第二話
投稿遅めです。すみません。
「私が?」
「はい。あなた様は勇者として異世界召喚されました。これからはわが王国代表勇者として、生活していただきます」
しごくまじめに言うものだから、びっくりしたとか、ここはどこ? あなたはだれ? とか、そんな疑問は喉の奥にひっこんでしまった。
「えっと、王国代表勇者ってなんですか」
唯一口からでた質問をぶつけてみる。
「あぁ、そこからでしたね。私たちの世界では複数の王国が存在しています。100国は超えるので、ここでは国の名前は省くと致しましょう。それぞれの国に勇者がいるのです。それぞれが魔王討伐の旅に出て、先に倒した勇者が真の勇者となるのです」
「えっと私が倒せなかったときは……」
「わたくしたちの国が滅ぶでしょう。それだけ勇者は強い存在なのです」
なるほど、最強の勇者を後ろ盾に、戦争が起こるのか。
「まだ混乱していらっしゃるでしょうから、お部屋でお休みになられてください」
手を叩くとメイドが複数人奥からやってきた。クラシカルロングメイド姿だ。私としてはミニスカがよかったけど、まぁしょうがない。
「では勇者様、いきましょうか」
メイドに言われるがまま、その場をあとにした。
私のために用意されたという部屋は、まるでイギリスにある有名なバッキンガム宮殿のようで、一眼見ただけでわかる高級な家具の数々。
ベッドはフリルたっぷりの天蓋付きだし(男だったらどうしたのかしら)、フッカフカの赤い椅子、よくわからない柄の書かれたけど白い陶器でできた花瓶、楽屋サイズの巨大な鏡。
あぁ家が恋しい。
私の目が焼けこげてしまう。シャンデリアはおっきいし、まるでお姫様にでもなったかのよう。
いや、勇者だから特別な身分ということにはかわりないか。というかどうして私が選ばれたのか、甚だ疑問だ。見た目も勉強も体育も全部が平凡平均点ちょうど。別に狙ってとっているわけではないんだけど、結果として事実なのだからしょうがない。
ベッドでゴロゴロしてみようとするが、私なんかが使っていいのだろうかと踏みとどまってしまう。
「そういえば、ここにお風呂はあるの?」
海外といえばシャワーだけ。日本といえば風呂だ。そうお風呂。
湯船に浸かって1日の疲れを癒す至福のひととき。めんどくさい日常を忘れられる特別な時間。
古代ローマにはテルマエとしてお風呂があったという。さすが巨大文明。わかってるじゃないか。ならば、この不思議な異世界もお風呂があってもおかしくはない。何しろ魔法みたいなもので私を呼び出したんだ。きっと娯楽も栄えているだろう……栄えてるよね?
さすがに漫画やアニメを求めはしないが、トランプやUNOくらいはあって欲しい。なんならチンチロでも麻雀でもこの際なんでもいい。
二つ扉があったので、一つを開けてみる。
「水洗トイレだ!!!」
あぁこの世界に神様がいるのなら心から感謝します。まずユニットバスじゃなくてありがとう。
次に日本の洋式トイレでいてくれてありがとう。なんならトイレについているロゴが四文字だ。もうあの有名なトイレ会社しか頭に浮かばない。
蓋を開けて便座を触る。
「あ、あったかい……だと!?」
完全なる日本トイレじゃないか。神か。もう語彙力が宇宙の彼方まで飛んでいって隕石と衝突して消滅してしまった。
横を見ればトイレットペーパーがある。しかもシングルではなくダブルで柔らかい。なんと高級なことか。きっとウサギの写真が使われているパッケージに違いない。
便座に目を戻せば、横にはボタンが。文字はわからないがイラストでわかる。もう文句のつけようがない。しかもトイレタンクの上には手を洗うところまでついている。流すのがボタンではなく取っ手を捻る式ではあるが、この際どうだっていい。
目の前にある文明の叡智が詰まった完全なるトイレが、私の不安を、全てを洗い流したのだ。
いけないいけない。もう一つの扉を確認しなければ。
現実に戻り、二つ目の扉を開けに行く。
扉の先には脱衣所らしきところがあった。
風呂場で間違いないらしい。
パーテーションで区切られた先、見えてきたのはシャワー、そして猫足のバスタブ。
蛇口を見ると錆びたり白いモコモコがついていない。ただのお湯だ。温泉だったらどんなにいいものか。湯の花を潰して遊んでいれば、あっという間にお肌がツルンツルンに変わるというのに。
ぴちゃぴちゃ。
「ん?」
何か水の音がした。もしかしてバスタブの中に何かが入っているのだろうか。バラかバスソルトか、バスボムかな。
バスタブに近づいて中を覗き込む。
「な、なんじゃこりゃぁ!?」
中にいたのは黒いウネウネ。ヌメっとしていてゴツゴツとした見た目。水族館で見たことある。なんなら捌いたところを見たことがある。
ナマコ。
なまこ、海鼠、ナマコ……はぁ!?
今異世界にいるんだよね? どうしてナマコが目の前にいるのさ!
私に気がついたナマコは口らしきところを器用に持ち上げた。
そして、
「こんにちは!」
喋った。
私はあらゆるものを見たつもりだった。擬人化も動物が喋るものも、なんでも。
だけど現実で起こると脳がショートするんだなって今気がついた。いや気づく人生ってなんだよって話。
「えっと、あ、人間の方がいいよね! 待ってて」
そういうと、ナマコは巨大になり、あっというまに少女の姿を模った。
それも全裸の。
上が黒で下が黄色のいわゆるプリンカラーの超ロングツインテール、目の色は真っ青で海のようだ。
よいしょと言って、バスタブから出てきた。156センチの私が見上げる高さ。おそらく自販機くらいだろうか。180センチはありそうな巨大な少女だ。身長に見合わない高めの声が上から降ってくる。
だが怖くない。
何しろ彼女にはあれがない。
そう胸、つまりバスト、おっぱいである。
おそらくいや完全なるまな板。あぁ、勝った。勝利を確信した。友人は皆C以上で負けていた私が、ここでようやく勝利を手にしたのだ。
無邪気な笑顔のままこっちを見つめてくる。
やがて少女は口を開いた。
「われエクレア! ナマコだよ! 食べる?」
ゆっくり書くので許してください。