ツカミには葛藤を
僕が話すあらすじを確認したセンパイは言った。
「いちばん設定をブチこまなけりゃいけないとこだからね。アンタの説明がくどいのは仕方ない。問題は、どのシーンでこれを説明しきるか、ってこと」
そこで、頭の中で閃いたものがあった。
「廃屋を覗く観と、悠里のやりとり……ですか?」
思い付きを口にしたところで、いきなりセンパイは叫んだ。
「真崎!」
背中をバン、と叩かれて、僕はうろたえた。
「……まずいですか?」
かすみセンパイは、片目を閉じて親指を立てる。
「いいセンスしてるじゃない。何でそう思った?」
てっきりセンパイの怒りを買ったかと思っていたら、上機嫌なのにほっとした。
それどころか、大好評だ。
何だか妙に自信が出たけど、ここは用心するところだ。
「中を覗こうとして悠里に捕まる観の姿を想像したら、なんか面白かったんで……」
そこでセンパイは、ゆっくりと目を閉じた。
低い声で、ひと言だけ答えが返ってくる。
「それでいい」
かすみセンパイは満足気に頷いた。
上げてから落とされるんじゃないかと心配していたので、ちょっと面食らった。
「え……そうなんですか……ああ、はい」
生返事だったのだが、センパイは話を続けた。
「芝居はね、葛藤とその解決で進むの。覗きまでの事情は、捕まった観が話すことにすればいい」
そこで、僕はちょっと考え込んだ。
「そんなに簡単に喋るでしょうか?」
あまりにも都合のいい展開だという気がした。
でも、センパイにとっては難問でもなんでもなかったらしい。
「廃屋に怪力で引きずり込まれて、周りには怪しげなメカの山。そこで『吐け』とやられたら黙ってられる?」
悪戯っぽく笑ったかすみセンパイに、僕は即答した。
「吐きます」
今のかすみセンパイと僕の関係だと思ったが、それは言わない。
間髪入れずに、ご託宣が下る。
「ハイ、廃屋の舞台装置決定。怪しげなメカの山」
かすみセンパイはポンと手を叩く。
こうして、連休初日に最初のシーンの構想が固まった。
《私のことは誰にも言わないで》
悠里のセリフの後に、彼女の設定を観が花道でのナレーションで語るのだ。
そこで、次のシーンに入ることになる……。