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Beyond the Silent Code:影の残響  作者: Rishas
第三章:枷を嵌められた真実
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第四部:静かなる騒音

 違法サイバネティクスを装着した容疑者の尋問は、全く進展しなかった。


 サイファーが「シャドウ・コール」を使っても、そこから拾えるのは、歪んだ強さへの欲望と、支離滅裂な意識の残滓のみ。義体の製造元や、背後にいる人物に関する具体的な情報は一切得られなかった。


 スパークが技術的な側面から分析しても、手がかりはほとんど掴めない。まるで、彼らが追っている存在が、意識の表面にすら痕跡を残さない亡霊のようだった。


「通常のやり方では限界がある。このままでは、奴らの尻尾すら掴めない」


 サイファーは、苛立たしげに腕を組みながら言った。彼は、かつて自分が追い詰めた暗部の住人たちが、ここまで狡猾で、そして悪質であったことを思い出していた。


 それから彼らが向かったのは、都市の外郭グリッドに近い、人通りの少ない路地裏だった。錆びついた歯車やガラクタがショーウィンドウに並べられた、埃をかぶった店。看板には『ラスティー・ギア』と記されている。


「待ってください、サイファー。なぜこんな場所に……? 秩序審問庁の正規ルートではない情報に頼るなんて……」


 スパークは、この無法な場所の空気に明らかな戸惑いを隠せない。彼の倫理観は、この路地裏の混沌とした雰囲気に強く反発している。薄汚れた壁、煙草の煙、そして怪しげな取引の囁き。すべてが、彼が信じる「秩序」とはかけ離れたものだった。


 しかし、サイファーはそんなスパークの様子を気にも留めず、店に入り、奥へと進んでいく。店の主人は、無口なノームだった。客が来ても気のない返事しかせず、探しているものを告げても、適当な部品を指差して追い返そうとする。


「ここの主人は気難しいが、お前の技術は彼を惹きつけるかもしれない」


 サイファーはそう言って、奥にある複雑に組み合わされた巨大な歯車の列を指差した。


 スパークがその巨大な歯車の前に立つと、サイファーは特定の順序で歯車を回し始める。ギアが鈍い音を立てて動き出し、やがて床がゆっくりとスライドして、隠された地下室への入り口が現れた。


 地下室に広がるのは、表の店とは打って変わって、薄暗い照明が灯る近未来的なバーだった。


 静かな空間に、旧時代のレコードから流れるアナログなジャズ音楽と、情報が飛び交うネットワークの電子的なノイズが、奇妙な調和を奏でている。その『静かなる騒音(サイレント・ノイズ)』こそが、このバーの名前の由来だった。


 このサイレント・ノイズに集うのは、表社会では決して交わらない者たち。違法なドラッグ売り、ボルトガンやサイバネティクスの武器ブローカー、審問庁の内部情報を探る情報屋、そして闇市場のギャング。全員がそれぞれの目的のために、静かに情報を漁っていた。


 バーの奥、監視カメラと多数のモニターに囲まれたプライベートブースに、一人の小さい男が座っている。男は、まるで埃の染みになったかのような、汚れた作業着を身につけていた。


 その姿は、たくさんのガジェットが取り付けられ、神経系に直接接続された複数のポートが、腕や首の後ろから覗いている。片方の義眼は、常に都市のネットワークの情報を追っているかのように微かに光を放っていた。


 その男、ノームのオウルアイは、サイファーの姿を捉えると、皮肉な笑みを浮かべた。


「おや、誰かと思えば、影の子じゃないか。審問官に出世したと聞いたが、まさか本当だったとはな。相変わらず、裏の世界のネズミを追いかけるのがお好きなようで」


 オウルアイの皮肉に、サイファーは薄く笑って返す。


「久しぶりだな、オウルアイ。相変わらず、薄汚れたガラクタの中で、俺たち審問官の邪魔をしてるようだな」


 オウルアイは、その言葉に笑みを浮かべた。彼の声は低く、乾いていて、まるで古本の紙がこすれる音のようだった。


 サイファーは、テーブルに一つのデータチップを置いた。


「違法サイバネティクスの製造元を追っている。このデータの分析を手伝ってほしい」


 オウルアイは、データチップを手に取り、腕の神経ポートからコードで接続し、内容を読み取る。彼の特別なサイバネティクスは、あらゆるデータの解析を行うことができる。彼の義眼の光が点滅し、膨大な情報が彼の脳内を駆け巡る。


「ふむ……これは面白い。旧時代の技術を応用しているな。使用者の生命を無視して、出力を最大化している。これは、並みの技術者ができることじゃない」


 オウルアイは、眉をひそめながら言った。その表情は、情報の正確性を探る探求者の顔だった。サイファーは、その表情から、彼が単なる情報屋ではなく、技術そのものに深い洞察力を持っていることを再認識した。


「この技術、噂では『カリブディス』という男が関わっているらしい。過去に秩序審問庁によって研究を凍結された優秀な技術者だが、その執着心は常軌を逸していた。彼は、技術を神と崇め、その力に取り憑かれていた」


 オウルアイはグラスを静かに置き、義眼を光らせてスパークの義体を検知する。その義眼は、まるで獲物の価値を査定するかのようだ。


「そいつは、この闇市場のギャング、『ゼパル・ジャック』と接触しているとの情報もある。名前は笑っちまうくらいダセえが、あいつは、単なる金銭目的の犯罪者じゃない。力に対しては狂信的な執着を持つ、危険な男だ。もし手を出すなら、ただじゃすまないぜ」


 オウルアイは、警告するように静かに語った。サイファーは、その言葉を無言で受け止める。


 その横で、スパークは言葉を失っていた。違法サイバネティクスの技術が、自分と同じく大学の研究室に籍を置いていた、優れた技術者によって生み出されたものだと知り、衝撃を受けていた。


 秩序を守るために使われるはずだった技術が、人々の欲望を歪ませ、闇を増長させるために使われている。


 彼の抱えていた葛藤は、さらに深いものへと変わっていった。

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