第六部:凍てついた連携
商業区画での現場検証を終え、チームは秩序審問庁の無機質なオフィスへと戻った。
現場で感じた重苦しい空気をそのまま持ち込んだかのように、四人の間には沈黙が流れている。
サイファーの苦しむ姿、アトラスの論理的な苛立ち、シーカーの追跡システムが混乱する様、そしてスパークの無力感。それぞれの胸に抱えた不協和音は、部屋の冷たい空気の中で、さらに大きな音を立てていた。
監督官室では、サイレンが彼らの報告を静かに聞いていた。
サイファーが語る「シャドウ・コール」を通じて得た「自由」を求める信者の思念。
アトラスが報告する、論理が通用しない矛盾したデータ。
シーカーが報告する、物理的な痕跡の欠如。
どれもが、彼らの世界の常識では説明のつかないものだった。サイレンは指先を組み、無表情のまま、一つ一つの報告を注意深く評価する。
「サイファー審問官の報告は、一見すると非科学的に聞こえます。しかし、アトラス審問官のデータと突き合わせると、矛盾点はない。テロリストの攻撃起点は、あなたの言う公園広場で間違いないでしょう。」
サイレンの言葉は、まるでサイファーの直感と、アトラスの論理を、一つのパズルのピースのように組み合わせて見せた。
報告のさなか、アトラスは、自らのデータがサイファーの理解不能な情報と一致したことに、内心で驚きと不満を隠せないでいた。彼の論理は、魔法で過去が見えるなどという、説明のつかない、彼の最も嫌う事象によって、初めてその正しさを証明されたのだ。
「今回のテロは、単なる復讐や破壊が目的とは思えない。破壊された建物、爆発の規模、そして信者が残した痕跡……全てが、特定のメッセージを伝えるためにしては、あまりにも手が込んでいます。いま一度、『記憶紬の民』の行動を洗い直します。そして、彼らが本当に目指しているものは何か、テロの裏に隠された真の目的は何なのか、すべての可能性を考慮して解析しなさい。」
監督官室での報告が終わり、サイファーとシーカーが休憩室へと向かう。
残されたアトラスとスパークは、それぞれのデータパッドを携えて作戦室の隅にある情報解析ブースへと向かった。ブースに到着すると、アトラスはため息をつきながら、スパークに冷ややかに言った。
「私のハッキング技術とデータ解析能力は、あなたの特殊な機械技術とは相性が良くない。それでも、私は論理的な根拠を最も重要視する。今回のテロの起爆点は、物理的な力と魔法的な力が混在しているようだ。スパーク審問官、あなたの取得してるエーテル反応の詳細データを私に提供してください。」
アトラスの言葉は、まるでスパークの技術を軽視しているかのようだったが、スパークは動じることなく、黙ってキーボードを叩き始めた。
彼の指先が紡ぎ出すコードは、アトラスのデータ解析プログラムとシームレスに連携し、「記憶紬の民」の膨大な情報の中から、新たな真実を導き出そうとしていた。
スパークの機械いじりの技術力と、アトラスの冷静沈着な情報分析力が、ここで初めて効果的に連携した。二人の作業画面には、これまでのデータがまるで一つの生命体であるかのように、有機的なつながりを持ちながら表示されていく。
「なんとこれは……スパーク審問官のデータは、私の予測モデルと完璧に合致した。やはり、機械は裏切らないな。」
アトラスは、自らの不満を押し殺すかのように、スパークの貢献を渋々認めた。スパークは、その言葉に軽く皮肉を返した。
「アトラスさんだって機械とほとんど変わらないじゃないですか。あんたの優秀なデータ解析能力も、自分のドローンなしには役に立たないでしょ?」
アトラスはスパークの言葉を盛大に無視した。
しかし、彼の内面では、今回のデータ解析が普段よりも異常なほどスムーズに進んだことに、微かな違和感が生まれていた。
いつもなら、膨大なデータの海から気の遠くなるような作業を繰り返して見つけ出す関連性が、まるで誰かがお膳立てしてくれたかのように、淀みなく表示されていくのだ。
アトラスは、その違和感を「偶然の幸運」と都合良く片付けることにした。論理がすべてを説明できないという事実をわざわざ認めることは、彼にとってあまりにも耐え難いことだったからだ。
二人の連携によって、次のテロの可能性がある場所が複数示された。それは、都市の電力供給を担う、巨大なエネルギーコア施設だった。