第12話
フィーナが死んだ。助けられなかった。
フィーナと過ごした記憶が脳裏で駆け巡る。
周囲の音も景色もリタには届かない。
やがて立つ気力すら失い、膝から崩れ落ちる。
再び彼女との記憶が脳裏をよぎる。
小さな村という狭い空間の中でともに学び、遊び、笑い、泣き、成長した生涯の親友との別れ。
それが目の前で起こり、簡単に受け入れることが出来るはずがない。
自責の念に駆られる。あの時、無理やりにでも魔道具からフィーナを引きはがしていれば。
あの時、自分が大岩に驚き、魔道具から手を離さなければ。そんな考えばかりが浮かぶ。
リタは気づかぬうちに頭を地面の大岩に打ち付けていた。
痛みすら感じない。だが体はダメージを負っている。やがて意識が遠くなって行き
気を失った。
それから間もなく、ダンとフィーナが到着した。
麓へつながる茂みを抜けた先に広がっていたのは膝をつきピクリとも動かないリタと血にまみれた氷の魔道具だった。
「リタ!フィーナ!」
名を叫び二人の元へ駆け寄る。
するとリタの周りにも血が大量に流れている。
発生元はリタの頭部だった。
「…っ!リタ!」
ニーナはリタを抱きかかえ傷口を探す。
「ここだわ」
傷口を見つけるとニーナは自らの衣服を裂きリタの頭に結び付けた。
医療に詳しくない彼女でもこれ以上の出血は命にかかわると判断できるほどリタは出血していた。
「どうだ?」
「ひとまずは大丈夫そう。止血はしたけど塞がってはないからすぐに治癒魔法でふさがなきゃ…」
「そうか…そういえばフィーナの姿が見当たらんが…」
「そういえば…」
「う…あぁ…」
抱きかかえられていたリタがニーナの腕から転げ落ちる。
「ちょっとおとなしくしててよ!」
「あぁ…ああぁ…」
リタはふもとの魔道具の方へ手を伸ばす。
しかしまたすぐに気を失ってしまった。
「もう…あんまり動いちゃ危ないのに…」
「ん?お父さんどうしたの?」
ダンを見ると小さく震え、地面につきボロボロで血まみれの氷の魔道具を見つめている。
「氷の魔道具がどうしたの?あれはもう使い物にならないよ?」
「いや、それはわかっているが…」
「じゃあ、どうしたの?」
「よく見てみろ…」
「ん…?」
よく見ると確かに今足元にあるリタの血液より何倍もの血液が広がっている。
「あれ…もしかしてリタの血じゃない…?」
ニーナはゆっくりとリタを近くにあった平らな岩に寝かし魔道具へと歩み寄って行く。
近づいてみると地面と魔道具にわずかな隙間があることに気づいた。
「嘘…でしょ…」
わずかな希望を信じ魔道具を持ち上げる。
しかし重くてわずかしか持ち上がらない。
「手伝う。いくぞ。1.2、の3!」
ダンと協力し魔道具を持ち上げ裏側が確認できるようになった。
そこにはぺちゃんこに潰れてしまい身元が分からなくなってしまった遺体が一つ。
そしてフィーナがいつも着けていたアクセサリーが粉々になっていた。