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Beyond the Silent Code:影の残響  作者: Rishas
第二章:不協和音の夜明け
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第十一部:新たな繋がり

 サイファーとサラマンダーの壮絶な戦いが繰り広げられている間、アトラスとスパークは、ボルトガンとドローンを駆使して施設のコントロールを奪取していた。


 アトラスのハッキングは、イグニスの残したセキュリティを次々と突破し、通路に設置されたタレットの制御を奪うことに成功した。


 スパークは、タレットを巧みに操作し、後続の「記憶紬の民」のメンバーを足止めする。彼らは、サイファーとシーカーがイグニスを制圧するまでの間、敵の増援を食い止めるという重要な役割を完璧に果たした。


 イグニスを打ち破ったサイファーと、気絶から回復したシーカーが指令室で合流する。アトラスは、サイファーの戦闘結果を冷静に分析し、その能力が戦闘の優劣を分けたことを理解していた。


「あなたの魔法は、私の予測モデルでは計算できない要素でした。しかし、その結果は……予測を上回るものでした。スパークのドローンとタレット操作も、見事なものでしたね。」


 アトラスは、サイファーとスパークの活躍を、皮肉を交えつつも、その有効性を認めざるを得なかった。彼の言葉は、サイファーの能力が論理では説明できない「変数」であり、それが今回は幸運にも功を奏した、という彼の本音を物語っていた。


 全員が庁舎へ戻った後、サイレン監督官が指揮を執る尋問が始まった。重く冷たい空気が漂う尋問室で、逮捕された信者たちは無表情に椅子に座っていた。サイレンは彼らを一人ずつ見つめ、静かに、しかし有無を言わせぬ威圧感を持って尋問を進める。


 スパークは信者たちのサイバネティクス義体から、アトラスは現場から持ち帰ったデータチップから、それぞれ「記憶紬の民」のネットワークに関する情報を抽出していた。


 サイファーは、尋問中の信者たちの目や表情から、彼らがアリアに心酔しているだけでなく、どこか深い悲しみや諦めを抱えていることを肌で感じ取っていた。それは、イグニスが最後に放った炎の中に宿っていた感情と、酷似していた。彼の脳裏には、燃え尽きていくイグニスの姿が鮮明に焼き付いていた。


 サイレンは、信者たちの尋問で得られた断片的な証言を冷静にまとめ始めた。監督官の鋭い視線がスパークを捉え、冷徹な声が尋問室に響いた。


「報告をお願いします。まずはスパーク、義体について何かわかりましたか?」


 スパークはデータパッドに視線を落とし、冷静に答えた。


「信者たちが身につけていた義体は、市販の一般向け製品です。ただし、エルフ向けのモデルが圧倒的に多く、販売時期も特定の期間に集中しています。これは、アリアが特定のコミュニティを標的としている可能性を示唆しています。」


 次に、サイレンの視線がアトラスへと移る。


「アトラス、データは?」


 アトラスは、自らのデータパッドに映し出された情報を確認しながら、理路整然と報告する。


「現場で回収したデータチップを解析したところ、あるメガコーポのプライベートネットワークへのアクセス記録がありました。その企業は、エルフが多く住む地区に本社を置いています。そのデータは、イグニスの義体がそのメガコーポの関連企業で製造されたものであることを示唆していました。」


 サイレンの視線は、最後にサイファーに向けられた。そこには、論理的なデータでは測れない「真実」を求める期待が込められているようだった。


「サイファー、あなたの直感からは何が?」


 サイファーは、信者たちの目を見つめ、彼らの心の奥底に触れた感覚を言葉にしようと、深く息を吸い込んだ。


「彼らの目には、イグニスと同じ悲しみと、諦めが宿っていました。アリアに心酔しているのは確かですが、それは信仰というよりは……救いを求める心です。おそらく、本拠地は彼女たちのアイデンティティと深く結びついた場所にある。」


 サイレンは、全員の報告を静かに聞いた後、自らの結論を下した。


「情報の一致を確認できました。皆の証言とデータが、アリアの本拠地がエルフ居住区画にあるメガコーポビル上層部であることを示唆しています。シーカー、現場からの情報と合わせて、最適な侵入ルートを割り出してください。次の目的地はそこです。」


 シーカーは、迷うことなく即座に返答した。


「了解です。最短ルートを分析します。」


 チームの解散が告げられ、各自が持ち場へと戻る中、サイファーとアトラスは一瞬、言葉なく視線を交わした。


 論理の体現者であるアトラスは、サイファーの能力を、解析不可能な「未知の変数」と静かに見定めていた。一方、サイファーは、アトラスの冷徹な分析が、自らの直感という名の道しるべを補強する、数少ない存在であることを理解していた。


 互いに相容れない流儀を持つ二人だが、今回の作戦には互いが不可欠であったという事実だけは、確かなものとして心に残った。それは友情でも結束でもなく、深い溝をわずかに架橋する、一時の協力でしかなかった。

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