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第十一話 初デート

 週末になり、約束の日がきた。


 待ち合わせは、パフェが有名だと言われているお店がある最寄り駅の東口。


 天気は快晴。気温も暖かい。春まっしぐらなこの陽気に合わせて、休日の駅には大勢の人で賑わっていた。約束の20分前、僕はそわそわしながらスマホを眺めていた。


 無事に合流できるだろうか。


 園川さんは、親に送ってもらえるとのことだったけど、そもそも園川さんの親は僕との外出を許してくれたのだろうか。


 止められてしまうのではないだろうか。来られないのではないだろうか。


 一応、連絡先は交換したものの、電話やメッセージは僕らの間では意味をなさない。


 念のため、何かあって行けなくなってしまった場合は相手の連絡先に二回電話を掛けるという方法で伝えるようしているが、今のところ何の連絡もない。


 いっそのこと中止の連絡がきた方が安心する。いや、せっかく園川さんと遊べる機会を得られたのだ。この機会を逃すわけにはいかない。何度も、スマホの連絡先画面を開いては閉じるを繰り返す。


 そんなことを繰り返しているうちに、十分ほどが経過した。


 何度目になるかわからないスマホ画面のオンオフを繰り返した後、ふと顔を上げるとひと際目立つ存在に視線が吸い寄せられた。


 園川さんだ。


 白を基調とし、ところどころにピンク色が施されたロングワンピースにベージュのショルダーバッグを肩にかけている。


 普段、制服は黒のセーラー服であるため、そのギャップについ見惚れ、顔が熱くなる。


 今から僕は、あの妖精のような、天使のような人と一緒にいると考えると、僕なんかが一緒にいてよいのかという罪悪感さえ生まれる。とはいっても、このまま彼女を待たせるわけにはいかないので、僕は深呼吸をして彼女に近づいた。


『こんにちは、園川さん。水瀬です』

「…………」


 園川さんはこちらに顔を向けるものの、返事はない。

 どうしたのかと疑問を抱いていると、しばらくしてから口を開いた。


『水瀬くん、好きな食べ物は?』

 いきなりどうしたのかと驚いたが、これは先日話した通りだ。

『特に、ないけど』

 そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。

『うん、やっぱり水瀬くんだ。こんにちは』

『今のってなに?』

『テストです。ちゃんと水瀬くんかどうかを確認するための』


 そんなことをしなくても、このでんごんくんの合成音声で判別できそうなものだが、いやしかし、それほど警戒するくらい、彼女にとってこの外出は不安なものなのだ。


 改めて、しっかりしなくてはと自分に喝を入れる。


『テストは合格?』

『話の内容としては不合格だけど、こんな話で不合格とれるのは水瀬くんしかいないから、うん、合格だよ』

『なんだろう、嬉しくないな』


 いきなり精神的ダメージを負ったが、これで彼女の緊張がとれるなら構わない。


『それで! それで! おいしいパフェ屋さんはどこ?』

『ここから歩いてすぐだよ。行こうか』


 駅から歩いて徒歩、三分。もっと遠い距離ならタクシーを使ってもいいのだが、タクシーを使うのには微妙な距離だ。


『了解です! それじゃ、エスコートよろしくね!』

 パフェが食べられるのがそんなに嬉しいのか、普段よりもテンションが高い気がする。


 といっても、まだ出会って間もない。これが彼女の普段の姿なのかもしれない。僕はまだ彼女のことを知らないことが多い。今、こうして休日を一緒に過ごさなければ知れないこともあるだろう。


 そう思うと、嬉しくて胸が躍る。


『うん。エスコートってどうすればいいかな』

『頑張って着いていくであります』


 付いていくといっても、この人の多さだ。はぐれてしまってはひとたまりもない。今日は彼女に怪我をさせるわけにはいかない。僕がなんとしても彼女を守らなければならないのだ。


『じゃあ、行こうか』


 僕は彼女の手をとる。手は細く、少し冷たい。


『え、ちょちょちょ、なに』


 彼女は急に手を握られ、困惑している。


『怪我しないようにエスコートしてって言ってたから』


 彼女は驚いてはいたものの、手を離そうとはしない。


『……こういうの、その、私慣れてないから、恥ずかしいんだけど』

『僕もだよ』

『嘘です。水瀬くんはやっぱり遊び人です!』

『嘘じゃない。めちゃくちゃ緊張してる』

『……そうなんだ』

『うん。……そういえば親御さんは僕との外出を許可してくれたの?』

『あーうん、事情・・は話してないけど、私が友だちと出掛けたいって言ったら、嬉しさ半分、不安半分、みたいな。それで私がどうしてもって言ったら、納得してくれた。結局ここまでは車で送ってもらっちゃったけどね』


 事情・・。おそらくそれは同伴者の僕の耳が聞こえないことだろう。もし、その事情を園川さんの親が知ったら今日のことは無かったことになっていただろうか。


 そうなっていた、かもしれない。


 でも、園川さんは事情を言わないでそれでも来てくれたんだ。不安のある中でも来てくれたんだ。パフェに興味があるからだろうけど、園川さん自身が自分の世界を変えたいと思って今日は来てくれたんだ。


 だったら、僕はそのお手伝いがしたい。一緒にこうやって出掛けることが園川さんの世界が変わるんだったら、僕はその力になりたい。園川さんの親には嘘をつく形になってしまって罪悪感はあるけれど、それでも、僕は園川さんの世界を変えてあげたい。


 僕たちで、一緒に世界を変えるんだ。


 僕は改めて自分の役目を再認識し、細心の注意を払って園川さんを連れていった。


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