第十二話
エミールは父であるカルローニ伯爵の執務室へと呼ばれた。
「アデル嬢との婚約は破棄された」
その報告を聞いた時、エミールの心は歓喜した。
だが続く言葉を聞いたとき、彼は意味が分からなかった。
「お前は勘当するっ」
「なぜですかっ⁉」
エミールは心の底から驚いた。
跡取り息子はもとより、父の実子は自分しかいない。
実子である自分を勘当して、父はどうするつもりなのか?
「お前にカルローニ伯爵家は任せられない」
「ですが父上っ! 跡取りは私しかいないではないですかっ」
「親戚筋から養子を迎える」
カルローニ伯爵にしても苦渋の決断であった。
実子はいないが幸いにして優秀な者は親戚筋に沢山いる。
その中から選りすぐって、最適な者に跡を継がせよう。
カルローニ伯爵は、そう決断したのだ。
「だから後の事は心配いらない。お前は出て行け。そして男爵令嬢とでも結婚するといい。できるものならな」
「なんですかそれはっ。私を捨てるのですか⁉」
「ああそうだ」
エミールの驚きをよそに、カルローニ伯爵の腹はとっくに決まっていた。
「お前には既にかなりの額を譲ってある。その金で商売を始めるなり、つつましく暮らすなり、好きにすればいい」
「父上っ!」
エミールが真っ赤になって怒っても、父が反応する様子はない。
カルローニ伯爵は父親であることよりも、当主として生きることを選んだのだ。
「出て行け」
カルローニ伯爵はそれだけ言うと、執務机の前に座り、可愛い我が子に背を向けた。




