最後の戦い
僕は腹を括った。
起こすしかない、かすみセンパイを……。
何時には帰る、と返すのがオフクロとの約束なのだが、今回はそれをしなかった。後で絶対に追及されるが、「忘れていた」とシラを切り通すしかない。
できるわけがないのだ。いつ完成するか分からないし、台本が完成しないと帰れないし、このまま帰ったら完成できない。
行くぞ、真崎周作!
両の拳をぎゅっと握って立ち上がった、その時だった。
かすみセンパイが、また、微かにうめき声をあげた。
「う~ん……」
やった! 起きてくれる!
そう思って振り向くと、事態は更に悪くなっていた。
「ん……あ! はあ……はあ……はあ……」
あの……センパイ?
お加減が、その……。
そんな気遣いなど知らぬげに、荒い息づかいが続く。
「あ……、ぐっ! んふ、うう……」
……センパイが苦しげに喘いでいた。
悪い夢でも見ているのだろうか、頭をじたばたと左右に振る。その度に、艶やかな黒髪が白いシーツの上に乱れ、こぼれた。
僕は息を大きくきく吸い込んだ。かすみセンパイの部屋を満たす甘い空気がすっと肺を満たす。
理性!
僕はこの二文字を眼前にイメージした。
部活で習った鍛錬法だ。実際に見えるわけではない。だが、もしかしたらないかもしれないものが、そこに確かな物体として存在する、と僕は信じることができた。
「……よし」
僕はベッドに歩み寄った。
かすみセンパイは四肢を大きく広げ、シーツに横たわっている。黒髪が放射状に広がっている。
素肌を剥き出しにしたしなやかな腕は、手を伸ばしたすぐそこにある。
僕は思い切って、声をかけた。
「センパイ……」




