第二十四話 花は何色?
僕は急いで花屋の裏に向かった。綺麗な桜の木々が舞う中、僕の好きな人が立っている。
僕は彼女、園川さんに近づく。
何か思い詰めているようで、話しかけづらいがこのまま放っておくわけにもいかない。
『園川さん、ごめん、お待たせ』
僕がでんごんくんを使って話しかけると彼女は飛び跳ね、こちらを向く。
『ご、ごめん! 驚かせちゃったね』
『ううん! いいの! 私がぼーっとしてただけだから』
園川さんはそういって、手で髪を整えている。
『用事は済んだ?』
『あ、うん』
緊張で口がカラカラになってしまう。
でんごんくんの操作も焦らず、落ち着かなければ間違えてしまいそうだ。
『なんの用事だったの?』
園川さんが可愛らしく、首をかしげる。
『ちょっと、花を買ってて』
『花? あ、分かった』
『分かったって?』
悟られてしまったのかと思い、身構える。園川さんは笑顔で言う。
『菜穂ちゃんにあげるんでしょ? いつもありがとうって』
『いや、違うよ』
『え~、妹想いじゃないな~水瀬くん』
『感謝はいつもしてるから、改めていう必要がないんだよ』
『ふふっ、シスコン』
園川さんは小悪魔のように笑う。
『シスコンじゃないよ! 家族だから、当たり前だよ』
『そうだね』
園川さんはなぜか満足げに笑う。
うぅ……。楽しい雰囲気だが、かえってそれがやりづらい。
『それじゃ、シスコンの水瀬くんはどうして花を買ったの?』
再び園川さんは首をかしげる。
ええい! こうなったら勢いで押し切るしかない!
『園川さんにプレゼントしようと思って』
『私に?』
園川さんは面食らったようで、固まってしまう。
『その……ほら! 手術が成功するように、願掛けになるかなと思って!』
僕は一輪の花を園川さんに差し出す。
『え、あっ、うぅ……』
彼女はかなり戸惑っているようで、あたふたとしている。
『受け取ってもらえたら嬉しいな』
僕は手を伸ばす。
彼女は手を少し震わせながら、恐る恐る手を伸ばし、花を受け取る。
『あ、あ……ありがとう。その、ごめんね! こういうプレゼントしてもらったことないからどうしていいかわかんなくなっちゃって』
両手で大切そうに花を持っている。
『僕も、誰かに花をプレゼントしたことないからすごく緊張してるよ』
『そ、そうなんだ…………』
沈黙が訪れる。
どうしたらいいのこれ⁉︎ 助けて菜穂!
僕が戸惑っていると、園川さんがゆっくりと口を開く。
『あの、水瀬くん』
『はい! なんでしょうか⁉︎』
『花、ありがとう。聞いていいのかな? この花はなんていう花?』
ああ、そうか!
この花には香りがないんだった。
『アネモネだよ』
『アネモネ……。私が今日、好きになった花』
園川さんは照れ臭そうに笑う。
『受け取ってくれるかな?』
僕は恐る恐る尋ねる。
『うん! もちろん! ありがとう水瀬くん。……ちなみに、花の色は何色なの?』
彼女は俯きながら、言う。
僕は緊張からか頭が真っ白になってしまった。
『水瀬くん?』
それを不思議に思ったようで園川さんは僕に近づくよう一歩こちらに歩み寄る。
『白だよ! 白いアネモネ!』
僕は焦りながら文章を打つ。
『白……。たしか、花言葉は〈真実〉、〈期待〉だったよね?』
『……そう! 手術の成功を祈ってさ!』
園川さんはアネモネに顔を向け、手で花に触れる。
『……ありがとう。本当に、本当にうれしいよ』
園川さんはアネモネを胸に引き寄せ、抱くようにして持つ。
『それならよかった。園川さんならきっと大丈夫だから』
『うん、ありがとう』
『それじゃあ、帰ろうか』
『あ、待って!』
園川さんが僕の服を掴み、引き留める。
『どうしたの?』
『私、手術が成功したら』
『うん』
『あっ……』
『え?』
『………………………』
園川さんは何かを思い詰めているようで、それきり押し黙ってしまう。
困っている彼女を見て、いてもたってもいられなくなる。
『何か言いづらいことだったら無理に言わなくてもいいよ』
『あ、うん……でも』
『また学校でも会えるしさ。僕は基本的に暇だからいつでも大丈夫だよ』
笑ってみせる。
『……うん。…………ごめんね』
園川さんは俯いてしまう。
『なんで謝るの。謝る必要なんてないから大丈夫だよ』
僕は園川さんの手を取る。
相変わらず、ひんやりとして冷たい。
『また、学校で会おう』
『………………』
彼女はまだうつむいたままで何も言わない。
そうこうしているうちに、紫織さんがやってきた。
どうやら、園川さんのお母さんが車で迎えにきたようだ。
『…………ごめんなさい』
『ううん、大丈夫だよ。それじゃあ、またね』
園川さんはいまだになにか落ち込んでいる様子で、大切に花を抱えてお母さんのもとへ行ってしまった。
どうして彼女はあんな様子だったのだろう。やはり手術が不安なのだろうか。だとすれば、少しでも彼女の支えになりたい。それに、園川さんは僕に何かを言いかけていた。
それは、手術に対する不安の言葉だったかもしれない。僕はそれをきいて、彼女の力になりたい。
まだ手術の日程は未定だと言っていたので、学校でまた言おう。
そして、僕の気持ちも言うんだ。
僕は破裂しそうなほどの胸に拳をあて、決意した。
しかし――
月曜日、彼女は学校に現れなかった。




