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第七話

 エミールは嫌々ながらもアデルを夜会会場にエスコートし、婚約者としての役割を果たした。

 ドレスアップしてもアデルの地味さは変わらない。

 会場内で注目を浴びることもない女と一緒にいることなどに、エミールは意味を感じなかった。


 エミールは会場内を見回す。

 目的の令嬢は簡単に見つかった。


 今夜もイングリッドは美しい。


 つやつやのピンク色の髪を綺麗にセットし、ピンク色の唇はとても艶やかだ。

 髪の上で輝く金に青い石のはまった髪飾りも、大振りの金のイヤリングも、青い宝石のはまった太い金チェーンのネックレスも、彼女のために生まれたようにとても似合っていた。

 ピンク地に白い砂糖菓子のコーティングを施したようなドレスも、素晴らしく彼女を引き立てている。


 アクセサリーも、ドレスも、全てエミールがプレゼントしたものだ。

 イングリッドの為であれば大金も惜しくはない。

 婚約して良かったことと言えば、それなりの予算がついたことだ。

 アデルのために使う予算ではあるが、あんな地味な女になど何を贈ったところで代わり映えしない。

 適当なドレスをアデルに贈って誤魔化して、予算のほとんどをイングリッドに使った。

 後悔はしていない。


 予算をかけただけあって、今夜のイングリッドは素晴らしく美しいのだ。

 満足しかない。

 会場内の視線はチラチラと美しいイングリッドに集まっている。

 この素晴らしい女性は私の恋人だ。

 エミールは、そう叫びたい気分だった。


 楽団の奏でる曲が変わって、国王陛下がお出ましになった。

 王族のダンスが始まるのだ。

 彼らは一曲だけ踊りって席に着く。

 その後は、我ら貴族のお楽しみタイムが待っている。


 エミールは顔がニヤついてしまうのを止められなかった。


「さぁ、イングリッド。一緒におどろう」

「はい、エミールさまぁ~」


 エミール・カルローニ伯爵令息は、婚約者ではない男爵令嬢に向かって手を差し出した。

 彼女はその手を取り、エミールに体を寄せた。

 一曲目のダンスが始まると二人は、人々の踊りの輪の中へと優雅に滑り込んだ。


「エミールさまぁ~。アデルさまが、こちらを睨んでいますわぁ~」

「ふふ、可愛い君に嫉妬しているのさ」

「まぁ、エミールさまってばぁ~」


 一曲目のダンスは特別だ。

 本来であれば婚約者であるアデルと踊るべきなのだろう。

 しかし、エミールはイングリッドと踊りたかった。

 素直に自分の気持ちに従い、それにイングリッドは応えてくれた。


 エミールは幸せだった。


 一曲目のダンスが終わるまでは。

 彼としては二曲目もイングリッドと踊りたかったのだが、彼女がそれを許さなかった。


「それはダメですわぁ~。二曲以上続けて踊ることができるのは、婚約者か配偶者の特権ですもの。私とエミールさまは婚約すらしていないのですから、一曲でお終いにしなければいけませんわぁ~」


 イングリッドはそう言うと、いつもの華やかな笑みを浮かべてエミールの腕の中から離れていった。

 彼の愛しい恋人は、見た目通りの人ではない。

 引き際を心得ている賢い女性であることは、エミールも知っていた。

 

 エミールの手を離れたイングリッドのもとには、様々な男たちの手が差し伸べられている。

 イングリッドは彼の目の前で、そのうちの一人の手を取った。

 大きな商談をまとめて金回りが良いと噂になっている令息だ。


 イングリッドは人を見る目がある。

 だからエミールを恋人として選んだのだし、差し伸べられた手から一番良さそうな令息を選んだ。

 とても賢い女性だ。

 しかし――――上から下まで全てエミールが用意した物を身に着けているというのに、なぜ自分以外の者と踊らなければいけないのか?


(それもこれも、アデルなんかと婚約しているせいだ!)


 エミールは去っていく愛しい恋人の後ろ姿を見送りながら、ギリッと奥歯をかみしめた。

 そして、このままではいけないと強く思った。

 

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