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詩やエッセイ

電波ソングをお兄ちゃんに!


2001年電気街の旅。


秋葉原や日本橋では、そびえ立つビルに足を踏み入れると、コケティッシュな少女が描かれた18禁アダルトゲームのポスターが所狭しと貼られていた。独特な癖のある萌えキャラたちが、高額なアダルトゲームやチープなグッズを求めて集まるお兄ちゃんたちを待っている。予約特典はそのポスターだ。


そこには確かに、夢があった。


このエッセイは、あの時代のお兄ちゃんたちが愛した電波ソングを紹介していく。


しかし、その前に電波ソングの魅力を知って貰うため、当時の空気感を味わってもらおう。一応創作だが、ほぼ実話の物語を書く。とはいえスキップして楽曲紹介から読んでもらっても構わない。当然YouTubeで視聴可能な曲ばかりだが、覚悟しろよ?



◇◇◇



西暦2000年、プロミュージシャンを目指していた若者が現実に打ちひしがれていた。自身のバンドでメジャーデビューは無理と判断した彼は、作曲家として生きる決心をした。しかし現実は厳しかった。


実は彼のバンドもデビュー寸前だったのだが、リリース前に音源を聞いたレコード会社所属の売れっ子タレントが


「だっさ! こんなバンド売れないって!」


と社長に言ったため、話が立ち消えたのだ。なお、黒い安息日はその若者と知り合いだったので、憤慨する彼から音源を聞かせてもらったのだが……本当にダサかった。これは売れん。さすが売れっ子タレント、流行りを読むセンスは確かなようだ。その時の私は若者の愚痴に適当な相槌を打つだけだった。何も言わない。


致命的にダサいセンスはともかく若者は演奏と作曲能力は本物、彼も仕事を求め頑張ったのだが現実はこうだ。まず会社が売り出すタレントを決める。次にお抱えのミュージシャンたちに曲を作らせる。仮歌を入れた数々のデモ音源を会社が聞く。審査して振り落としていき社内会議で重役が採用する曲を決める。以上。


コンペやん。サラリーマンやん。一次審査、二次審査ってなんやねん。会議で通る曲を作るために売れそうな要素固めて、テンプレに添った作曲をする流れ作業やん。しかも判断するのは会社重役でリスナーちゃうやん。こんなんしたくてプロミュージシャンなったんちゃうねん……



打ちひしがれる若者の、PHSから切り替えたばかりのケータイに、最近知り合った売れないイラストレーターから連絡が入った。



「もしもし、今度ゲーム会社立ち上げるんだけど……」



話を聞けば、売れないイラストレーターがエッチな絵をかいて、売れないゲームライターがストーリーを作り、売れない声優、無職のプログラマー、自称業界に詳しい人、元ゲームプランナー、その他怪しい連中を集めてお金を出し合いアダルトゲームを作るらしい。



「若者さんに主題歌を作って欲しくて……」


「いいよ、主題歌は誰が歌うの」


「とりあえず声優にやらせとこっかなって……」


「……いいよ、ちなみにギャラは?」


「それなんだけど、今はみんなでお金出し合ってて……」


「……」


「できたら若者さんにも援助してもらえたら……」



チッ。そういう話かよ。



「あっそう、で、ゲーム作るのに総額いくら必要なの?」


「400万くらいかな……」



やっす!アダルトゲーム制作費、やっす!普通ゲームって何千万とか億単位の開発費が必要なんじゃないの?知らんけど。売れないイラストレーターが言うには、みんなでお金を出し合って、自分で出来ることは自分でやって、コストをかけず制作するらしい。


若者は考えた。ギャラどころか融資してくれとはふざけた話だ。でも今のまま気が乗らない曲を作り続けて重役が審査を通してくれるのを媚びて待つより、初期投資が必要な趣味と割り切ってアダルトゲームの音楽制作に参加する方が面白そうだ。そこでやりたかったジャンルの主題歌を作って楽しもう。万が一売れるかもしれないしな。



「……わかった、参加するよ」


「本当ですか!ありがとう!ありがとう!」



結局製作費は倍近くに膨れ上がったが、それでも全員でお金を出し合ってなんとかゲーム製作は始まった。イラストレーターがデッサンの狂った美少女のCGを描き、ゲームライターが総勢48名の義理の妹と両親不在の一軒家で生活する狂ったシナリオを書き、メンヘラの声優が手首を切りながら棒読みのセリフを読み上げた。


若者は作詞・作曲・ギター・キーボード・ベース・ドラム・MIDI・録音・ミキシング・マスタリングを一人でこなし、すぐに泣くメンヘラ声優をなだめながら音痴な歌をレコーディング。なお、BGMや効果音も彼一人で制作した。


アダルトゲーム製作過程で何人かは失踪したが、それでもなんとか完成することはできた。若者は何度か発狂寸前まで追い込まれたが、実はそれなりに充実もしていた。やがてゲームは電気街の店頭に並べられ、アダルトゲーム専門誌にも掲載された。売り上げは……実はそんなに悪くなかった。今、2作目の企画が上がっている……



おわり。



注釈)

私が当時直接聞いた話では超最低ラインで400万だそうな。でも個人的にそれでは無理だろうと考えたので、作中では800万くらいと設定している。



◇◇◇



……凄く長くなったが、2000年頃のアダルトゲーム、当時の呼び方でエロゲー界隈・最底辺の空気感を少しでも感じてもらえると幸いである。


売れなかったり、個性が強すぎたり、ダサかったり、そんなクリエイターには夢のある業界だったのだ。全員が成功したわけでは決してないし、むしろ現実は厳しかったのだろうが、現在も生き残って一線で活躍する英雄も多数存在する。


私はミュージシャンで話を進めたが、小説家を目指す英雄たちも多く参戦し、エロいのを求めたお兄ちゃんに萌えより燃えを与え続けたニトロプラスやageなども語りたいが、今回はここまでとしよう。特にニトロは昔から女性フアンが根強い。装甲悪鬼村正にエロを期待すると地獄見る。沙耶の唄も。



では、これより以下は必ずYouTubeで動画を検索して見るように。そして、私が長々と時代背景を書いた理由を感覚で理解してもらいたい。もちろん物語は創作だが、まあ多かれ少なかれ、この業界は色々大変だったんだろうなと思いを馳せるのが正しい楽しみ方である。では、本編どうぞ。



◇◇◇



「ドキドキしすたぁパラダイス」

長崎みなみ (おねいさん)


一曲目から核爆発並みの破壊力である。もはやコメントも書きようがない。音程もヤバいがアニメーション (?) のセンスが致命的にキツい。細かく聞くとBメロ、時間で言うと0:48あたりの演奏がショボすぎて草。なお、ネットで「長崎みなみ 」をGoogle検索すると即年齢が表示されるのは止めてさしあげてください。おねいさんがかわいそうすぎます。



◇◇◇



「行殺新選組」

長崎みなみ (おねいさん)


再び長崎みなみ (おねいさん)、歌唱力は相変わらずだが、どういうわけか自信満々で歌っているため「しすたぁパラダイス」に比べて聞きやすい。しかしさすがはプロの声優、声がかわいい。なぜか私の音楽フォルダーに「はいぱぁ☆やっちゅー!!MEGA・みなみん♪」がmp3として残されている。買ったっけ?貰ったっけ?



◇◇◇



「巫女みこナース·愛のテーマ」

Chu☆


これは動画を見る必要はない。音源で十分。ていうか電波ソング界隈どころか当時のネットユーザーは知らぬ者ない超メジャー曲。老人ホームのカラオケ大会で巫女みこナースを熱唱する老人がそろそろ出現するかもしれない。オマエモナー。



◇◇◇



「PAPAPAPAPANTSUだってパンツだもんっ!」

高野真由子&いちごパンツ隊


狂ってる。タイトルで既に狂ってる。歌詞はもっと狂ってる。そして高らかに歌い上げる高野真由子、この人たぶん本物のプロシンガーでしょ?明らかに上手すぎ、尋常じゃない歌唱力。そんな彼女がこんな歌詞を大真面目に歌っているのも聞きどころ。逆に狂気を感じる。楽曲・歌唱力・狂気の三拍子が揃った電波ソングの金字塔。



◇◇◇



「凛花」

らいむ隊


サクラ大戦エロゲー版というべきゲームについてはここで語らないが、アニメも制作されるヒット作に。しかしサンテレビが夕食時に放送してしまい、苦情が殺到し大騒動となった伝説を残す。いつか作曲者にメロスピ好きやろ?とツッコミたいが、それ以上に気になる歌唱力! ぜひライブ動画を視聴されたし。特に「♪生き抜く者の~」の下りは必見。 萌える。なお、曲としては普通にカッコいい。私はいいと思う (完璧超人)



◇◇◇



「さくらんぼキッス ~爆発だも~ん~」

KOTOKO


電波ソングの最高傑作。歌詞、楽曲、センス、時代背景、知名度、全てが完璧。私が書いた最底辺のアダルトゲーム製作者たちが目指していた主題歌のクオリティはここにある。KOTOKOという名はエロゲ業界を超えて数多くのヒット曲を飛ばし、現在でも世界的に活動している。I'veすげぇ……

「恋愛Chu! 」「Princess Bride」などもおススメしておこう



◇◇◇



「天罰! エンジェルラビィ」

桃井はるこ (UNDER17)


アダルトゲームの主題歌ではないが、いわゆる電波ソングにカテゴライズされる。桃井はるこ (UNDER17) の楽曲についてはおススメに困る。実は筆者が個人的に好きすぎて選曲できないのだ。とにかく楽曲が良い。桃井はるこの作曲センスが素敵すぎる。歌唱力も声も好きすぎて辛い。「いちごGO!GO!」「ぽぽたん」「恋のMilkyway 」とりあえず全曲オススメ。ただし「インパク音頭」は無かったことに……



◇◇◇



「アキバで抱きしめて ~HOLD ON ME @AKIHABARA~」

大野まりな


電波ソングを語るのに大野まりなの名が上がらないのは、許されざる背徳行為と言えよう。この曲が名曲なのは言うまでもないが、個人的には胸を締め付ける古き良き時代、懐かしき憧れの聖地・アキバに思いを募らせる聖歌である。当時の秋葉原に通っていた人々がうらやましくて仕方がない。

残念なことに「あゆみちゃんLOVEALL」をお勧めしたかったのだが YouTube に無い……「まりなりなぁ」はあるのに……



◇◇◇



「Only Your Witch」

U


サーフロックやオールデイズ好きにお勧めしたい電波ソング。聞けばわかるがお洒落でキュート。絵柄もかわいく好きになりそうだが、エロゲーなのでエッチなシーンがあるらしい。この絵柄で?マジで?きっついわ!さすがに引くわ! Front Wing 狂気すぎやろ!なお、作画はガンダムのメカニックデザイナー。



◇◇◇



……所詮ニワカで素人の私に語れるのはこの程度、いつかきちんと資料を揃えた本物の文化人に電波ソング、そしてエロゲー (2000年代アダルトゲーム) 業界について語って頂きたいと私は切に願う。


私はこの業界にいたわけでも深いかかわりがあったわけでもないが、当時組んでいた泡沫バンドの一員として日本橋のイベントに参加したことがある。あの熱気は今思い出すだけでも心を奮い立たせる。コスプレイヤーや見るからにオタクなナイスガイに囲まれて夢心地だった。本当に幸せなひとときだった。


語りたいことはまだまだある、だがここで一度筆を置かせてもらう。



……と、我が家の老執事が申しておりました。


おわり。



話につながりのない謎の続編


「電波ソングをお兄ちゃんに!【炎の続編】」


よかったらどうぞお読みください


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― 新着の感想 ―
らいむいろ戦奇譚、懐かしいですね。 私は藁人形を持った眼鏡っ子の巫女さんである福島絹が好きでした。 後に戦奇譚は全年齢版がPS2で発売されましたが、続編の流奇譚XはPS2に移植されず仕舞いだったので少…
面白かったです(^o^) 桃井はるこしか知らんけど……。 はるこしか勝たん
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