ベッドの上のセンパイ
2つ目のシーンを書き終わって、僕は背後にセンパイの気配がないのに気がついた。
「……センパイ?」
昼過ぎまでセンパイは、一行書くごとに小うるさく書き直しを命じていた。その声がいつの間にか聞こえなくなっていた。道理で作業が進んだわけである。
だが、いくら書けても、かすみセンパイのOKが出なければ意味がない。
「センパイ……あの……」
キーを叩きながら声をかけると、低い叱咤の声が飛ぶ。
「真崎!」
思わず身体をすくめたが、その声は僕のすぐ背後からのものではなかった。
ちらりと振り向こうとすると、また叱られた。
「集中しろ」
「はい」
やっぱり監視されてた……。
再びパソコンに向かう。
そりゃ、センパイだって一休みしたいだろうなと思いながらキーを叩き続ける。
あとでまとめて書き直す羽目になるかもしれないが。
でも、何でそんな効率の悪い事を……? 最初に全部書いてきたときは、あんなに怒ったのに……。
僕が考えていることなど全てお見通しとばかりに、かすみセンパイはあくび混じりのご託宣をくれた。
「言うことは全部言ったからね。同じ間違いをしないように。アタシは寝る」
女の子が、自分の部屋で、兄弟でもない男子と二人きりなのに、無防備にも、寝ると宣言するとは。
「え……?」
しかも、センパイの眠たげな声は、僕の心のリミッターをぐらつかせるのに充分だった。
その誘惑に負けて、つい、そっちを見てしまう。
「見るな!」
その一喝は、とてもベッドの上で睡魔に襲われている人の声とは思えなかった。




