表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/65

熱い一夜が明けて

 そんなわけで連休明け。台本は、なんとか完成した。

 かすみセンパイは稽古場で、居並ぶ部員たちの前に僕を引きずり出した。


「ほら真崎、最初に言うことあるだろ! 全員注目!」


 舞台監督の指示で、部員の視線が一斉に僕へと集中する。 

 それを避けるように、僕は頭を下げた。


「お待たせしてすみませんでした……」

「腰の角度が浅い」


 かすみセンパイは、僕の頭を押さえつける。

 部員全員への詫びをもういっぺん言わされたが、誰一人として僕の詫びなど聞いてはいなかった。当然といえば当然のことだ。


 やがて最初の読み合わせが始まって、一人ずつ交代でセリフを読んでいくことになったが、誰もが全くの棒読みだった。年度末から待たされた方としては、これも当然の反応だ。

 しかし、話が中盤、かすみセンパイの言うポイント・オブ・ノーリターンの辺りから雰囲気が変わってきた。

 悠里のことを隠す観に、あきらがかんしゃくを起こすシーンだ。


「……何よ、不潔フケツ不潔! 観のバカ! 変態! 大っ嫌い! 」


 そこへ、担任が割って入る。


「……落ち着け都筑、まず落ち着け、お前には全く非はない。安心しろ、こいつらは私がタダでは置かん。まず小菅!」


 小菅がふてくれさる。


「……なんでまずオレなの、観じゃねえの? ナニいきなり来てひとりでいい役持ってっちゃってんの、人の話まず聞けってコラ」


 あきらの詰問と小菅のお節介で、観の隠し事が明らかになっていく。

 隠されていた情報が少しずつ表に出てくると、おざなりだった読み方が変わってきた。

 読むテンポに緩急がつく。

 一言一言を発する声の高低が変化する。

 誰もが台詞に集中するのが分かった。

 クライマックスで、観は豪雨の中を、悠里のもとへと駆け出す。

 それを止める母親の役は、かすみセンパイだ。


「観! どこ行くの、観! こんな雨の中! 観!」


 ちらっと見ると、台詞を口にする表情は真剣そのものだった。

 僕の番が回ってくる。

 母の制止を振り切って絶叫する観のセリフだ。


「えっと……。悠里、あ……」


 口がうまく動かない。基礎練習が足りないからだ。

 それでも僕は精一杯、言葉の一つ一つに注意して読んだ。そうせずにはいられない空気がその場にあった。

 順番が終わって、再びセンパイに目を遣った。

 その視線に気付いたのか、かすみセンパイが横目で僕を見る。

 ちょっと微笑したように見えたが、その顔はすぐ台本に向かった。やっぱり、眼差しは真剣だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ