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突然電柱の影から現れた女性にバレンタインチョコをもらうだけのありきたりな話

作者: ランド

欲望と性癖に任せて書いただけの小説です。

突貫で書いたので、若干粗さが目立つかもしれません。

ご了承ください。

また、残酷な描写やグロテスクな描写もございますので、苦手な方はご注意を。

 今日は、バレンタインデー。

 町中どこもかしこも浮足立ち、華やかなムードに包まれている。


 ……俺には関係ないが。


 周りにどんどんカップルができており、少しづつ焦りが出てきそうなお年頃。

 にもかかわらず、これと言って異性に興味がなく、そもそもとして、異性にも全く興味を持たれないような人間である。

 まあ、恋人がいたらな、と思うような時期がなかったといえば嘘になるが、友達の惚気話を聞いているうちに、だんだん興味が薄れていった。

 嫉妬……? と言うわけでもないのだろうが、なんとなく興味がなくなった。

 ……俺も、今年で十七歳か。

 この長寿時代、まだまだ人生始まったばかりとはいえ、もはや人生に何の期待も持てない。

 なんとなーく、このまま一人で過ごしていく方が、俺に似合っているような気もする。


「……はぁ……」


 小さい頃は、こんなんじゃなかったんだけどな。

 いろんな人と分け隔てなくしゃべったりだとか、今よりももっと楽しんでいたような気がする。

 ……なんか、どんどん卑屈になってきてるよなあ。

 だからどう、という話でもないが。


 繁華街を通り過ぎ、いつも通りの暗い雰囲気を(まと)う路地に差し掛かる。

 ……あと数百メートルも歩けば、家に着く距離だ。

 期待も何もしていないが、結局今年もチョコをもらえなかったことに、ほんの少しだけ落胆する。

 帰ってから、常備してあるお菓子でも食べるかー……。

 そんなことを考えながら歩いていると、電柱の影からフラッと女の子が出てきた。

 ……なんだ、この子?

 真っ黒のセーターに白のコート、赤のロングスカートといった服装をしており、なんとなく大人びた印象を受ける。

 マスクをしていて分かりづらいが、顔もかなり整っているんじゃなかろうか。


「受け取ってください!!」


 …………。

 突然、目の前に差し出されるチョコ。

 赤いラッピングをしてあり、非常に可愛らしい。

 ……じゃなくて!!

 理解を止めていた脳をフル回転させ、ぼそっと言葉をこぼす。


「……あのー、どちら様でしょうか」


 本気で見覚えがない。

 いや、まじで。

 少なくとも、俺の通っている学校の生徒とかではない。

 ……えっ、マジで誰?

 人違いとかじゃねえの?


「あ、すみません。私、ミズキって言います!」


 …………。

 ……誰!?


「あのー、以前どこかであったりとかは……」

「直接はないですかね」

「…………えっ?」

「でも私、あなたのことをずっとお慕いしてまして……!! 通ってる学校から乗っている電車、SNSのアカウントも好きなアイドルも好きな食べ物も、あなたのことを全部全部全部調べてるんですよ!」

「…………」


 ……?

 きらきらと目を輝かせているが、言ってることめちゃくちゃやばくないか?

 ……えっ、ストーカーってことだよね?

 これ、逃げたほうが良かったりするの?


「私の愛、受け取ってくれないんですか?」

「……すみません。ちょっと事態が飲み込めてないんですけど……。ストーカ……?」

「あまりその言い方は好きじゃないですが、概ねそうです」


 ……なんで、この状況で笑顔を浮かべているんだ……?

 というか、本気で逃げないとやばいよな!?


「逃げたりなんかしませんよねえ? もし逃げたりなんかしたら、私、あなたに襲われたって訴えますからね?」

「は? 気でも狂ってるんですか?」

「さあ。貴方に恋狂ってはいるかもしれませんけど」


 本当にやばい人に絡まれた……!

 どうするのが正解なんだ……?

 ……あの脅しが本気かどうかは分からないが、それでも刺激しないに越したことはないだろう……。


「それで」

「は、はい!?」

「チョコ、受け取ってくれないんですか?」

「え、ええっと……」

「ほら、早く受け取ってくださいよ」


 しびれを切らしてか、若干怒気を孕んだ声で迫ってくる。


「は、はい……」

「ありがとうございます。フフッ、嬉しいな……」


 受け取ったチョコをポケットに入れ……。


「食べないんですか?」

「へっ?」

「今、ここで、食べてくれないんですか?」

「えっ……」


 本格的にわけわからん。

 というか、さっきから現実味がなさすぎる。

 これ、盛大なドッキリとかじゃないよな?


「ねえ、食べてくださいよ」

「あっ、えっと……。はい……」


 その怖さと迫真さに気圧され、恐る恐る包みを開ける。

 ……見た目は普通だ。

 香りも、市販のものとほとんど変わらない。


「い、いただきます……」

「フフッ、召し上がれ」


 顔を綻ばせ、俺の様子をまじまじと見られる。

 ……ええい、ままよ!!


「うぐっ……!!」


 思わず、声が零れてしまう。

 なんか、変な味と感触が……。


「どうですか? 私の血と髪の毛を入れてみたんですけど、美味しいですか?」


 その場で吐いてしまいそうになる。

 この人、なんて言った!?


「ねえ、美味しいですよね?」

「は、はい……」

「そうですか!! それは良かったです!!」


 正直、チョコの味などに一切神経が向かないが、こう答えるしかないだろう。


「ああ、あなたがようやく私の思いに気付いてくれた……!! 嬉しい……!!」


 こっちはそれどころじゃない。

 なんとか喉を通せたが、本当に気持ちが悪い。


「あははは、今日は私たちの記念日ですね。……だ、か、ら」

「……は?」


 肩に何か黒いものを当てられる。

 その瞬間に、全身の筋肉が一気に硬直する。

 そうして――





「一緒に帰りましょうねー。あなた」


 愛しの彼を優しく、優しく運ぶ。

 そして、近くに止めてあった車に乗せ、そっと扉を閉じる。


「うふふふふ。あはっ。あははははははははは!!」


 思わず笑みが零れる。

 ようやく、彼が私の物になった!!

 電車の中で偶然見かけ、一目惚れした、あの日から。

 ずっと、ずっと、今日を待ち望んでいた。


 ああ、愛おしい。

 今すぐにでも愛でてあげたいところだが、それは家に帰ってからね……!


「待っててね。すぐに、心も、体も、私の物にしてあげるから」


 大好きな、大好きな、この世の誰よりも愛してる、あなた。

お読みいただき、誠にありがとうございました。

時期と欲望と性癖に身を委ね切った作品だったのですが、いかがでしたか?


少しでも『面白い!』など思っていただけましたら、ブクマや評価など、よろしくお願い致します。

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