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母の愛に感謝します

そのとき、僕のスマホが鳴った。


「やば……ったったった!」

 

 慌てて画面を見る。


「……て、オフクロかよ」


 ここで目を覚ましたセンパイに、寝姿をいやらしい目で見ていたとは誤解されたくない。そっとベッドのほうへと振り返ると、腋の下が大きく広がって、白く細い腕がだらんと垂れ下がっている……。


 僕は鳴り響くスマホに注目した。というか、そういう芝居をした。

 いつ先輩が起きてもいいように、というかそうならないかと期待したんだけど、ダメだった。

 電話は切れた。センパイの部屋には静寂が戻った。


「すう……すう……」


 聞こえるのは、甘い寝息の音だけだ。

 小さな唇を微かに開けて白い歯を覗かせているセンパイの……

 自分の喉がゴクリと鳴るのにはっとして、僕は再びパソコンに向かう。


「えーっと4シーン目だから、大雨の中で観と、彼を連れ戻そうとするその他の登場人物が対峙する。豪雨に流される廃屋。地すべりから観を助ける周囲の人々。観は、両親や友人、先生が自分を心配しているのを知る!」


 声を出しながら書いても、やっぱりセンパイは聞いてないみたいだった。

 手が止まったけど、いやらしい想像をしたからじゃない。

 センパイを起こさないと始まらないのだ。ダメ出しを食らえば、書いた分が全部ムダになる。

 起こさなくては。


「あの……センパイ? かすみセンパイ?」


 椅子を立ってベッドに近づくと、もっと恐ろしいことになっていた。

 さっきまで上がっていた片膝が、倒れている。

 外側へ……

 つまり、裾の部分が大きく広がったホットパンツの脚の片方が曲げられた状態で外側に倒れてるってことは僕のほうから見た場合どういうことになるかっていうと……

 そこで再び着メロがきんころか~んと鳴って、僕は再び我に返った。


「いかんいかんいかん落ち着け落ち着け落ち着け見るな見るな見るな真崎周作!」


 僕はスマホに飛びついた。メールだった。

 差出人の名前を見た途端、ヒートアップした頭は一気に冷却された。

 オフクロからだった。


《夕飯何がいい?》


 感謝しますお母様。

 僕は倫理道徳的な罪を犯す瀬戸際から救ってくれたことへの感謝を込めて返信した。


「外で食べて帰るからいい……と」

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