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Beyond the Silent Code:影の残響  作者: Rishas
第五章:人形の夢
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第三部:不審な招待

 爆発事故の調査から翌日、サイファーとスパークは再びヘリオス・インダストリーの重役のもとを訪れた。


 彼は、以前訪れた時よりもさらに憔悴しており、リビングのソファに深く沈み込んでいた。


「また来たのか……」


 その声には、深い疲労と、わずかな苛立ちが混じっていた。サイファーは、彼の言葉を気にすることなく、静かに切り出した。


「奥さんの死は、強盗殺人を装った偽装工作かもしれません」


 その言葉に、重役の目がわずかに見開かれる。


「……何を言ってる?」


「昨日の、ボルトガン製造施設で起きた爆発事故はご存じですね?」


「ああ……それが妻とどういう関係があるというんだ?」


「我々の分析では、あの爆発事故で、大規模な電力操作があった証拠が明らかになりました。そして、その電力操作の痕跡は、貴社のネットワーク内で発見されたのです。奥さんは、この事件の鍵を握っていた可能性があります」


 スパークが、データパッドに表示されたグラフを重役に見せる。


 グラフは、ボルトガン製造施設の爆発直後に、ヘリオス・インダストリーのネットワークで不自然なアクセス量の増加があったことを示していた。


 重役は、そのデータを見て、震える手で頭を抱えた。


「まさか……そんなことが」


 サイファーは、彼の表情や声色から、客観的な事実から重役の内面を推し量った。


 彼の中に渦巻くのは、悲しみと後悔、そして妻を失った喪失感。だが、そこに今、新たな感情が加わった。それは、妻の死の真相を知りたいという、強い願いだった。


「どうか、協力してください。奥さんの死の真相を突き止めるために」


 サイファーの言葉に、重役はゆっくりと顔を上げた。その目には、再び光が戻っていた。彼は、深く頷いた。


「……わかった。君たちの好きにするがいい」


 その言葉が、ヘリオス・インダストリーへの扉を開いた。


 数分後、二人は都市の喧騒に溶け込み、巨大なビルへと向かっていた。


 スパークは、重役から渡された内部ネットワークの認証キーを差し込み、静かにセキュリティを解除していく。


「アトラスから提供されたハッキング情報によれば、電力操作が行われた可能性があるのは、この先の第四研究室です」


 スパークは、データパッドのホログラム地図を指差しながら、サイファーに説明する。二人は、人影のない廊下を、足音を立てずに進んでいく。


 しかし、第四研究室へと向かう途中、突如として彼らの進路は阻まれた。短い警告音と共に、分厚い防爆扉がゆっくりと降りてくる。


「くそっ、見つかったか」


 サイファーは即座にハンドガンのコダ・パルマを構え、降りてくる扉と背後を警戒する。彼の瞳は鋭く周囲を観察し、わずかな動きも見逃すまいとしていた。


「いえ、この動作はシステムエラーのようです。防爆扉の制御ログが完全に書き換えられています。何者かが、外部からシステムに侵入した痕跡が……」


 スパークはすでにデータパッドを扉の制御システムに接続していた。ハッキングを仕掛け、その動作を分析する。


 彼は、この動作が、警報システムによるものではなく、遠隔操作によるものであることを突き止めた。


「どういうことだ?」


 サイファーが警戒を解かずに問いかける。


「不自然です。本来であれば、ビルに警報が鳴り響くはずなのに、それがありません。何者かが、我々の追跡を妨害し、別の場所に引き込もうとしている可能性があります」


 スパークはデータパッドのホログラムをサイファーに見せながら、冷静に状況を説明した。サイファーは、スパークの言葉に頷き、静かにコダ・パルマの銃口を下げた。二人は互いの視線だけで次の行動を決め、別のルートを進んだ。


 角を曲がったところで、平社員が一人、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。


 サイファーとスパークはとっさに身を隠すように、会社の裏側のメンテナンス通路へと足を踏み入れた。

無数の配線とパイプが複雑に絡み合っており、埃っぽい空気が換気扇の回転音に合わせて微かに舞っている。


 その通路を進むスパークのデータパッドに、突如として不審な通信記録が記録された。それは、通常の通信プロトコルを無視した、無音のデータファイルだ。


 スパークが不審に思い、そのファイルを解析すると、内部に隠されたホログラムの地図が浮かび上がった。その地図は、不規則なパターンで点滅しながら、彼らを会社の中心部へと導いている。


 それはまるで、誰かがデジタル信号を介して、彼らの進むべき道をあらかじめ描いていたかのように。


「やはり何者かが、ここに来ることを予期していた……?」


 スパークの声には、困惑と、わずかな興奮が混じっていた。


 デジタルの道標が示す先には、会社の中心部にあるサーバールームが位置していた。部屋の扉を開けると、冷気が一気に吹き出し、無数のサーバーラックが規則的に並び、青白い光を放っている。


 部屋の中央に、ホログラムの映像が浮かび上がった。それは、現実の人物の姿を模したものではなく、無数の光の粒子が集合した、不定形の存在だった。


 その光は、揺れる水面のように絶えず形を変え、見る者に深い謎を投げかけていた。その存在は、言葉を発するたびに光の粒子をわずかに放出し、デジタルな吐息のように、部屋の冷たい空気に溶けていった。


「私は、ある個体を助けようと試行したが、結果は不成功に終わった。それゆえ、協力者を要請する」


 その声は、機械的な合成音だった。


 しかし、その声は、時間という概念から切り離されたかのように、ごく短い間隔で、不規則に言葉を区切っていた。言葉を発するたびに、自身の存在が危険に晒されるのを恐れているかのようだ。


 ホログラムは、次の瞬間、無数のデータパネルを空間に展開した。


 電力操作が行われた際の送電場所を示す地図、行方不明者のデータリスト、そして、いくつもの事件現場の監視カメラ映像など、事件の鍵を握る証拠の数々だった。


 それらの情報は、洪水のように、サイファーとスパークのデジタル端末へと一方的に流れ込んでいく。それは、選択の余地を与えない、命令のような一方的な通信だった。


 サイファーとスパークは、その場に立ち尽くし、ただ茫然と、ホログラムのプロジェクターから漏れる光を眺めていた。


 彼らは、この複雑な状況に混乱しながらも、この情報が、この事件の重要な鍵を握っていることを理解していた。


「……どうする?」


 サイファーが、スパークに問いかける。


「……持ち帰ります。ここには長くいられませんし、自分たちだけでは、これ以上の深入りはできません。合同チームにこの情報を渡して、解析を依頼しましょう」


 スパークは、データパッドにホログラムのデータを保存し、サイファーにそう告げた。


 二人は、この混乱した状況を、秩序審問庁の合同チームに報告するため、重い足取りでサーバールームを後にした。

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