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魔法少女探偵 加賀惣助  作者: 月坂唯吾
6/11

(六)

 聞き込みをして分かったのだが、驚くことにどの店で聞いてみても、夜間にパトロールをする警察官の姿を目撃したことがある、という人物を1人や2人は見つけることができた。そして皆、その警察官のことを詳しくは知らないものの、警察官に対し非常にいい印象を持っているのだ。優しそう、笑顔で挨拶をしてくれる、真面目そう、といった意見ばかりが聞こえてくる。これにより偽警察官と思われる男がこの一帯に頻繁に出没すること、そして本物の警察官同様に、治安の向上に役立っていることなどが伺えた。

 揚げ物屋の主人の証言からは、夜間に自転車でパトロールをしている警察官が数人いる、と言うことも分かった。その警察官たちが胸に付けているバッジが、赤い髑髏のバッジであることも確認することが出来た。店主がそのバッジについて警察官に質問したところ、警察官には警戒レベルが高いときにはこのバッジを付けなければならない、という決まりがあるのだと教えられたそうだ。夜間は昼間に比べると、酔っ払いによる暴行事件、空き巣、強盗、痴漢など、様々な事件が発生しやすく、警戒レベルが必然的に高くなるのだと。

 勿論警察組織内にそのような取り決めは存在しない。

 新たな証言が出なくなってきたところで、私は聞き込み対象者を若者に切り替えることにした。若者が集まるところ、といえばゲームセンターだろう、という安直な考えからゲームセンターへと向かう。しかし私の予想に反しゲームセンターにいたのは大半が家族連れであった。考えてみれば分かることだった。こんな早い時間に若者がゲームセンターに集まっているはずがないのだ。仕方なく家族連れに話を聞いてはみたものの、警察官の目撃情報すら得ることは出来なかった。

「すみません。先程からお客様にお声をかけていらっしゃるようですが、何をなされているのですか?」私に声をかけてきたのはゲームセンターの制服に身を包んだ、店員と思しき20歳くらいの女性であった。如何にも訝しそうな視線を私に向けている。

 私は謝罪とともに事情を説明し、協力を要請した。

「警察官の方なら夜間でもよく見回りをされていますよ。でも私ちょっと苦手なんですよね」そう言うと彼女は、内緒話でもするかのように小さな声で「普段はやさしそうなんですけど、ちょっと恐くて」と、話を続けた。

「どういうことですか?」

「10日くらい前だったと思うんですが、大学生くらいの男性グループが店内で騒ぎを起こしまして。彼らは店内で飲酒をしたり、騒いだり、暴れたりと、手が付けられない状態だったんです。仕舞には他のお客様にまで絡みだしたので、見かねた店長が注意をしに行ったんですが、逆に殴られたり、恫喝されたりしまして」

「それは大変でしたね」

「ええ、ですから警察に通報しようということになりまして、フロントに駆けつけたところ、ちょうどそのタイミングで、騒ぎを聞きつけたパトロール中のおまわりさんがやってきてくれたんです」

「不幸中の幸い、というやつですね」

「はい。状況を聞かれましたので説明をしましたら、直ぐに携帯で応援を呼んでくれて」

「無線ではなくて、携帯でですか?」

「はい、そうです。でも応援が来るまではおまわりさんが一人だけだったので、誰も言うことを聞かなくて、むしろおまわりさんが可哀想なくらいでした。男性グループは酔っ払って気が強くなっているのか、おまわりさんを取り囲んで罵声を浴びせたり、おまわりさんをからかって笑ったり、胸で軽く体当たりをしたり、とやりたい放題で」

「警察官は無抵抗だったのですか?」

「はい。はじめはそうでした。こら、止めなさい、って言うだけで。でも応援のおまわりさんが二人来た途端に変わりました」

「無抵抗ではなくなったと」

「はい。突然大きい声で叫んだと思ったら、三人のおまわりさんが次々と相手に殴りかかっていって、あっという間に男性グループを制圧してしまいました」

「その警察官たちは胸に赤い髑髏のバッジを付けていませんでしたか?」

「はい。確かに付けていました。でもそんなことよりも、私、いくら警察官でも暴力ってよくないと思うんですよね。はじめはおまわりさんが可哀想で見ていられませんでしたが、途中からはおまわりさんたちが逆に暴力をふるうようになって、違う意味で見ていられなくなりました。すごく恐かったです」

「その男性グループは最終的にどうなったんですか?」

「分かりません。口や瞼から出血している人もいましたが、最後はおまわりさんたちが彼らを引きずるように店の外へと連れ出していきましたから」

「この店に防犯カメラなどがあれば映像を確認させて頂きたいのですが」

「すいません。この店には防犯カメラは付いていません」

「そうですか、分かりました。ご協力ありがとうございました」

 聞き込みを終えた私は、1時間ほど前に聞き込みをした弁当屋へと再び向かった。聞き込みの際に昼食用に4人分の弁当を注文しておいたのだ。受け取りの時間は12時45分、あと5分ほどだった。弁当を受け取り事務所に戻っても、13時にはなんとか間に合うだろう。


『もっともっと亭』と店名の書かれたビニール袋を片手に、事務所へと続く雑居ビルの階段をのぼる。1階に奈津美の自転車が止められていたことから、彼女もすでに事務所に戻ってきているものと思われた。もちろん同級生の子たちとのアポイントを取ることに苦戦を強いられ、奈津美は午前中どこにも出かけなかった、という可能性もあるが。

「あっ、惣さん。おかえり」私が帰ってきたことに気付いた功太が、嬉しそうに声をかけてきた。おそらく私の帰宅を待ちわびていたのだろう。もちろん私のことを待っていたのではなく、待っていたのは弁当のほうだろうが。

「ただいま」私は弁当を持つ手を上にあげ、功太に弁当を振って見せた。功太は私の期待通り、感情そのままの、子供らしい笑顔を浮かべることで、私のそれに答える。

 功太と多喜さん、そして奈津美の3人はすでに昼休みモードに入っていたようで、同じテーブルを囲み、お茶を飲みながら世間話に花を咲かせていたようであった。

 多喜さんは私から弁当を受け取ると、全員にそれを配り、私の分のお茶と弁当も皆と同じテーブルに用意してくれた。

「奈津美さん、同級生の子たちとのアポイントは取れましたか?」弁当を食べながら、奈津美と調査の進行状況や情報の交換などを行う。

「はい。友達の中に小学校、中学校と同じ学校だった、って子がいたので、その子に頼んで約束を取り付けてもらいました。その子も一緒に来てくれるそうです。14時に千田のコンビニで待ち合わせにしましたけど、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。奈津美さんのおかげで助かりました」

「あと鳩峰公園で、夜間に自転車でパトロールをしている警察官について、若いお母さんたちに色々と聞いてみたのですが、目撃情報は1つもありませんでした。時間があったので、スーパーカマタギの駐車場でも様々な人に聞いてみましたが、やはり結果は同じでした」

「やはりそうでしたか。私も家族連れなどに聞き込みをしてみたところ、目撃情報は1つも得られませんでした。しかし波野浜駅東通りの店を片っ端から聞いて回った結果、偽者と思しき警察官が数名いること、夜間には頻繁に街で目撃されていることなどを確認することができました。彼らはやはり夜間にしか現れることがないのもしれません。そして何故だかは分かりませんが、一般の方々には好印象を抱かれており、偽者ながら治安を守ることにも貢献していることが分かりました。彼らが胸に赤い髑髏のバッジを付けている、ということも確認がとれました」

「では偽警察官たちの目的は何なのでしょうか。警察官の変わりに治安を守っているのであれば、わざわざ排除する必要もないような気もしますし、そもそも彼らが本物の警察官だということは本当にないのでしょうか?」

「おそらくそれはないでしょう。何故ならば、偽警察官たちは事件への対処が暴力的すぎるからです。実は店員から、ゲームセンター内で揉め事を起こす男性グループを、警察官が排除したときの様子を伺ったのですが、警察官は男性グループを暴力によって制圧した、ということでした。凶悪事件でもなければ、凶器を所持していた訳でもない相手に対して、口や瞼から出血するほどの暴力行為を行った。明らかに過剰な暴力だったと言えるでしょう。本物の警察官ならばそのようなことはしませんし、赤い髑髏のバッジなどという、ある種不気味な物を公務中に身に付けているとは考えられません。とにかく偽警察官の輪郭は何となく見えてきました。あとは奈津美さんの同級生から話を聞き、偽警察官の輪郭にさらに肉付けをしていきましょう」

「午後の予定は今のところ、私の同級生から話を聞く、というだけなのですか?」

「聞かせてもらった話の内容によっては変わるかもしれませんが、日が暮れましたら、今夜は街を少し見張ってみようかと思っています。偽警察官達が今夜も街に現れる可能性は充分ありますから」

「そうですよね。偽者の警察官を捕まえて、話を聞くのが一番手っ取り早いですもんね。分かりました。それじゃあ今夜は私も行きますから、置いていかないでくださいね」

 今夜私は1人で偽警察官を捜しに行くつもりでいた。偽警察官と遭遇する可能性が高い危険な現場に、奈津美を連れて行くわけにはいかないからだ。私はそれを奈津美にやんわりと伝え、分かってもらおうと口を開く。

 しかし奈津美にはこれから私が何を言わんとしているかが、既に分かっていたのだろう。掌を私に向けることで、今まさに発せられようとしていた私の言葉を制した。

「大丈夫です。何かあったら惣さんに守ってもらいますから」してやったり、といったようなドヤ顔で、微笑んで見せる奈津美。

「分かりました。では一緒にいきましょう」

「惣さんは奈津美さんには甘いんだね」ハンバーグにかじりつきながら、私をからかう功太。

「人聞きの悪いことを言わないでください。甘いのではなく、早く1人前の探偵になりたいと頑張っている奈津美さんの姿に、私は感銘を受けただけです」隣に座り弁当を食べる功太にそう言うと、私は自分の弁当から唐揚げとピーマンを取り出し、功太にあげた。

「やったあ。唐揚げだ。ありがとう」唐揚げをあげただけで、こんなにも喜んでもらえるのならば、あげた甲斐があった、というものだ。

「功太君、ピーマン好きなの? 子供なのに偉いね」奈津美は何か勘違いをしているのか、意味不明な質問を功太にする。

「ううん。唐揚げは好きだけど、ピーマンは普通。ギブ アンド テイクだからね」

「ギブ アンド テイク? どういうこと?」奈津美は不思議そうな顔を私に向け、説明を求めているようであった。

「実は私はピーマンが苦手でして。捨てるのはもったいないので、いつも功太に好きなものと交換に食べてもらっている、ってわけです」

「そうだったんですか。って、惣さん駄目じゃないですか。子供じゃないんだから嫌いだから食べない、とか駄目ですよ。我慢してでも食べないと」

「勘弁してください。ピーマンのあの苦味だけはどうしても無理なんです」

「大丈夫ですって。鼻を摘まんでゴックンって、しちゃえばいいんですよ」

「惣さん、これはもう食べるしかないよ」楽しそうにニヤつく功太。多喜さんまでもが、楽しそうに笑っている。

「そうだ。私に甘い惣さんなら、私のピーマンくらい食べてくれますよね?」そう言うと、奈津美は自分の弁当からピーマンを取り出し、私の弁当の中にそれを入れた。

「惣さん、やったじゃん。大好きな奈津美さんのピーマンだよ」

「功太、どういう意味ですか。それでは私がまるで変態みたいじゃないですか。分かりましたよ。食べればいいんですね。……ところで奈津美さん。同級生の方々ですが……」

「多喜さん」私が話をしている途中でそれを遮り、奈津美が多喜さんを呼んだ。

「どうかなさいましたか?」

「惣さんが私のピーマンを食べたくなくて、話をすり変えようとするんです。え~ん」どうやら嘘泣きをしているようだ。

「惣さん、若い女の子を泣かせては駄目ですよ」

「多喜さん、それでは益々私が変態みたいじゃないですか」さりげなく話題を変えたつもりでいたが、どうやらバレバレであったようだ。

「何でしたら、私があーんしてあげましょうか?」私をからかう奈津美。

「いいえ、これ以上変態になるのは御免なので、自分で食べます」私は意を決してピーマンを口の中に放り込んだ。奈津美に言われたとおり、鼻を摘まみ、急いで咀嚼をする。途端に口の中に広がる青臭い苦味。鼻を摘まもうが、不味いものはやはり不味い。私はそれを急いで飲み込み、さらにお茶で流し込んだ。私以外の3人は大笑いをしている。

 ピーマンを食べたのは、子供の頃以来だろう。相変わらずピーマンは不味く、とても受け入れられるものではなかった。しかし何故だろうか、この時間が、私にとって少しだけ楽しい時間であったことは間違いなかった。


 奈津美の同級生だという、羽村美鈴を途中で拾い、待ち合わせのコンビニへと一緒に向かう。

 コンビニの駐車場では、彼女たちの中学時代の同級生だという2人の男性が、私たちを待っていた。並べられた黒と紫の2台の原付バイク。2人の男性はそれに跨り、煙草をふかしていた。やんちゃぶりは今も健在なようだ。

 家が近いということもあり、現在も多少交流があるという羽村美鈴にまずは事情を説明してもらった後、彼らから聞き取りを行う。

「探偵さんなんですよね? だったら俺達が質問に答えたら、何か謝礼とかって貰えたりするんですかね?」こちらが警察などとは違い、強制力を持たない職業だと知った途端に足元を見てくるとは、彼等も多少は頭が切れるようだ。

「質問にきちんと答えてくれれば、多少の謝礼はいたします。ですから知っていることを全て話していただけますか?」

「はい、OKです」何故だか敬礼をしながら答える男性。警察ではなく、探偵だと言ったばかりなのに、すでにあべこべだ。

「ではお聞きします。君達は夜間に現れるという、赤い髑髏のバッジを付けた警察官を見たことがありますか?」

「あります、あります。スカルでしょう? あのおっかない警官。友達と話をしていただけなのに、かつあげは駄目だとか、急にいちゃもんを付けてきて。うるせえ、って言ったらいきなり何度も平手打ちされました。おまわりが暴力を振るっていいのか、って言ったら、今度は腹に蹴りですよ? マジあいつらヤバイです」

「赤い髑髏のバッジを付けた警察官はスカル、と呼ばれているのですか?」

「正式な名前かは知らないけど、俺達の間ではそう呼んでます」

「何時頃に、何処で遭遇したか覚えていらっしゃいますか?」

「確か一週間くらい前の22時頃に、『GORO』の駐車場で」

「GOROって、波野浜駅東通りの『さくらうどん』の隣のレンタルDVD店ですよね?」

「そう。そこの裏のコインパーキング」

「その警察官についてですが、何か変わった点や、おかしなところなどはありませんでしたか?」

「見た目は普通の警官と変わんない感じだったかな。でも暴力を振るうことには躊躇がない、っていうか、むしろ楽しんでいるみたいに見えたよな?」そう言い、もう一人の男性に同意を求める。

「警官というよりも、警察っていうチームに所属しているヤバイやつら、って感じの印象をみんな持ってるんじゃないかな」

「警察手帳の提示などはありましたか?」

「ないない。てか、やつらそんなにちゃんとしてないし」

「この中にそのときの警察官はいますか?」私は祖父江から送られてきた、この辺りの派出所や駐在所に配属されている警察官の顔写真を全て見せた。

「いいえ、いないっすね」やはりスカルと呼ばれる警察官は偽者の可能性が高いようだ。

「友達などから、そのスカルと呼ばれる警察官について、何か聴いたことはないですか?」

「文句を言い返したり、言うことを聞かないとボコボコにされるって、みんな言ってます。だからスカルがきたら、逆らわず、おとなしく逃げる、って言うのが、俺達の間では鉄則になってます。友達の先輩がかつあげ、っていうか、金を後輩に集めさせていたみたいなんですけど。その金の受け渡し現場をスカルに見られたらしくて、その先輩はスカルにボコボコにされた挙句、裸にされて用水路に投げ込まれたみたいです。集めた金は証拠品としてスカルに押収された、って言ってました」

「何でもありですね。ところで一昨日の早朝、桶谷市にある矢野望公園でYouTuberの男性の遺体が発見されましたが、その事件について誰かから何か聞いたりはしていませんか?」

「死体が発見された、っていうのはネットで見たけど、それ以外は何も知りません。ってか、もしかしてスカルが犯人なんですか?」

「いえ、まだ詳しいことは何も分かっていません。とにかく参考になりました。ありがとうございます」

「もういいんですか?」

「はい。協力してくれて助かりました。これは約束の謝礼です」私はそう言うと、財布から五千円札を1枚取り出し、彼らに渡した。

「えっ? こんなに貰っちゃっていいんですか?」

「はい。わざわざ来ていただいちゃいましたから。これで美味しい物でも食べてください」

「あざーす」お礼の言葉と共に、深々とお辞儀をする2人。やんちゃなようだが悪い奴等ではないようだ。

 彼等から聴取した結果分かったことは、赤い髑髏のバッジを付けた警察官がスカルと呼ばれている、ということ。そしてゲームセンターの店員の証言と同様に、スカルは夜間に現れ、解決のためなら平気で暴力を乱用する、ということ。さらにはスカルが彼等に警察手帳を提示しなかったこと、近隣の派出所や駐在所に配属されている警察官の中にスカルと思しき警察官がいないこと、などが分かった。

 スカルは偽者の警察官、という予想を後押しするかのような証言の数々。真偽はまだ不明だが、やはりスカルが偽者の警察官だという可能性は高いだろう。スカルがかえぴょんさんの知り合いだった、という線もほぼゼロに等しくなった。

「惣さん。夜まではまだ時間がありますけど、これからどうするんですか?」

「そうですね。では今度は遺体の見つかった、桶谷市の矢野望公園周辺を聞き込みしてみましょうか。公園周辺にもスカルの目撃情報があるのかを確かめて見ましょう」

 羽村美鈴を送り届け、そのまま矢野望公園へと向け、車を走らせる。しかし間もなく矢野望公園に到着する、というところで、私の携帯が着信を告げた。電話に出るため、車を路肩に停車させ、画面を確認する。着信は祖父江からのものであった。何か事件に進展でもあったのだろうか?

「もしもし、加賀です」

『よう美少女。俺だ。また遺体が発見されたぞ。現場の状況からおそらく同じ犯人による連続殺人事件だと思われる』

「現場はどこですか?」

『最奈深の森林公園だ。全裸女性の死体が円柱型のモニュメントに括り付けられていた。身元はまだ分かっていない』

「死因はなんですか?」

『まだ詳しいことは分からんが、おそらく背中の刺創が致命傷じゃないか、ってことらしい』

「連続殺人事件だと仮定した根拠はなんですか?」

『今回の遺体も花で飾り立てられているんだ。専門家によるとオブジェ装花と呼ばれるものらしい。犯人は遺体をオブジェ装花の装飾品として扱い、芸術作品でも作っているつもりなのだろう』

「遺体の身元がまだ分からないのであれば、犯人との関係性もまだ分かりませんね。かえぴょんさんの時のように、何か犯人に結びつきそうな手がかりはないのですか?」

『今の段階では鑑識の捜査は愚か、まだ検死も遺体の解剖すらも、終わってはいないからな。犯人と被害者の関係性は全く分からん。そもそも犯人が相手を無差別に選んだ可能性だって捨てきれないしな』

「それでは、私たちもこれから現場に向かってみます。祖父江さんは現場にいらっしゃらないんですよね?」

『ああ。だが現場にはうちのやつらが何人か行ってるから、鑑識の邪魔さえしなけりゃ、お前が好きにやってくれて構わん』

「分かりました」

 本当に連続殺人事件なのであろうか。かえぴょんさんを殺害した犯人は、かえぴょんさんに動画を撮影され、その恨みから復讐をした、と予想したのだが、それは間違いだったのだろうか。しかし花に見立てられたかえぴょんさんの遺体からは、明らかに犯人の憎悪と復讐心が伺えた。犯人は今回の被害者にも強い恨みを抱いていた、ということなのであろうか。

「惣さん、何かあったんですか?」私が祖父江との電話を終えたことを確認すると、奈津美が声をかけてきた。

「ええ、最奈深の森林公園で女性の全裸遺体が発見されたようです。今回の遺体も花で飾り立てられていることから、警察のほうでは連続殺人事件を疑っているようです」

「じゃあ、私たちもこれから最奈深に向かうんですね」

「はい。まだ現場に行っても新しいことは何も分からないかもしれませんが、実際に遺体の状況を確認しておくことも大切ですから」

「昨日も、実際に遺体を見ておいたほうが、聞くだけよりも頭に入って来るものがある、って言ってましたものね」

「ええ。ですが昨日とは違い、今日は遺体をダイレクトに見なければなりません。ですから奈津美さんは車の中で待っていらしても構いませんが、どうなさいますか?」

「私も一緒にいきます。遺体を見ることが恐いなんて言っていたら、いつまでも探偵になんてなれませんものね」

「さすがですね。分かりました。では一緒に行きましょう」

 私は再びエンジンをかけると、予定を変更し、最奈深の森林公園へと車を走らせた。

 矢野望公園から車で40分ほどの距離にある森林公園は、雑木林を中心に、草地や池などの自然に溢れ、園内にはバラ園やカエデ園なども整備されている。たくさんの動植物が生息、生育し、サイクリングコースや、オリエンテーリングコース、芝生エリア、ドッグラン、遊具なども整備されている非常に大きな公園だ。水遊び広場では子供が水遊びを楽しむこともでき、園内に流れる川には魚も生息している。

 公園に到着すると、園内には既に規制線が張られており、複数の警察官の姿や警察車両を確認することができた。私たちは公園の入り口に配備されていた警察官に話を聞き、遺体が発見された場所が彫刻広場である、ということを教えてもらった。

 彫刻広場にはパルテノン神殿の柱を小さくしたようなモニュメントや、古代ギリシャ人を模したような彫刻が多数存在している。祖父江によると、遺体は円柱型のモニュメントに括り付けられていた、ということであったので、おそらく彫刻広場の柱のようなモニュメントに遺体は括り付けられていたのだろう。

 彫刻広場に向かうと、複数の花が取り付けられたモニュメントの存在を遠くからでも確認することができた。おそらくあのモニュメントに遺体が括り付けられているに違いない。またその周辺には鑑識官の姿や、見覚えのある捜査員たちの姿も確認することができた。

「あっ、加賀さん」捜査員の中の1人が私たちに気が付き、右手を上げる。

 私に声をかけてきたのは捜査一課の三上聡みかみさとるであった。彼の周りには他にも阿部を含む4人の姿が確認できる。

「あっ、彼女が噂の助手さんですか?」彼らの元へと向かうと、二坂香住ふたさかかすみが話しかけてきた。おそらく阿部が捜査一課の面々に奈津美の存在を告げたのだろう。

「ええ。今後もお目にかかることもあるかと思いますので、ご紹介しますね。私の助手の長嶋奈津美さんです。彼女も将来は探偵を目指しているそうです」

「始めまして。長嶋奈津美です」お辞儀をする奈津美。

「始めまして。私は二坂香住といいます。応援するから頑張ってね」奈津美と握手を交わす二坂。彼女は捜査一課唯一の女性捜査官である。

「始めまして。僕は三上聡といいます。よろしくね」彼は捜査一課一番の若手にして、癒し系男子と名高い好青年。

「俺は野村だ」ぶっきらぼうに苗字のみを名乗ったのは、捜査一課一番の古株、野村耕作のむらこうさく。昔かたぎの刑事で、地道な捜査や、刑事の感、といったものに執着が強く、私が捜査に協力することにもあまり納得していない、所謂偏屈な人物だ。

「それで、遺体のほうはどのような状況ですか?」一通り自己紹介が済んだところで、私は話を本題に切り替え、阿部に質問をした。

「いえ。今のところこれといった手がかりは挙がってきていません。ただ遺体の顔以外の部分全てが、水色や黄色、薄い緑色などのバラで埋め尽くされていることから、犯人は秋山を殺した犯人と同一人物ではないか、という線で捜査を始める予定です。つまりは同一人物による連続殺人事件ということですね。まだ詳しくは分かりませんが、死亡推定時刻は昨夜の9時から11時の間ではないか、ということです」遺体のほうに視線を送りながら阿部が答える。

 私は遺体の状況を確認するため、モニュメントに近付いた。奈津美も無言で後ろを付いてきている。

 女性の遺体はやはり柱のようなモニュメントに括り付けられていた。真っ赤な口紅だけを付けており、顔以外の箇所は全てバラの花で埋め尽くされている。今回の遺体は見たところ何処も損壊されてはいないようだ。だが芸術的な美しさはより増しているように感じとれた。グロテスクという要素は全く感じられない。

 やはりおかしい。犯人の憎悪や復讐心、といったものがこの遺体からは何も伺えない。まるで無表情の仮面を見ているようだ。

「奈津美さんはこの遺体をご覧になって、どのような印象を持ちましたか?」

「こう言ったら不謹慎かもしれませんが、芸術作品のようで、とても綺麗な感じがします」

「私もそう感じました。かえぴょんさんの遺体のときよりも、犯人が芸術性を重視しているように思えます。被害者には全く興味がなく、遺体を完全に作品の素材の一つとしてしか見ていないような、感情の伺えない遺体」

「でも犯人は、かえぴょんさんを殺した犯人と、同一人物なんですよね?」

「どうでしょう。かえぴょんさんの事件は報道こそされてはいませんが、ネットでは既に拡散しています。ですから模倣犯、という可能性もありますし、何より今回のこの遺体からは、憎悪や復讐心などといったものが全く伺えません」

「では今回の犯人は復讐などの為に人を殺害したのではなく、作品を作る、という目的の為だけに人を殺した、ということですか?」

「分かりませんが、そのほうがしっくり来ることは確かです。犯人は復讐と言うよりも、サイコパスのように殺人をなんとも思わず、むしろ楽しんでいるようにさえ見えますからね。それに、かえぴょんさんの遺体は花に見立てられていましたが、今回の遺体は花に見立てられている、というよりも、花と遺体を使ったアート作品のように見えるのです。つまりオブジェ装花に遺体という素材を使用した作品、というやつですね」

「では今回の事件と、かえぴょんさんの事件は犯人が別で、そもそも無関係だということですか?」

「私はその可能性が高いと思います。そして今回の事件の犯人に関して言うならば、おそらくまだ犯行は続くでしょう」

「また誰かが殺される、ということですか?」

「はい。そしておそらくまたオブジェ装花として飾られる……」

「では私たちは今回の事件と、かえぴょんさんの事件は別々の犯人によって引き起こされたものだ、という前提で、調査をしていくんですね」

「はい。まだ鑑識の捜査はおろか、解剖すら終わっていない状況では、犯人が同一人物だと断定するのは早計です」

 ここにこれ以上いても新たな情報は得られそうにない、そう判断した私たちは、一課の4人に挨拶を済ませ、森林公園を早々に立ち去ることにした。

 車に戻ると、私は功太に新しい事件のことを電話で伝え、アングラサイトに模倣犯と思しき人物がいないかを、現在の調査に加え調べるように頼んだ。

「次は何処に向かうんですか?」

「当初の目的通り、矢野望公園周辺の聞き込みに向かいましょう」


 矢野望公園には昨日と同じく規制線が張られており、いたるところに制服警官が配置されていた。矢野望公園の駐車場に車を停める予定でいた私は、駐車場に配置されている警察官に、昨日同様、事情を説明しなければならなかった。昨日と同じ警察官が配置されていれば、顔パス、ということもあっただろうが、昨日の警察官の姿は見当たらない。

 無事に車を停めることができた私たちは、徒歩で周辺の工場やコンビニなどへの聞き込みを行った。しかし波野浜駅東通りを聞き込みした時とは違い、スカルの目撃情報は全くと言っていいほど出てこなかった。おそらくこの辺りにスカルは現れないのだろう。繁華街でもなければ、若者が集まるような場所でもない。工業団地という特別なエリア。必然的に事件やトラブルも少ない地域なのだろう。ゆえに解決方法はどうであれ、治安を守っている、と思しきスカルも現れない。当然と言えば当然のことだった。

 その後も僅かな可能性に賭け、工業団地周辺を日が暮れるまで回ってみたが、結果が変わることはなかった。スカルと思しき警察官の工業団地内での目撃情報は1件もなく、スカルのことを知っている人がいても、それは噂話程度のものであった。

 やはりスカルを探し出すには、波野浜駅東通りを見張るしかないようだ。

 私たちは一旦事務所へと戻り、徒歩で波野浜駅東通りへと向かった。通りに面したファミリーレストランに入店し、窓際の席に座る。もちろん夕食を取ることも目的の一つではあるが、スカルが波野浜駅東通りに現れないかを見張るためだった。店には申し訳ないが、ここならば長時間通りを見張っていても苦にはならないだろうし、何よりもスカルに気付かれる心配がないからだ。もちろん問題が全くないわけではない。スカルがもし現れたとしたら、私たちは急いでスカルを追いかけることになる。だがそのまま店を出れば無銭飲食になってしまうだろうし、いちいち会計を済ませていてはスカルを見失ってしまう。そこで登場するのが功太と多喜さんだ。ご飯をご馳走する、と言ったら2人とも喜んで付いてきてくれた。もちろん功太の両親にも連絡済だ。しかし、だからといって功太と多喜さん、そして奈津美をあまり遅い時間まで拘束するわけにも行かない。スカルが少しでも早く現れてくれることを願うしかなかった。


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