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センパイに逃げ道ふさがれた

 かすみ先輩は、ここでまっすぐに僕を見た。メガネの奥の真剣な眼に、ちょっとドキっとしたところで静かな声が語りかける。


「確かに、自分から『やる』と手を挙げなかった連中に、アンタを非難する資格はない」


 最近知ったのだが、ここの演劇部で台本を書くということには、たいへんな覚悟がいるらしい。

 なにしろ、担当者は台本を書いてくるそばから、完成まで部員全員の罵詈雑言を浴びせられるというのである。

 大会を勝ちあがるためには、それくらいしなければならないのだろう。

 そう考えると、誰も名乗り出なかったのも無理はない。

 早く帰ってアニメ見たいばっかりに何も考えず手を挙げた僕がバカだったのだ。

 オヤジから聞いた処世術の使い方を完全に間違えた。


 人がやらないことはサッサと引き受けて、会議を回せ……。


 それは、自分ができる仕事に限られるってことだ。僕はさっさと、逃げる準備を始めていた。


「センパイ……」

 

 おずおずと切り出したところで、あっさり先回りされる。


「だけどな、引き受けた以上、アンタには責任ってもんがある」


 それだ。その、責任ってやつ。

 センパイの、意外に優しいフォローの一言にちょっと反省したんだけど、それは僕の判断の甘さについてであって、責任の問題じゃない。

 コイツは100tの重りだ、首輪の先に鎖でつないである、アレ。

 その責任は、僕には重過ぎる。だが、僕はその責任問題を解決する方法を一つだけ準備してきていた。

 思い切って、断ってしまうのだ。


「あの」


 口を開きかけたとき、かすみセンパイが僕の眉間に人差し指を突きつけた。


「逃げるなよ。アンタが書いたヤツしか使わない」


 その気迫には、思わず息を呑むしかなかった。

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