ナレーションの使い方
センパイは、ちょっと挑戦的に笑ってみせる。
「観が廃屋に通うあたりはナレーションでさらっと流す。小菅を上手に使えよ」
言われるまでもなく、僕はカンが冴えるようになったのを感じていた。
頭の中に、アイデアが次々に閃いてくる。
「観がナレーションしている間に、舞台には教室が現れます。そこではもう、小菅がウロウロしています。やがてあきらが入ってきて、小菅は逃げていきます。その動きを見ながら、観は二人について解説します」
そこで、かすみセンパイは何かに気付いたようだった。
僕をまっすぐに見据えて、尋ねる。
「パクッたな?」
その言葉は、決して非難ではない。
僕は自分の口元がにやけるのを感じていた。
「さて、どうでしょう?
でも、センパイには、分かったらしい。
ヒントは、ちゃんと生かされていた
テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』と、ソーントン・ワイルダー『わが町』のナレーションは、こんな具合に進んでいるのだ。
僕はセンパイの問いには答えず、小菅の使い方についてのアイデアを確認した。
「観が悠里のことを隠しても、小菅がしゃべってしまう?」
かすみセンパイの顔には、満面の笑みが浮かぶ。
「よくやった!」
拍手の音で、僕はなんだか得意な気分になって、先の展開を意気揚々と語った。
「それを聞いたあきらとのトラブルが原因で、観がやってることは担任や両親にバレてしまいます。もちろん、どれだけ問い詰められても観は何も教えません」