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マリエの幻想

この話は今年起きた小さな恋の話だ。

僕が文化祭のお化け屋敷に卓球部と元卓球部の友達5人ぐらいと並んでたとき、この中で誰が一番イケメンかという話題になって議論してても埒が明かないから僕は近くにいた二人組の女の子に聞いたんだ。

「僕ってイケメンですよね?」

そしたら女の子はこう答えた。

「目が輝いていていいと思う。」

僕はそのとき女子と数年ぶりに会話したので褒めてくれた驚きと恍惚が入り混じった感情になって、思わず勃起しそうになった。

「本当ですか。」

そう言ったら、女の子が僕の手を急につかんでこう言った。


「あなたのこと気になっちゃった。一緒に回ろうよ。」

ざわついた。卓球部の輩どもの嫉妬の声、周囲のどよめき、何より、僕の心が一番ざわついた。なんだこの感覚は。この胸の高鳴りを恋と呼ばずして何と呼ぶだろう。

僕はその黄色い服を着た女の子に名前を聞いた。そしたら、

「あたし、マリエっていうんだ。よろしくね。」

マリエ。なんてかわいらしい名前なんだろう。この名前を付けた親御さんのセンスに脱帽。

それからもう片方の白い服を着た女の子の名前を聞いた。

ミユだってさ。もうほんとにかわいいんだから。

そしてそのあと模擬店などをめぐりながら、彼女たちとたのしい時を過ごしたんだ。

まあ楽しい時間ってのはいつか終わりが訪れるものであって、彼女たちが帰り際にこう言った。

「また遊ぼうねー!」

これはもうアオハルだなと。僕の鉛色の日々を鮮やかな青に染め上げてくれた彼女たちはもう天使と呼ばざるを得ない。

それで卓球部の奴らに自慢しようとそいつらがいる場所に戻ったら、そいつらが僕に対してこう言った。

「お前、おっさんに向かって話しかけてたぞ。」

オッサン?言ってる意味が分からなかった。

詳しく話を聞くと僕は知らないおっさん2人組にずっと1人で話しかけていたらしい。

当然僕は反論した。

「いや、何を言ってるんだ。いくら自分たちが女の子と回れなかったからって、嘘をついておとしめようとするのはどうかと思うぞ。」と。

そしたらこう返ってきた。

「この動画を見ろ。」

そう言ってそいつらが僕に見せた動画は、僕がマリエとミユと焼き鳥屋に並んでるときに楽しそうに談笑してた、はずの動画だ。


だが、僕は近くにいた知らない小太りハゲの中年のおじさんに話しかけていた。

これは何だ。たしかマリエの弟が野球のリトルリーグかなんかに入っていてピッチャーでエースみたいな話をしてたはずなのに。俺は巨人ファンのおっさんと今季の戸郷についての話をしている。

どういうことだ。頭の中が真っ白になった。意味がわからない。理解が及ばない。呼吸が荒くなってくる。気持ち悪い。吐きそうだ。

そしたらそいつはこう言った。

「お前おっさんとLINE交換してたよ。」 

そうだ、LINEだ。プリクラで撮った可愛いアイコンに友達と行ったであろうディズニー城での集合写真の背景。マリエの人となりが凝縮された「人生楽しんだもの勝ち」というステータスメッセージ。このようなかわいらしいLINEプロフィールが見れるだろうと思ったその途端、


「田中三雄 1972年10月7日生まれ 巨人ファンです。宜しくお願い致します。」

思わず倒れそうになった。めまいがした。俺は田中三雄と3時間近く文化祭を回ってたというのか。あまりにも女の子と接する機会がなかったから俺は田中三雄というチビデブハゲの3点セットが揃ったおっさんをマリエという女の子と思って話してたというのか。

そうだ、ミユのLINEだ。僕はミユのLINEのプロフィールに一筋の光が見えた気がした。一抹の希望を抱いてミユのプロフィールを探す。そして見つかったのはこの一行だ。

「藤尾和行 1972年5月17日生まれ 阪神ファン」

終わった。全身から力が抜けていく感じがした。

てか阪神ファンと巨人ファンどうしでよく仲良くできるな。どうでもいいか、もう。マリエとミユはいないんだし。

僕が、マリエ、いや田中三雄に手をつかまれたときの卓球部の奴らのざわめきの意味がやっと分かったよ。

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