなどを扱うエリアでゴソゴソと不審な動きを見せていた。

元呪いのプロ・貞子は音も立てずに背後に忍び寄り、真後ろから二人の挙動を確認する。気配を消すことなどは幽霊にとっては朝飯前だ。

ヘアゴムとデコられたネコのヘアクリップを、制服のポケットにストンと落とした現場を目視する。スッと気配を消したまま、二人の後ろを着いて周り…店舗を出た所で、貞子は二人の目の前に立ち塞がった。

「うわっ?!」「ちょ、何?!」

悲鳴が店員達と客の目を集める。尻もちを着いて抱き合う二人を貞子は怨嗟のこもった表情で見下ろした。

元怨霊として激重な空気感を醸しながら、貞子は二人の前にしゃがみこんで、手を差し出す。

「…ポケット…ダセ…」

低くしゃがれた声にJK二人が震え上がる。

「ヌスンダ、モノ…ダセ…」

それぞれの制服のポケットを指さし、「誤魔化し厳禁」とばかりに詰め寄る貞子に、二人は震える手でヘアゴムとヘアクリップを取り出した。

「あーー!万引きじゃん!?」

駆けつけたゅちの大声に、店長が慌ててやってくる。

強制的に二人を立たせて店舗裏に連れていく店長とゅち。その背中を見送ってから、貞子は店舗を振り返った。

「サダっちやるーぅ!」

先輩店員と、ギャル客が貞子に拍手を送る。

決まりが悪くなって俯くと、ギャル客が貞子の肩を叩いた。

「おねーさん、マジでさんきゅ!shandy無くなるとかウチらギャルのガチで人生の死活問題だからさー!悪いヤツ、これからも成敗しちゃって!」

「う、ぅ」

紅くなった貞子の元へ、ゅちがやってきて破顔した。

「サダっちマジありがとうーっ」

コクコクと頷いたり首を振ったりと忙しい貞子に、ゅちが笑いかける。

「サダっちに基本方針相互互助(ギャルマインド)目覚めたのマジ熱い」

バサバサのつけまつ毛を瞬かせてゅちが接客に戻っていく。

貞子は思った。

やれる事はやった。と。

そして、

週払いの給料が出たら、つけまつ毛買おうかな、と。



貞子がギャル客に扮した万引きGメンとして活躍しだすのはこの後になる。

県内に5店舗展開するshandyの特別万引きGメンとして大抜擢されたのだった。

ギャルであるための出費は痛かったが、Gメンとしてのバイトの給料が思ってたよりも多く出たお陰で、近頃は貯蓄にも回せるようになった。

もう少し貯まれば本名を探すための調査費用が捻出できそうだ。

しかし本名がわかったとて、貞子はおそらく源氏名を変える事はないだろう。

ギャル達に「サダっち」と広く認識され始めたので、このままで良いや。と思うなどするこの頃である。


「ウチ…サダっちで、確だし……」

「…それが気に入ってるなら別に良いんですけどね。本名の調査結果の書類はちゃんと渡しましたから、ここにサインしてください。…すごい爪ですね、ペンとか持てます?」


市役所の佐藤とフードコートでそんなやり取りがあったとかないとか。





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