最後のピースがはまる
「ここ、伏線いるからね。やってくる豪雨の情報は、最初の辺りで忘れないように」
そう言いながら、かすみセンパイはルーズリーフの真ん中に線を引く。僕の無知丸出しの質問にいちいち答えながら、しゃっしゃかと図を描いた。
もっとも、この図が完成するまでにはセンパイも相当、僕のまどろっこしい質問に我慢を重ねなければならなかったろうと思う。
「この真ん中だけ細いの、何の線ですか?」
「コレが引き割り幕」
線を境にした手前には「廃屋」と書かれ、その奥には大きなマルが描かれた。
装置の置き場所らしいことは、ボクにも分かった。
「他に何を?」
かすみセンパイは、マルの中に「メカ」と書いた。
「ここに第1シーンで、廃屋の中のメカを置く」
小屋の奥にメカがあるのは分かったけど、教室のシーンだってあるのだ。小屋の装置はどこへやるんだろう。
「動かすの、時間かかりますよ」
ツッコんだつもりが、軽くかわされた。
「動かさない」
引っかかったな、とでも言うように、センパイは悪戯っぽく笑った。何が何だか、さっぱり分からなかった。装置を動かさないと、場面が変わったことが分からない。
「じゃあ、どうやって教室作るんですか?」
そんなことなんでもない、というふうに先輩は答える。
「机とか椅子は、轢き割り幕の手前に最初から置いておく。小屋の中にだってそのくらいあるだろうし、第2シーンと第3シーンで引き割り幕を閉めれば教室になる」
でも、僕の心配は尽きなかった。
「第4シーンは?」
廃屋の外にたちはだかる観が、両親やあきら、総一郎、担任と睨み合うシーンだ。どうしても、壁とか扉の装置を置かなくちゃいけない。
返答は迅速だった。
「キャストが運べる最小限のものを。観が引っ張って来られるように、ドアだけの装置にキャスター付けて」
結構なムチャ振りを、かすみセンパイはさらっと言ってのけた。舞台監督を自分で買って出たっていうけど、裏方の苦労が分かってんだろうか。