……じゃない地獄の連休
俄然、やる気になったかすみセンパイのテンションは高かった。
「よし! じゃあ、徹底的に絞るからね。着席!」
僕は再び腕を掴まれ、椅子に座らされる。
あの威勢は自分でもどこへ行ったと思うほど見苦しく、僕は半泣きで抵抗した。
「ぢょっど、やずまぜでくだぢゃい……」
そんなのが通じるかすみセンパイじゃない。
「ダメ! 今から連休は始まってるの!」
僕は息も絶え絶えに、無駄な抗議をした。
「そんなムチャクチャな……」
そして再び、いつも通りの説教が始まる。
「だいたいアンタねえ、劇の基本的なスタイルを分かっていないの!」
僕は、僕の常識に従って書いたつもりだった。
「1シーンごとにナレーターを出して話を進めちゃダメなんですか?」」
アニメだってテレビドラマだって、場面が変わればナレーターが格好良く、その場の状況を説明してくれる。
でも、かすみセンパイはきっぱりとダメ出しをした。
「基本的には反則。『なぜそうなったか』『その結果どうなったか』ってことは、きっちりセリフとト書きでドラマにしなくっちゃ」
まだ自分のプランを諦めていなかった僕は、最初のひと言に食らいついた。
「基本的には?」
センパイは、その反応の甘さをたしなめるように、重々しい口調で言った。
「例外があるってこと」
そこで目の前に置かれたのは、2冊の文庫本だった。
テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』。
ソーントン・ワイルダー『わが町』。
作者も題名も、聞いたことがない。
「へえ……」
半信半疑で答えると、かすみセンパイは目を吊り上げて叫んだ。
「『へえ』じゃない! 読んでくる!」
仕方なく、僕は文庫本を重ねて手に取った。
「じゃあ、連休明けに」
空いた机を、かすみセンパイは掌でぶっ叩く。
「明日だっての!」
僕は再び、半泣きで答えた。
「そんなムチャクチャな……」
……そんなわけで、僕は次の日から朝早く登校して、かすみセンパイの待つ選択授業教室に通うことになったのだった。