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Beyond the Silent Code:影の残響  作者: Rishas
第二章:不協和音の夜明け
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第八部:突入作戦

 チームは都市の中心部にある巨大エネルギーコア施設へと向かう。


 施設は、無数のパイプとケーブルが張り巡らされ、都市全体に光を送り込んでいた。しかし、その光の源であるはずの施設は、異様なほどの静寂に包まれていた。


 施設の外壁は分厚い合金で覆われ、警備員が数名倒れているのが見える。致命傷こそ負っていなかったが、全員が意識を失っており、周囲にはエーテルの痕跡が微かに漂っていた。


 施設に到着したチームは、突入前の最終準備に入る。


 スパークが飛行ドローンを使い内部の偵察を試みるが、ドローンは施設の防衛タレットによって一瞬で撃ち落とされた。映像が途切れる直前に映し出されたのは、施設の中枢がすでに「記憶紬の民」によって乗っ取られている様子だった。


「施設中枢は乗っ取られている。指令室の奪取が必須条件だ。技術に長けたスパークは私とともに、壁を登って直接中枢を狙う。サイファーとシーカーは、正面から突入し、注意を引き付けろ。」


 アトラスの指示は冷静沈着だった。タレットの死角を縫い、チームは施設の指令室のある建物に近づく。アトラスとスパークは、グラップリングフックを使い、壁をよじ登り、上層階の通気口から施設内に潜入する。


 グラップリングフックが壁に突き刺さる鈍い金属音と共に、アトラスとスパークは垂直な壁を軽快に駆け上がっていく。


 スパークの全身を覆うサイバネティクス義体は、その重量をほとんど感じさせず、彼の動きを加速させる。一方、アトラスは最小限の義体ながらも、特殊なハーネスとパワーアシストスーツで、スパークに遅れることなく壁を登っていた。


 二人は、タレットの死角を完璧に把握しており、まるで影のように静かに上層階へと近づいていく。


 一方、サイファーとシーカーは、メインゲートを破壊し、建物内に突入した。


 しかし、中の様子を窺うとそこは無人だった。壁は焼け焦げ、破壊された機材が散乱している。彼らの警戒心はさらに高まった。


 サイファーは影のエーテルを身にまとい、シーカーは義足の出力を上げ、いつでも動ける態勢を取った。


 二人が建物に潜入した途端、「キーン」という電子音とともに、天井の複数のタレットが起動し、赤外線、光学、そしてエーテルの波長で二人を補足した。タレットの銃口がスピンアップし、無数のボルト弾が襲いかかる。


 一斉射撃が始まった。無数の弾丸が放たれる轟音が室内に響き渡る。ボルト弾は、鋭く空気を切る音を響かせながら、壁に次々と突き刺さっていく。


 壁の分厚い合金装甲に弾かれるか、あるいはめり込んでいくたびに、甲高い金属音と火花が散り、そのたびにコンクリートの粉塵が舞い上がった。


 シーカーは、その射撃を飛ぶように避ける。彼女のサイバネティクス義足は、単なる歩行補助装置ではなく、瞬時に加速と制動を制御し、人間の限界を超える運動能力を発揮する。サイファーは「シャドウ・ステップ」を使い、影に身を隠す。


 直後、複数の信者たちが通路から姿を現し、包囲した。サイファーはボルトガンで攻撃を試みようとするが、敵のほうが早かった。


「まずは魔法使いをつぶせ!」


 リーダーらしき信者の声が響く。そして、信者たちの手が向けられた瞬間、その場の空気全体が複数の高周波ノイズで軋み、無数の青白い光の粒が凝縮されていく。


 次の瞬間、空気を切り裂くような甲高い破裂音とともに、次々と光の矢弾が放たれる。まるで意思を持ったかのように、サイファーへと殺到する。


 その圧倒的な攻撃は、彼が身に纏う影のエーテルを地面に縫い付けた。肌を焼くような熱と、無数の針で刺されるような鋭い痛みが彼を襲った。


 シーカーが、タレットの掃射を、まるで飛ぶように、壁を蹴り、回転し、加速と制動を繰り返しながら避けつつ、信者にサブマシンガンを向けようとした瞬間だった。


 空中でギラリと光る太いボルトが彼女の視界の隅に入った。


 ボルトは体の右に外れ、背後の壁に大きく穴をあけ、貫通していた。サイファーを援護しようと体をひねっていなければ致命的だった。


 その狙撃手は、全身を黒いフードとマスクで覆い、手には特殊な改造が施されたスナイパーライフルを構えていて、すでに次の狙撃場所に向かって動き始めている。


 彼は、記憶紬の民の「運び手」と呼ばれる、隠密行動に長けた暗殺者だった。放置はできない。


 サイファーとシーカー、二人は別々の戦いを強いられることになった。


 シーカーは、薄暗い回廊の影に潜む「運び手」の動きを、自身の追跡システムで正確に予測し始めた。彼女の義足から発せられる微かな振動音は、足音を完全に掻き消し、彼女自身の存在を隠す。


 彼女の強化された視覚センサーが、微かに揺れる空気の流れを捉え、敵の動きを先読みした。まるでチェスの名手が次の手を読むように、彼女の脳内で「運び手」の行動パターンがシミュレートされていく。


「左方向、障害物の後ろに移動……次の一撃は、頭部への狙いか……」


 シーカーは、敵がスナイパーライフルを構え、彼女の頭部を狙おうとしたその一瞬、彼女は素早く身を翻し、精密なボルト弾を敵の手に撃ち込む。このボルト弾は、強力な麻痺弾だった。


「運び手」の体の機能を一時的に停止させた。 シーカーは、静かに勝利を確信した。そして、「運び手」は、麻痺した義手を苦痛に歪ませながら、ボルトガンを落とす。その隙を逃さず、シーカーは次の動きへと移る。


 彼女は、影に潜む「運び手」を追跡しながら、彼の背後に回り込み、精密な射撃を加える。彼女の追跡システムは、彼の僅かな体温の変化、呼吸音の乱れ、そして義体の冷却システムから漏れる熱を全て検出し、彼の逃走経路が手に取るようにわかる。


「運び手」は、シーカーの追跡から逃れようと、通路の先へと逃げ込む。しかし、彼女はアトラスの「記憶紬の民」の組織の情報と、サイファーの「影の思念」から得た情報、つまり「運び手」がよく使う隠れ場所や逃走経路の選び方の「癖」を事前に知っていた。


 彼女は、彼の退路を断つように回り込んだ。 通路の角で待ち構えていたシーカーは、姿を現した「運び手」に、再び精密な麻痺ボルト弾を放つ。麻痺弾を受けた「運び手」は、その場に崩れ落ち、意識を失った。


「サイファー、あなたの情報は、私のシステムを見事に補完してくれましたね……」


 シーカーは、心の中でそう呟いた。サイファーの能力が、自身の限界を超える助けとなることを肌で感じ、彼への信頼を確かなものにしていく。


 シーカーが「運び手」を追いかけている間も、背後からタレットの射撃音と、魔法使いの攻撃から発せられる衝撃音が響いていた。


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