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第十二話 この写真は意味があるのだろうか

 なんとか無事、パフェ屋に辿りついた。


 お店はオレンジを基調とした暖色でまとめられている。席の周りには細い糸のようなものが何本も重なり、カーテン替わりとなって席を半個室状態にしている。


 店員が入店してきた僕に近づく。僕は軽くおじぎをし、スマホのメモ帳を開いて店員に見せる。店員はそれを見て、納得した様子で僕らを席に誘導する。


 うん。上手くいった。


 実は前日、妹に協力をしてもらって、お店側に予約と僕らの事情を伝えておいた。

 お店側が快く受け入れてくれたおかげでスムーズに入店することができた。


 席に着くと、園川さんはおもむろに口を開いた。


『え、もしかして予約してくれてたの?』

『うん。紳士でしょ?』


 店員がメニューとお冷を持ってくる。

 僕はお冷に口をつける。


『自分で言わないでください。マイナス百点』

『採点からいなー』

『でも、ちゃんとエスコートして色々気を配ってくれたからプラス一万点です!』

『採点甘いなー』


 園川さんもお冷に口をつける。


『ふぅ、緊張が止まらないです』

『そうだね。人が多かったからぶつからないように来るのが大変だったよ』


 さすが休日。四方八方人だらけ。しかし、園川さんが持っている杖のおかげか、避けてくれる人が大半だった。


 それでも、急いでいる人や心無い人は平気でぶつかりそうで、なんとか避けながらだから、ここまで来るのに相当神経を使った。おかげで、徒歩3分のところを10分もかかった。


『うん、それもそうだけど……』


 歯切れの悪い様子でコップをテーブルに置く。


『その……男の子と一緒に出掛けるなんてしたことないから、どうしていいかわからなくて』

『ああ、なるほど。べつにいつも通りの園川さんでいいと思うよ』

『いつも通りっていっても……。つまらなかったらごめんね』


 ペコペコと頭を下げる。


『つまらないことなんてないよ。一緒にいられるだけで僕は楽しいから』


 そう言うと、園川さんは机の上を探りメニュー表を持ち上げ、それで顔を隠す。


『水瀬くんはまたすぐそういうことを言う。勘違いしそうでイヤ』

『勘違い?』


 僕が問うた瞬間、店員が僕らのテーブルにパフェを運んできた。瞬間、園川さんはメニュー表を離し、興奮気味に話す。


『水瀬くん! 水瀬くん! パフェ、きたみたいですよ』

『うん、みたいだね』


 園川さんは嬉しそうにはしゃいでいるが、正直、僕は驚きが隠せなかった。


 ――パフェが大きすぎる。

 一応、昨日のうち調べておいたのでパフェが大きいというのは知っていたが、改めて目の前にすると圧倒される。


 まずパフェの器が花束のいけてある壺並みにでかい。

 そして、器の中には大量の生クリームがぎっしりつまっている。クリームの上にはこれでもかといわんばかりにフルーツが敷き詰められている。まるでフルーツ畑のようだ。外枠は三日月状のメロンが飾られ、その内側にはチョコでコーティングされたイチゴが並んでおり、中央には円錐状のチョコケーキが鎮座している。


 メニュー表を見ると、そこには『百花繚乱 春の桜花パフェ』と書いてある。

 お値段2800円+税。学生には厳しい値段だ。


 パフェのあらゆるボリュームの大きさに恐れをなしている間、園川さんは今か今かと待ちわびている。パフェが大きいということは知っていたため、朝食を抜いてきてよかった。


 それにしてもだ――


『すごい大きさなんだけど、食べられるかな』


 僕が不安を口にすると、園川さんが楽し気に応える。


『大丈夫です! 食べられなければ全部私が食べるから。この日のために昨日の夜から何も食べてないの』


 僕の上がいた。どれだけ楽しみにしていたのだ。僕と一緒に遊ぶことも嫌々ではなかったみたいで安心した。


『さて、どうやって食べようか』

『あ、たしかに。私も一応、どんな形かは聞いてはいたんですが、実際に食べるとなると難しい……。どこになにがありますか?』


 園川さんは首をかしげる。


『外枠にメロンがあって、その内側にイチゴ、さらにその内側にケーキがあって……これ、説明するの難しいな』

『そんなにすごいの⁉ うわぁ~楽しみだなぁ』

『とりあえず、お皿にわけようか』


 僕が皿を持って、パフェのフルーツを取り分けようとする。


『ちょっと待って!』


 すると、園川さんが制止した。


『何? どうしたの?』

『写真撮ってよ。記念に』

『え、写真?』


 写真、か。


 ここで写真を撮っても、意味があるのだろうか、と心の中で思ってしまった。

 たしかに、僕にとっては最高の思い出だ。自分の好きな子とデートをした記念になる。撮った写真を後で見返して何度も喜びを噛みしめるだろう。


 でも、彼女は?


 園川奏はこの写真を共有することはできない。ならなぜ、写真を撮ろうというのだろうか。僕が少しの間、硬直しているとすかさず園川さんが急かすように言った。


『うん。写真、撮って』

『わかった』


 僕がその理由の答えに辿りつく前に、僕はスマホのカメラを起動させた。巨大なパフェを後ろに、園川さんが年相応の可愛らしい笑顔でピースをしている。


 僕は、彼女に焦点をあて、シャッターを切った。


『上手くパフェ撮れた?』

『うん、ばっちりだよ』


 撮った写真を見返すと、巨大なパフェにはしゃぐ園川さんが写っている。


『その写真、見るの楽しみだなー』

『そうだね』


 まただ。彼女は当たり前のように、自分の目が見えるようになることを前提に話す。


『じゃあ、食べよっか』

『うん』


 僕は取り皿にフルーツとチョコケーキをわける。取り皿に分けても凄い量。しかし、パフェの残りも凄い量。終わりの見えない戦いが、始まる。


 うっ、食べる前から吐き気が……。



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