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戦いの一夜

 そんなわけで、僕は生まれて初めて台本なるものを書く羽目になった。 

 しかし、台本を書くとなれば、完成までかすみセンパイのシゴキに耐えなければならない。

 確かに、シゴキだって個人授業と考えれば悪くない。

 あの、背低いくせに出るとこ出た身体で、かすみ先輩が僕に寄り添ってくるのを想像してみたりもする


 ……ふふ……周作? 怖がらないで、アタシが全部、教えて、あ・げ・る……)


「かすみセンパイ……」


 つい、妄想のセンパイにうっとりとして迫ってしまったりもするのだが、そんなオタク的に膨らんだ妄想も、現実の前には弾けてなくなる。

 デコピン一発で、目が覚めた。


「とりあえず、一晩だけ頭冷やしてこい」

 

 僕はすごすごと教室を出る。  


「失礼しま~す……」


 早めに解放されたので、怒りの治まらない部員とは出くわさないで済んだ。

 座ったまま一方的に説教されたおかげで疲れ切った身体を、僕は引きずるようにして帰った。


「胸ぐら掴まれるわ罵声は浴びるわ……あれ完全にパワハラだろ」


 あれがそう何日も凌げるとは思えなかった。

 そこで僕は仕方なく、その晩、必死でパソコンにに向かった。いやなことはまとめて済ませてしまうに限る。

 もちろん、台本の書き方なんて分からない。だけど、「ないよりマシ」っていうのも、オヤジの口癖だった。

 現物は、ないよりあったほうがマシだろう。それなら、書いたのを直してもらうほうが楽じゃないか?

 教わってチマチマ書くより、絶対!

 そう思って、ほとんど徹夜でオヤジのパソコンに向かった。

 部屋の外では、オフクロがガミガミ怒鳴る。


「何やってんの、早く寝なさい!」


 言われながらも眠いの我慢して頑張って、書きあがったものをプリントアウトしたのは夜が明ける頃。

 そのままベッドに転がり込んだのも束の間のことだった。


「起きなさい、遅刻するでしょ!」


 やがて遅刻のピンチに気付いたオフクロに叩き起こされ、弁当無し、朝食抜きで登校……おかげで放課後は完全にダウンだった。

 でも、いい仕事をしたんだから、きっと、かすみ先輩だって喜んでくれるはずだ。

 あの眼鏡の奥の厳しい目が優しく僕を見つめてくれる瞬間を想像しながら、僕はセンパイの待つ教室に向かった。

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