第十六話
ほどなくアデル・キャラハン伯爵令嬢は、オスカーの妻となった。
商会を立ち上げた二人は、仲の良さと商品の良さで評判となる。
アデルが学園時代に作った人脈は、下位貴族から上位貴族、王族までと幅広い。
アデルは下位貴族からの繋がりを辿って、金を持った平民へと商売相手を広げていった。
利益は高いがリスクも高い高額商品については、紹介という形で実家であるキャラハン伯爵家の商会に任せ、実家に恩を売ることも忘れない賢い商売をしたのだ。
そしてアデルたちの商会は、平民でも手に取りやすい商品を武器に、販路を王都から地方へと伸ばしていく。
対してエミールの実家であるカルローニ伯爵家が所有する商会は、アデルたちの商会に客を取られて徐々に衰退していった。
エミールはというと、実家を追い出され、愛しいイングリッドにも捨てられて、その消息は不明である。
だが一度、アデルは商談に出向いた先で、派手な美人の平民マダムが、死んだ魚のような目をしたエミールとよく似た人物を連れ歩いている姿を見かけたことがあった。
それがエミール本人だったかどうかは謎である。
イングリッドは男爵令息と結婚して幸せになった……と思われていたが。
夫となった男爵令息の取引相手に軒並み色目を使う、と悪い評判が立つまでに、そう時間はかからなかった。
実際に夫が怪しげな現場に遭遇してしまい、イングリッドは両親共々捨てられた。
身持ちの悪い女との悪評が立って次の結婚相手どころか愛人になることもできなかったイングリッドは、貢がせた金銀財宝を売り払っても生活レベルを維持することは叶わず、領地経営から得られる僅かな収入で隠れるようにして暮らすこととなった。
その後、アデルとオスカーが立ち上げた商会は大成功をおさめ、キャラハン伯爵家の商会と肩を並べるまでとなった。
私生活では三男一女に恵まれて、アデルとオスカーは幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
~おわり~




