表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿命5年の軌跡  作者: 86星
5/5

軌跡5〜私と過ぎ去る季節〜


〜軌跡5〜「私と過ぎ去る季節」


未だ残暑が残る中、校長先生のありがたいお話を聞く。

夏休みが明け始業式、体育館に夏の陽射しが容赦なく降り注ぐ。

私は長袖のワイシャツで額に出来た汗を腕で拭う。

体育館の窓は全開に開いているが涼しい風が入ってくることはなくサウナ状態だ。

これでは尋問にも等しい。

最近の学校には体育館にもエアコンが設置されているらしいが私達が通うこの学校には教室以外、エアコンは設置されていない。


「早く終わらないかな……」


そんな本音が口から出てしまう。



始業式が終わり教室に戻るとキンキンに冷えた教室がお出迎えしてくれた。

天国だ〜〜〜


「ふぇ〜〜〜」


「夏希は?」


私の隣に来ていた美雪が話しかけてきた。


「夏希くん?そういえば始業式にも出てなかったね」


彼の机を見るとカバンがあるので学校に来ているはずなのだが……


「ちぇ!あいつボイコットしやががったな〜」


夏希くんが授業や行事に参加しないのはいつものことなので慣れたが……


「はー、夏希のやつ始業式に参加しねえとか2学期そうそうやるねぇ〜」


「先生達も何も言わないしやっぱり裏の業界と繋がっているとか?」


「なにそれ!ウケる!!!」



など彼のこともよく知らないで悪口を言うクラスメイトがいる。

そんな連中を見ると腹が立つ!!!


「渚、あんた顔が怖いよ」


どうやら夏希くんの悪口を言うクラスメイトを睨んでしまっていたらしい。


「夏希くんのことよく知らないくせに」


「それは私達もでしょ?でも実際に素行はよくないよね〜授業に出ないとか普通じゃないし……この際だから本人に聞けばいいじゃん」


確かに美雪の言うとおり本人に聞くのが1番手っ取り早いだろう。

しかしーーなんか聞く事がはばかれる。

何か事情がある事は間違いないと思うのだが……

そんな思考をめぐらせていると担任の荒木先生が教室に入ってくる。


「はい、皆さん席についてください!」


談笑していた生徒たちは各々の席に座る。


「え〜今日から2学期が始まりましたが、そろそろ受験を視野に入れている生徒もいると思います」


ーー受験


「皆さんも知っていると思いますが我が校には進路指導室という場所があり皆さんの進路についての相談をのっています、もし相談にのってほしい事があれば遠慮なく私か進路指導室にいる先生方に相談してくださいね、それでは今日はここまでとしましょう!委員長、号令を」



放課後ーー

私と美雪は夏希くんがいるであろう音楽室に向かっていた。


「受験……はぁ〜」


自然とため息が出てしまう。

病気の事もあるのにその上受験とは……

それに私の余命からして高校に入ったとして卒業することはーー


「何ため息ついてるのさ〜?」


「ため息もつきたくなるよ〜受験なんて考えてなかったし……」


「まぁ、確かに受験や進路なんてまだ先の話だと思っていたけどそろそろ考えないといけないよね〜」


夏希くんは進路とか決めているのだろうか?

彼は頭が良いからきっと偏差値が高い進学校に行くに違いない。

そうなれば自然と私達とはお別れになるーー

音楽室にたどり着き扉を開ける。

その瞬間、エアコンの冷たい風が肌に当たった。

私と美雪は音楽室の中を見渡が……

そこに夏希くんの姿はなかった。


「あれ?いない……おっかしいな〜あ、でもあいつの楽器ケースはあるや」


楽器ケースが置いてあるという事は部屋のどこかにいるのだと思うけど……

念のために音楽準備室もみてみるが彼の姿は見つからない……

その代わり音楽準備室にはモップとバケツが置いてあった。

掃除でもしていたのかな?


「渚〜、夏希のやついた〜?」


「ううん、いないみたい」


トイレにいっているのかな?

彼の楽器もある事だし、しばらくここで待っていればすぐに戻ってくるだろう。

しかしーー

いつ見ても綺麗に手入れされているユーフォニアム……

とても大切にされている事がわかる。

私も早く自分のトランペットが欲しいなぁ〜

そんな想いを馳せる事数分……

廊下から足音が聞こえて来た。

その足音は音楽室の前で止まり話し声が聞こえた。


「本当に断ってよかったの?」


「はい、進路先は既に決めているので」


この声は……

夏希くんと荒木先生?


「じゃあ先方には改めて伝えておくわね」


「おねがいします、できれば2度と来ないようにも伝えてくれるとありがたいです」


「そう言う事を言わないの!」


「それでは練習があるのでこれで失礼します」


「ちょっと!待ちなさい!?」


話が終わった?のか音楽室の扉がガチャリ、と開かれる。


「夏希くん、どこに行って……ふぇ!?」


私の奇声に驚いたのか、フルートの手入れに集中していた美雪がビクッと身体を震わす。


「どうしたの渚!?そんな奇声なんてあげてって……はぁ!?」


美雪も音楽室に入って来た夏希くんにビックリして奇声をあげてしまう。


「2人とも来ていたんだ?……というか人を見るなりそんな声をあげないでほしいな……まるで僕が悪いことをしたみたいじゃないか」



「いや……だって、あんた……その格好……」


私達が驚くのも無理はないと思う、だって彼の格好が……格好が……


「……マフラーしているがそれほど変かな?」


「変に決まってるでしょ!?今、何月だと思ってるの!?」


「9月だね、ほら?マフラーしていてもおかしくない季節」


「9月でも気温はまだ夏なの!!!それに見てるこっちが暑くなるわ!!!」


夏希くんは夏にもかかわらず首に腰まである長めの赤いマフラーをしていた。



何故そんな格好をしているのか?と私達が問い詰めたところ彼の言い分はこうだ。


「人に肌を見せるのは苦手だから」


確かに夏希くんが半袖を着ているところは見た事がない。

それどころか夏休みに会った時も長袖を着ていた。

つまり……つまりどういうこと?


「大体ね!渚も夏希もこの時期に長袖なんか着て暑くないの!?」


ふぇ!?

攻撃の矛先が私にも!?


「僕達がどんな服を着ようが美雪さんに迷惑はかけていないよね?それどころか他の誰にも迷惑はかけていないはずだよ、ただ通り過ぎた人達に、なにあの人?みたいな目で見られはしたけど……僕はそんなこと気にしてないし……気にしてない……から……」


最後の方、明らかに気にしてます感をアピールしシュンとする夏希くん。

彼について少しわかった事がある。

彼は何か策を実行するとき饒舌になる。

昨日のゲーム実況で美雪を怒らせた時もそうだった。

つまり今、夏希くんは作戦実行中ということになる。


「あ〜あ〜わかった!わかったから、落ち込まない!」


「じゃあこの話は終わりということで、吹奏楽の練習をしよう、僕は準備室に置いたままの掃除道具片付けてくるから準備して待ってて」


「あ!私も手伝う!」


夏希くんの後についていき音楽準備室の中に入る。


「夏希くんも中々やるね?」


「何のこと?」


「美雪を誘導して話を無理やり終わらせるなんて」


「……知らない」


彼は少し頬を赤らめて顔を背ける。

どうやら私の考えは当たっていたらしい。

これからは、夏希くんが饒舌な気を付けた方が良さそうだ。

でもーーお礼は言っておかないと


「ありがとう」


「……どういたしまして」


ーー長袖の件もそうだし

ーー掃除の件もだ、きっと音楽室と音楽準備室を掃除してくれたのは、1番最初に私がここに訪れた時に体調を崩してしまったからだ。

彼はそのことを気にして掃除をしてくれたのだろう。

だからもう1度言っておかなくちゃ!


「ありがとう、夏希くん!」


「ーーどういたしまして」


気のせいだろうか?彼が少し微笑んだ気がした。


「さて、夏休み中に腕が鈍ってないよね?今日から厳しくいくから覚悟するように」


鬼だ……鬼がいる!?

やっぱりさっき言ったお礼は取り消そう……



季節は変わり秋になり冬になる。

年が明けてから数ヶ月、桜の花びらが咲き始める季節、そして明日から春休みーー


学校が終わり放課後、美雪と夏希くんと一緒にトランペットの練習をして帰宅した。

夕食を終えお風呂に入りベッドにダイブする。

ベッドにひいてある布団からはお母さんが洗濯をしてくれたのか洗剤とお日様の匂いがした。

明日からまた検査入院……

私の頭の中は不安でいっぱいになっていた。


「私ーー死んじゃうのかな……」


死期が迫ってくる恐怖に加え受験というプレッシャーが私の精神に追い討ちをかける。

そんな不安に押し潰されそうになっていると机に置いてあったスマホが震える。

ベッドから立ち上がりスマホを手に取り画面を確認してみると……


「ふぇ!?」


そこには《《夏希くん》》と書かれていた。

彼からメッセージが届くのは非常に珍しく珍しさのあまり驚いてしまった。


「内容は……」


(今、少し時間いい?大丈夫そうなら電話くれるかな)


私は慌ててラインの通話ボタンを押した。

1コール目が鳴り2コール目がなる。

緊張で胸がドキドキする……

そして3コール目が鳴ると同時に夏希くんが通話に出た。


「夜分遅くにごめん」


彼から発せられた第一声が謝罪だった。

とても律儀な彼らしい対応だ。


「ううん、全然大丈夫だよ」


私は緊張しつつも平然を装う。


「少し聞きたい事があって電話してもらったんだけど」


「う、うん」


「君の春休みの予定を聞きたくて」


私の春休み……


「春休みはーー」


「ごめん、言いにくかったら言わなくていいよ」


私が妙な間をあけてしまったせいか夏希くんに気を遣わせてしまった。


「う、ううん!言いにくい訳じゃないの!ただ……検査入院で……憂鬱な気持ちになったというか……」


「そうなんだ……」


「…………」


「…………」


ーー嫌な沈黙が続く

私は話題を変えるため進路について聞いてみた。


「そ、そういえば夏希くんは、もう進路とか決まっているの?」


「進路?うん、決まってるよ」


「私は全然決まってなくて……それでアドバイスとかあれば……とか思ったり思わなかったり?」


「アドバイス……?それなら僕より両親とか先生、進路指導室で聞いた方が的確に教えてくれると思うけど?」


「確かにそうなんだけど……」


彼の言う事は正論だ。

普通の生徒ならまずは両親に相談するのが当たり前なのだろう。

しかし私の中では両親に相談するという行為はあまりしたくはない……


「美雪さんと同じ高校にするとかは?」


「美雪もまだ決めていないらしくて……というか美雪は私と同じ高校にするの一点張りで……」


「……彼女らしいといえばらしい考えだね、よっぽど君の事が大切なのだと思う」


「えへへ、でもだからこそなんとなくで選びたくないというか……ごめん、うまく言葉にできないや」


「……」


私の言った事に呆れているのだろうか?

夏希くんが黙り込んでしまった。


「…………もし、同じ高校に……て言ったら……いや、ごめん忘れて」


夏希くんが途中まで言い掛けた言葉を脳内で反芻し理解する。

その瞬間、私の心臓が大きく跳ね上がり鼓動が早くなる。


ーーそれは私が望んでいる未来

私と美雪、夏希くんが同じ高校に入り今のような楽しい日々を一緒に過ごす

ーーそんな未来

ーーだから私は


「私も……私も夏希くんと同じ高校がいい!」


そんな言葉を口走ってしまっていた。



それから1日が経ち私は病院に検査入院をすることとなった。

患者認識用リストバンドを左手につけられるとまた入院するんだ……という実感が湧いてくる。


「はぁ〜」


自然とため息が出てしまう。

ベッドの上から窓を眺めると桜が咲いていた。

7分咲きぐらいだろうか?

桜は綺麗だが同時に切なくもなる、と何かの小説に書いてあった気がする。

私は桜の散りゆく景色を想像しながら自分の命と重ねてみる。


「あの桜が散ったら私も死んじゃうのかな……」


少し乙女チックな事を呟いてみるが我ながら恥ずかしい……


「思ったより元気そうだね」


突然の呼びかけに声のした方向をゆっくりと見てみる。

そこにいたのはーー


「……ふぇ!?な、な、夏希くん!?」


「漫画みたいな驚き方ありがとう、何か物思いに耽っていたみたいだけど大丈夫?」


そこにいたのは、赤いマフラーに身を包んだ夏希くんだった。


「……さっきの聞いてた?」


目を逸らす夏希くん……

その反応で答えがわかる!?

私は布団をかぶり恥ずかしさのあまりに悶える。


「ふぇ〜〜〜〜〜〜!!!女の子の病室にノックもなしに入るなんて〜〜〜〜〜〜!!!」


「共同病室だからノックはできないよ、他の患者さんに迷惑になるからね、見られるのが嫌ならカーテンを閉めればいいのに」


「正論なんて聞きたくない〜〜〜!!!」


とりあえず布団をかぶったまま反論するが正論で返される。


「ごめん……とりあえず面会終了時刻まであと5分しかないから話を聞いてくれないかな?」


そう言われたら……仕方ない。

渋々だが布団から顔を少しだし夏希くんの方をみる。

よく見てみれば彼はユーフォニアムのケースを手にしていた。

なんで面会終了ギリギリでユーフォニアムを手にしているのだろうか?

普通に考えれば練習の帰りとかかな?

考えるのは後にして今は夏希くんの話をきかなくちゃ。


「……それで話って?」


「君が昨日、同じ高校に行きたいって言っていたからパンフレットを持ってきたよ」


彼の手には高校のパンフレットが握られていた。

私は布団から手を伸ばしパンフレットを受け取る。


「……ありがとう」


「それと屋上の鍵も渡しておくね」


一瞬なんの鍵の事を言っているのかわからなかったが少し考え答えに行き着く。


「…………ふぇ!?いいの!?」


布団から飛び起きて夏希くんの手を見てみる。

そこには、この病院の屋上の鍵があった。


「うん、トランペットは……持ってきているね」


彼は椅子の上に置かれていたトランペットケースに気付いたのか感心したように言う。


「何か肌身離せなくって……えへへ!」


「屋上に置いてある楽譜台も使っていいから思う存分楽しんで練習してくれると嬉しいかな」


マフラーで口元を隠しているが夏希くんが微笑んでいるのがわかる。


「ありがとう!!!」


「どういたしまして、それじゃあ僕は行くよ」


「あっ!エレベーターまで送るよ」


ベッドから起き上がりスリッパをはく。


「大人しくしていなくていいの?」


「大丈夫、大丈夫」


私が先導するように前を歩き廊下に出たところで夏希くんが後ろからついてくる。


「そういえば何で今日はユーフォニアムを持ち歩いているの?」


「まぁ色々あってね」


「ふ〜ん?」


「僕も気になっている事があるんだけど今回の入院、美雪さんにはどう伝えるの?」


「……旅行に行っているとか?」


「それだと君の家庭は長期休みの度に旅行をする仲良し家族だね」


「う〜〜〜だって他に思いつかないもん!」


美雪には毎回、旅行に行っているで入院している事を誤魔化してきたがそろそろこのネタは使えないかもしれない。


そんな会話をしているとあっという間にエレベーターに辿り着いてしまった。


「じゃあまた新学期に」


「パンフと鍵ありがとう、またね」


夏希くんはエレベーターに乗り込みそのまま1階に降りて行った。

それを見届けてから自分の病室に戻ろうとしたところで看護婦さんに会った。


「今の子は……男の子?女の子?」


「男の子ですよ」


彼の外見を考えれば間違われても仕方ないだろう。


「あら、じゃあ彼氏さんね」


「……ふぇ!?ち、違います!!!」


「まぁ照れなくてもいいのに〜」


「ふぇ〜〜〜〜〜〜!!!」



入院中は屋上でトランペットを練習し桜が散り始めた頃に退院した私は残りの春休みを家で過ごした。

念のため、春休み中は家で過ごしなさい!という両親の意見を渋々飲み部屋でハイチューブのtoumaチャンネルに投稿されている動画を見て過ごした。

ゲーム実況だけかと思っていたらチャレンジ企画なども投稿してあり駄菓子を使って料理を作ったり自作した小説を朗読したりと、動画に映っているtoumaくんや、声だけで参加しているナッツーはイキイキしていて少し羨ましかった……


そして春休み最終日ーー

私と美雪は冬馬くんの家にお呼ばれしていた。

ハイチューブの生放送をするから来ないか?

というお誘いだった。

退屈していた私にとってそのお誘いは幸甚の至りであった。

美雪と待ち合わせをし一緒に鹿骨にある冬馬くんの家に向かう。


「あんた春休みどうしてたのよ?」


「う〜ん、ちょっと家の用事で忙しくって……」


当たり前の事だが私が春休みどうしていたかを聞かれる。

毎回、旅行だと怪しまれるので家の事情で誤魔化す事に決めた。


「私は渚と会えなくて退屈で退屈で……」


「他の友達と遊びに行かなかったの?」


「わざわざ小岩まで行く気力がなかったから断ったわ〜」


登校する学校が遠いと遊ぶ約束をする時や誘われた時、意外と面倒という事に中学に入ってから気付かされた。


「大丈夫?付き合い悪いと思われたりしてない?」


「それを渚がいうのかい!」


「ごもっともです……」


会話が弾んだおかげか目的地にはあっという間に到着した。

私達は冬馬くん家のインターホンを押す。

しばらくすると家の玄関から冬馬くんが出てきた。


「時間ぴったりだな、さぁ遠慮なくあがるがいい」


久しく会っていなかったが相変わらずの口調である……

案内をされるがまま家に上がり目的の部屋に入ると既に赤いマフラーを首に巻いた夏希くんがカメラのセッティングをおこなっていた。


「夏希くん、久しぶり!」


「うん、久しぶり」


「なんか夏希の顔を見るとさ〜蹴りたくなる」


「僕はサッカーボールかなにかなの?嫌だよ」


「ははは!相変わらず仲がいいな」


「……そう見えるなら冬馬は眼科、あるいは脳神経外科に行った方がいいよ」


前と変わらぬ光景ーー

自然と笑みが溢れる。


「さて、今回集まってもらったのは事前にも伝えたとおりハイチューブの生放送なのだが……いかんせん内容を決めていなくてな、そこで皆の知恵を借りたい」


内容が決まっていないという事はゲーム実況じゃなくてもいいという事だよね?

私はゲームが苦手だからできれば避けたいところ。


「ゲーム実況じゃダメなんですか?」


「美雪氏よ、せっかく4人が集まったのだ、いつもとは違う事をやってみたくはないか?」


確かに一理ある。

しかしだとするとチャレンジ企画だろうか?

いや、身体を張った企画とかは遠慮したいし……


「兄弟は何かないか?」


「明日から新学期で新学年になるし……お悩み相談とかはどうかな?あと人前でその呼び方はやめて」


「あ!それいいかも!」


夏希くんの提案に賛成する。


「まぁそれなら私達でもなんとかなるか〜」


「ふむ、では今回の放送はお悩み相談という事で異論はないな?」


「「意義なし!」」



流れとしては、視聴者からコメントで悩みを受け取りそれを私達4人でアドバイスするというかたちだ。

放送が始まってからいくつかの悩み事に関するコメントが投稿されはじめる。

流石に全て拾うのは難しいので目についたものだけにする。


「では最初はこの方の悩みにアドバイスを送ろうではないか!」


「えっと、学生の方かな?クラス替えで好きな子と違うクラスになってしまうのではないかと心配です……だって、恋愛の事なら女子2人の方が詳しいかな」


「ふむ、イッチーとみゆみゆはどう思う?」


toumaくんとナッツーに話題を振られる。


「クラス替えで離れるのが嫌ならいっそう告白するべき!」


「みゆみゆらしい意見だな、してイッチーはどう思う?」


「私なら……また同じクラスになれるように神頼みかな」


「俺なら先生達に混じりクラス替えを好き勝手いじるな」


「それは絶対にやったらダメだから……」


「次のお悩みコメントは……これにしよう、サッカーが上手くなりたいです、だって」


「気合だ!!!よし、次にいこうではないか」


「適当!?」


真面目なのかふざけているのかわからない感じでお悩み相談は進んでいった。

……おふざけのほとんどはtoumaくんによるものだけどね……


「時間的に次で最後だな、最後は……よし、このコメントいしよう、……ふむ、これは真面目に答えなければならぬな」


「えっと、最近友達に自分は病気で長く持たないと言われました、その友達は私にとってとても大切な存在で……今後どのように接したらいいでしょうか?か……みゆみゆならどうする?」


ふぇ!?

なんか私と同じ状況のお悩みがきた!?

というか私と同じ状況とかどんな確率!?


「私なら……普通に接するかな、その病気の子は勇気を出して打ち明けてくれたんだと思うし、もし打ち明けないまま居なくなったら……私は傷つくし、その傷は一生言えないと思うから……だから打ち明けてくれてありがとう……でいいと思う」


「へぇ〜みゆみゆにもそんな優しさがあったんだね」


「な!?ナッツー後で覚えておきなよ!?」


そんな感じで生放送は終了した。

そして片付けをしている最中の事。


「そうだ、皆の者、軽く宴をしようではないか?」


「それってお疲れ様会ですか?」


「そうとも言うな」


「そうしか言わないから……」


「悪いが美雪氏よ、俺と一緒にキッチンにきて手伝ってくれないか?」


「冬馬さんが言うならいいですよ」


「ではここの片付けは2人に任せた」


「わかった」


そういうと冬馬くんと美雪は1階に降りて行ってしまった。

自然と私と夏希くん、2人きりになる。


「冬馬は作戦通りに動いてくれたみたいだね」


「作戦?」


私は何のことか分からずに首を傾げる。


「さっきの病気のコメントを打ち込んだのは僕なんだ」


「ふぇ!?」


「このスマホでコメントを打ち込ませてもらったよ、でも安心して冬馬には僕がコメントを打ち込む事を言っていないから、冬馬の性格からして最後のタイミングであのコメントを打ち込めば読んでくれる確信があったからね、だから冬馬も今日の作戦の意図は知らない」


夏希くんの手にはスマホが握られていた。

どうやら生放送中に視聴者のふりをしてコメントを打ち込んだらしい。

何でそんな事をしたのだろう?


「さっきの美雪さんの答え、聞いたでしょ?だから君は美雪さんに病気の事を打ち明けても大丈夫だよ」


「あ……」


ここにきてようやく理解する。

今日の生放送、全ては仕組まれていた事なのだと……


「今日、君達を呼んだのもお悩み相談をしようと言ったのも今、2人きりなのも計画通りというわけ、冬馬と事前に打ち合わせさせてもらった、黙っていた事は謝るよ、ごめん」


夏希くんは私が美雪に病気の事を伝えるのを拒んでいたのを知っている。

いや……拒んでいたのではなく実際は恐れていたのだ。

美雪に伝えたら絶交されるのではないか?

絶交されなくても今まで通りの関係でいられなくなるのではないか?


「美雪さんの本心はさっき聞いたよね?」


「ーーうん」


美雪は例え大切な友人が余命僅かでも今まで通りに接すると……そういったのだ。


「まぁ、余命僅かのところは少し盛らせてもらったけどね」


確かに彼には私の余命が僅かな事は言っていない。

でも見事に的を射抜いていた。

だから私はーー


「盛ってなんかいないよ、私ね?もうすぐ死んじゃうの」


「……」


「高校を卒業するのは難しい、て先生に言われてる、だから全部あっているよ」


「……」


夏希くんは私の話を黙って聞いてくれていた。

だから私も遠慮なく話し続ける事ができた。


「私ね、心臓病なの、移植すれば助かるけど……ドナーは絶望的だって言われてる、だから移植は諦めてる、そんな絶望している時にね?私は夏希くんに出会ったの、ユーフォニアムを吹いている夏希くんを見て……惹かれて、私もトランペットを始めた、それが私にとって生きる意味に変わっていったの、だから残りの人生で私はトランペットを上手くなって……自分みたいに絶望している人に希望を与えたい!それが……それが私の夢、だからね?夏希くんには凄く感謝してる、ありがとう!」


私は今できる精一杯の笑顔でお礼を言う。

彼は今、どんな事を思っているのだろうか?

そんな事を思っていると夏希くんは大きなため息をつき……


「君と僕は似たもの同士だね、君が教えてくれたんだから僕も教えなきゃね」


と、そんな事を言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ