第十一話
婚約破棄の申し出がキャラハン伯爵家側からあったとき、カルローニ伯爵は後悔した。
キャラハン伯爵家での初顔合わせの時にあったトラブルは、コチラ側の不手際だから仕方ない。
だからあの時、婚約が解消されたときの慰謝料を二桁増やせと言われて応じたのだ。
商売を手広くやっているカルローニ伯爵家としては、その金額を支払う事になったとしても、痛くも痒くもないと思ったからというのもある。
だがそもそも婚約が解消されたり、破棄されたりしなければ考える必要もない金のことだ。
それに両家の結束を固くして商売を広げていくことは、お互いに利益となる。
利益になることを反故にする必要などない。
だから婚約を解消するなどということは、カルローニ伯爵の頭には欠片もなかった。
息子も同じだと思っていた。
貴族の結婚は政略的なものだ。
それが普通であり、普遍的に変わらないとカルローニ伯爵は考えていた。
なんだかんだ言っても息子だって、そのくらいのことはわきまえていると思っていた。
だから、まさか本当に婚約破棄などということが起きるとは思わなかったのだ。
未だ信じられない。
カルローニ伯爵は、キャラハン伯爵のにこやかな顔を見ながら思った。
だが、そのまさかは起きてしまったのだ。
しかも我が家が婚約破棄をされる側である。
これは手痛い失敗だ。
慰謝料の額の話ではない。
今目の前にいる男との共闘が叶わなくなること、それが手痛いのだ。
カルローニ伯爵は渋い顔をして、必要な書類にサインをしたためた。




