洗礼式へ
紋章で人生が決まる世界。
体に現れる紋章によって、自分の能力、才能、地位、等様々なことが決定すると言っても過言ではない。
それ程までに紋章の影響は大きいのだ。
そんな世界で、親に見捨てられた1人の貴族の息子が、意図もせず、世界を無双する物語。________
「.....様。......ウェネムス様。」
「....ん。」
「お目覚め下さい。本日は洗礼式です。ただでさえ期待されていないのですから、さっさと洗礼式を終えて来てください。」
はぁ。今日も朝から気分が悪い。使用人からも見下されている僕は、物心付いた頃からのこの扱いに、もう慣れてしまった。
そして今日は洗礼式。気は向かないが、全国民の義務なのだ。行くしかない。
「......あぁ。急ぐ。」
僕には兄が6人”ぐらい”いる。姉も4人”ほど”。というのも、父も母も、愛人や性奴隷が沢山いる。使用人にも手を出しているため、正確な人数が把握出来ていない。
弟や妹もいるのだろうが、正妻と、領主であるアラウダ・エクエス・グラディウス公爵との間には、僕より年下は居ない。
僕もこの2人の息子らしいが、髪の色も瞳の色も2人に似ておらず、愛想も悪い。と、息子だと認められていない。
今日の洗礼式で良い結果が出れば扱いは変わるかもしれんが、あの2人が急に態度を変え可愛がって来るのを想像するだけで.....
うぅ。吐き気がする。
心のなかで顔をしかめつつ、着替えるためにクローゼットを開くと、見慣れた光景が広がった。
「あぁ、また破かれてる。」
一日に最低でも1着は服を破かれている。これにも慣れた。でも、もう着る服がないな。
「アウィス。いるか。」
..気配はあるが、来ない。いつもの事だ。
「はぁ。時間が無いのに。」
こういう時は自分で治すしかない。僕は、慣れたように魔法で服を治していった。少しアレンジをして。
「あーらウェルネムス。ごきげんよう。今日は洗礼式ね。精々頑張りなさい。おほほほほ。」
あれはサリアお姉様。1番歳の近い姉だ。
また冷やかしだ。逆に言えば、それしか出来ない。
「えぇ、サリアお姉様。激励のお言葉ありがたく存じます。」
「まぁお姉様だなんて。1度たりともお前と血が繋がっているなんて認めたことなどありませんわ。やめてくださる?」
「はい。申し訳ございません。」
こっちだってお前が姉だと認めたくないね。
「ウェネムス様、出発のお時間です。」
「わかった。では、行ってまいります。」
僕らは公爵家の馬車に乗り、神殿へと向かった。