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そして、夏がやってくる

 かすみセンパイが、舞台監督の顔になる。


「じゃ、配役は以上で。キャストは10分後に稽古場へ。スタッフは外で装置!」

「はい!」

 

 僕たちは、一斉に外へ飛び出す。

 自分で書いた台本で指定した、小屋の装置はかなり大きいのだ。

 屋外に敷いたブルーシートの上でないと、とても作れない。

 そして、今日も舞台装置担当の上級生は、人を顎でこき使う。


「真崎、ナグリ(金槌)とガチ(釘)持ってこい!」


 息つく間もないくらい忙しい。

 でも、僕は笑顔で元気よく返事をする。


「はい!」


 そのときだった。

 かすみセンパイが、僕のそばにそっと近寄ってきた。


「……おい、真崎! 真崎……周作くん」


 最後のひと言は、ちょっと照れ臭そうだった。

 何だか調子が狂ったけど、そこは耳を傾ける。 


「……はい?」


 そこで、あの言葉を囁いてくれたのだった。

 あの晩、微かに甘い吐息を漏らしていた唇で……。


「結構、紳士だね」


 あの一言だけでも、僕は充分報われたと思っている。

 わかってます、センパイ。部員としても男としても、僕は全然修行が足りません。

 だいたい、ウチは部内恋愛禁止ですし……。

 だけど、いつか。

 だから僕は今日も青空の下、日射しの中で大道具のハンマーを振るう。


「痛てっ!」


 一瞬で終わった、甘い記憶が弾けて消える。

 思い切り叩いてしまった指を慌ててふうふうやりながら、僕は少し日差しが変わってきたのに気付いた。

 夏が来るのだ。

 眩しさに顔を上げると、真っ青な空から桜の枝をすり抜けてきた、無数の光条ビームが僕の顔に向けて降り注いでくる……。

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