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寿命5年の軌跡  作者: 86星
3/5

軌跡3〜私と夏休み1〜


軌跡3〜私と夏休み1〜



夏休みがやってきた!

蝉が大合唱をしてる季節、私は検査の為に入院していた。


「せっかくの夏休みなのに大人しくしていないといけないなんて…..」


この病院には動物園エリアというのがあり様々な動物達がいるのだ。


・ウーパールーパー

・イグアナ

・タイマイ

・マーラ

・デグー

・金魚

・アロアナ

・ガー

・白へび

・カメレオン

・アルマジロ

・リクガメ

・フラミンゴ


とにかく数が多い!

動物鑑賞は手持ち無沙汰の私にとってちょうどいい暇つぶしになる。

しかしそれもすぐに飽き…..


「暇だ〜」


いつも休みの日はトランペットを吹いているのだが、病院内の為トランペットを吹く事はできない。

ただでさえ2人に遅れをとっているのに…..

焦る気持ちからかジッとしている事ができない。



そんな日が何日か続いた。

夏休みの宿題しかやる事がなく私史上最速で宿題が終わってしまった。

私はお見舞いに来てくれていたお母さんに聞いてみた。


「お母さ〜ん、いつになったら退院できるの?」


「お医者さんが言うには後、1週間で退院できるそうよ?」


後1週間…..

私は元気なのに何でこんな退屈な檻の様な場所に閉じ込まれていなければならないのか?

前に退院した時はこんな事思わなかったのに…..

前はただボーとしているだけで暇をつぶせたのに今はとにかくトランペットが吹きたい!


「ちょっと廊下歩いてくる」


私はジッとしていられなくて気分転換に病院内を歩く事にした。



動物園エリアのソファに座りため息をつく。


「はぁ〜」


今頃、美雪と夏希くんは何をしているだろうか?

やっぱり楽器の練習しているのかな?

そうしたらまた私だけ置いてきぼりだ…..

入院しているとネガティブな事ばかり考えてしまう。

そんな時だった。


「本当にこの病院に入院していたんだ」


と知っている声がした。

私は声がした方に視線を向ける。

ーーそこにいたのは…..


「な、夏希くん!?」


「うん、そうだよ」


なんと!?

今まさに考えていた人物だった!

まさかの展開に何度も瞬きしてしまう。


「えっと、何でここに?」


「ナースステーションで僕と同い年の女の子が入院しているって聞いたからもしかしてと思って」


「そ、そうなんだ…..」


「それと入院しているから」


「夏希くん、どこか悪いの?」


私はそれとなく聞いてみた。


「それは話したくなった時に話す、そういう約束だよ」


だけど返ってきた言葉は否定するものだった。

どうやら夏希くんはまだ私に何で入院しているか教えたくないらしい。

まぁ、私も教えたくないからおあいこ。




夏希が私の隣に座りしばらく沈黙の時間が続く。

聴こえるのは動物達の鳴き声。

沈黙に耐えかねた私は夏希くんに話しかける。


「夏希くんはユーフォニアムできなくて辛くない?私はトランペットできなくて暇で暇で」


きっと夏希くんも私と同じ気持ちだろうとおもったのだが…..

返ってきた返事は予想外のものだった。


「ユーフォニアムなら吹けるから別に暇じゃないよ?」


「ふぇ?」


ユーフォニアムが吹ける?


「病院で吹けるの?」


「うん」


ふぇ?夏希は何を言っているのだろう?

病院で楽器など吹いたら看護婦さん達に怒られるに決まっている。


「病院の屋上が使えてね、そこで吹いているよ」


「ふぇ!?屋上!?」


「何か変?」


不思議そうに首を傾げる夏希くん。

盲点だった…..

確かに病院の屋上ならトランペットを吹いても問題ないかも?


「でも屋上は鍵が掛かっているんじゃない?」


「鍵ならかしてもらっているし許可もとっているから大丈夫だよ」


「…..何で早く教えてくれなかったの!?」


「いや、君が入院していると思わなかったし」


「い、今すぐに連れて行って!!!」


私は夏希くんに迫る勢いでお願いする。


「それはいいけど、トランペットあるの?」


「…..お母さんに頼んでくる!」


善は急げ!

私は自分の病室に戻った。



「お母さん!」


「渚!あまり走らない、身体に悪いでしょ…..?」


「ご、ごめんなさい…..そ、それより!」


私の慌てふためき様に何事かと心配するお母さん。


「明日トランペット持ってきて!」


「トランペット?いいけど…..」


お母さんの疑問もわかる。

病院に楽器を持ってくるなど普通はありえない。

屋上で吹ける事を伝えるとお母さんは承諾してくれた。

その後、夏希くんがいる動物園エリアに戻り私の病室を教えた。

これで明日、夏希くんが屋上に連れて行ってくれる。

やる事がなく暇だった私の病院生活に糸筋の光が差し込んだ。




翌日のお昼ごろ。

お母さんがトランペットを持ってきてくれた。

私は早速ケースを開けてメンテナンスを始める。

バルブオイルをさしピストンの動きを滑らかにする。

スワブで管内の汚れを取る。

スライドグリスで抜差管の滑りをよくしてクロスで表面を磨く!


「よし!」


完璧!

ピカピカになったトランペットを眺める。

ーー金色に輝く様子はまるで宝石の様…..

なんて思っているとトントンと病室のドアがノックされた。


「どうぞ!」


ドアから顔を見せたのは夏希くんだった。


「お邪魔します、屋上に行くけど…..準備はいい?」


「勿論!」


お母さんに一言いい、トランペットをケースにしまい持ち運ぶ。




屋上へと続く階段を登り屋上にたどり着く。


「わぁ〜」


目の前には土手と江戸川が広がっていて奥には千葉県も見える。

まさに絶景だった。


「気に入ってもらえたかな?」


「うん!でも立ち入り禁止の貼り紙あったけど大丈夫なの?」


「うん、ちゃんと許可をとっているから鍵をかしてもらっているんだよ」


それなら安心だ。

屋上には3つのパイプ椅子があり楽譜台も1つあった。

もしかしたら夏希くんは普段から屋上を利用しているのかもしれない。


「じゃあ始めようか?」


夏希くんがパイプ椅子に座り楽器ケースからユーフォニアムを出す。

更にポケットからスマホを取り出すとチューニングアプリを開いた。

…..いや、それよりも!


「夏希くん、スマホ持ってたの!?」


「うん、何で?」


「いや、だって…..」


雰囲気的に持っていないかと思っていた…..

などとは言えない。

中学はスマホ禁止だけど周りの友達なんかは皆んな持ってきている。

私もその内の1人だ。


「それよりライン交換しようよ!」


私はポケットからスマホを取り出すとラインを開きQRコードを表示させる。


「うん」


こうして夏希くんの連絡先を手に入れる事ができた。

彼のラインのプロフィールには猫の写真が使われていた。


「夏希くん猫飼ってるの?」


「うん」


また1つ彼の事を知る事ができた!



チューニングが終わり楽譜ファイルをペラペラとめくる。


「何の曲をやりたい?」


「私でも吹けそうな曲ある?」


「う〜ん」


多少吹ける様になった私だが流石にレパートリーが少ない。


「それじゃあ…きらきら星とか?」


「なんか予想外なのがきた!?」


「君の瞳がキラキラしてるからちょうどいいかなって」


スマホでメトロノームのアプリを開く夏希くん。


「私、そんな表情してる?」


「してる」


どうやら今の気持ちが顔にでてしまっているらしい。

まぁ事実なので否定はしない。



「他にもヤマトにルパンなんかも外せないね」


「…..きらきら星でお願いします」


それから私達はきらきら星を演奏した。

いや、演奏とは程遠いかもしれない。

私がミスするは音は外すはで上手に吹けなかったからだ。

それでも夏希くんはどこが悪いか?この部分はどう吹くのか?丁寧に教えてくれた。



そして夏休みも中盤に入った頃、ようやく私の退院日が決まった。

退院の事を屋上で練習中、夏希くんに教えた。


「よかったね、実は僕も明後日退院なんだ」


どうやら私と夏希くんの退院日は一緒らしい。


「そういえば美雪さんにはなんて伝えてるの?」


「美雪には旅行に行くって伝えてあるよ」


「そうなんだ」


しばらくの間、沈黙が続いた。

彼は今何を考えているのだろうか?

いや、私はその答えを知っている。

何で彼は友達を作らないのか?

それが答えだ。

だから自然と言葉にしていた。


「ーー私は夏希くんの友達だからね?」


「ーーうん」


「そうだ!退院したら遊びに行こうよ!」


さっきまで何かを考えていた夏希くんは途端に嫌な顔をする。


「普通に嫌なんだけど…..?」


「即答!?」


私は友達という存在の有り難さを教えてあげよう!

そんな事を思っていた。



めでたく退院を迎えた私は真っ先に美雪に会いに行く。


「美雪〜!会いたかったよ〜」


美雪に思いっきりダイブし、抱きつく。


「こらこら、抱きつかない」


そういう美雪もまんざらじゃない様に見えた。

毎日会っていると半月会わないだけで寂しいものだと実感する。


「あ!はい、これお土産」


美雪から離れコンテナショップで買った、沖縄商品を渡す。


「ありがとう〜」


記念写真だけはどうにもならなかったが怪しまれる事はないだろう。


「そうそう!旅行に行っている間もトランペットをちゃんと練習したよ」


「あんたは…..一応借り物なんだから気をつけなさいよ?」


「わかってるよ〜」


いつも通りだったやりとりも今は懐かしく感じる。


「それで?上手くなったの?」


「へへ〜ん!」


胸を張り得意げな表情をしてみせた。

病院で夏希くんと練習しまくったのだ、上手くらなない訳がない。

今やきらきら星はもちろん!カエルの歌だって吹ける様になった!

…..あれ?なんか小学生が吹く様な曲ばかりなきがするけど…..?



そのあとしばらくの間、美雪の家で過ごしお話に花を咲かせた。


「あ〜夏休みの宿題…..手つけてないや…..渚は?」


「…..ノーコメントで」


「その様子だと同じか〜」


「い、今からやれば間に合う!」


吹奏楽ばかりで忘れていたとは言えない…..

それに夏休みも半分をきっている。

本当に間に合うかは半々と言ったところか。

すると美雪からある程度受けた。


「そうだ!夏希に見せてもらおうよ!」


「え!?夏希くんに!?」


まさか美雪から夏希くんの名前が出ると思わなかったので正直驚いた!


「そうそう!あいつなら夏休みの宿題終わってそうじゃん?」


「どうだろう?」


確か入院している時はそれらしい素振りは見せていなかったが…..


「そうと決まれば早速電話しよ〜う!」


美雪はスマホを取り出しラインを開く。

その行動に疑問を覚えた私は彼女に聞いてみる事にした。


「え?美雪、まさか…..夏希くんの連絡先知ってるの?」


「うん、こんな事もあるかと思って夏休み入る前に交換しておいた」


「ふぇ!?」


私、そんな事一才聞いていないんだけど!?

夏希くんも言ってくれなかったし!




ーー翌日。


「お邪魔します」


「どうぞあがって!」


夏希くんが私の家に来た。


「おそ〜い!」


先に来ていた美雪が文句を言う。


「美雪さんが昨日、半ば強引に呼んだから…..」


あの後、美雪の電話に出た夏希くんは、美雪の有無を言わせぬ言動に戸惑い、今日、渋々来る形となった。


「だってあんた、絶対に嫌がるじゃん?」


「嫌だよ」


「だから無理やりがいいかな〜て」


ちなみに昨日の電話の内容はこんな感じだ。


「あ、夏希?明日宿題見せて!渚の家にお昼集合ね?来なかったらぶっ飛ばす!」


と、こんな感じだった。

その後、美雪がメッセージで私の家の場所を送り今に至る。

何で私の家?という疑問はあるが美雪は昔からこんな性格なのでもう慣れっこだ。




エアコンが効いた私の部屋に夏希くんを案内すると彼はキョロキョロと部屋を見渡していた。


「な、何か変かな?」


「いや、君の部屋だから散らかってるとおも…..」


バシ!と美雪が夏希くんの足を蹴った!


「あんた!渚の部屋に文句言ったら殴るよ?」


「もう蹴られたけど?」


「殴ると蹴るは似て非なるもの!さあ、早く宿題みせな!」


「美雪さん、それ恐喝…..」


夏希くんは渋々と持ってきた宿題をテーブルの上に置いた。

ーーそんな美雪と夏希くんの様子を見て私は何だか置いて行かれた気がして…..悲しかった。


「私、飲み物持ってくるね!麦茶でいい?」


そう言って私はこの場から逃げ出した。

この気持ちは一体なんだろう?

好きや嫌いとは違う、不思議な気持ち…..



「お待たせ〜」


私が飲み物を持ってくると美雪が興奮した様子で言ってきた。


「夏希!マジ凄いじゃん!」


「はぁ…..」


「あっ!渚、聞いて!夏希のやつ夏休み始まってから1週間で宿題終わらせたんだって!」


「そ、そうなんだ!凄いね!」


夏休みが始まって1週間という事は夏希くんは病室で宿題をやっていた事になる。

私もお母さんに夏休みの宿題をやる様に言われたが「退院したらやる〜」と言って今に至る。


「逆に君達は今まで何をしてたの?」


「私は家でゴロゴロかな〜?」


「私は旅行に…..」


夏希くんが私の顔を見てくる。

その瞳には、「君も入院していたなら宿題やる時間あったでしょ?」と言っている様に感じた。

ごもっともです…..


「まぁ、写せば間に合うから早くやろう」


「お!さすが夏希、わかってる〜!」


早速、私達は宿題を写す事にした。



宿題を写す事数時間…..

1日で終わるはずもなく気がつけば夕方になっていた。


「もうこんな時間!」


「う〜ん!今日はここまでだね」


美雪は思いっきり伸びをする。

私もそれにつられて伸びをした。


「結局半分しか終わらなかったね〜」


「これだけ頑張って半分か〜夏希、宿題かして?」


小説を読んでいた夏希くんが顔上げる。


「嫌だよ?君達にかすと返ってこなそうだし」


「だよね〜言ってみただけ」


「あれ?君達、という事は私も入ってる!?」


「ドンマイ!渚!」


「美雪は何で他人事!?」


そんなやりとりをしていたら18時を告げる鐘の音が鳴る。


「また今度だね」


「夏希くん、また来てくれるの?」


「うん」


「へぇ〜夏希の事だからめんどくさいからこないとか言うと思った」


内心では私も美雪と同じ事を思っていた。


「夏休みの宿題が終わらなかったら休み明けの放課後に居残りでやらされるんだよ?そうなったら吹奏楽できないからね」



「あ〜去年やらされてる人いたわ〜」


「え!?それは嫌だ!」


そんな形で今日は解散となった。


ーー残りの寿命、1秒たりとも無駄にしたくない!



その一心で私は次の勉強会までに頑張って夏休みの宿題を終わらせる事ができた。

そして夏休み後半、私の家で集まる事となった。


「じゃ〜ん!」


私は終わった宿題を美雪と夏希くんに見せつける。


「なっ!?渚…..あんた、この裏切り者〜!」


「私が本気を出せばこんなものよ!」


美雪が頭をわしわしと乱暴に撫でてくる。


「少し見せてもらっていい?」


「いいけど、答え見ながらやったから間違ってないよ?」


「そこは気にしない」


その言葉は少し意外だった。

夏希くんはもっとお堅く答えを見た事を否定されるかと思った。

彼は私のプリントや問題集をじっくりと眺め何かを考えていた。


「何かあるの?」


「いや、筆跡を見てたんだ」


「私の字、汚かった……?」


「綺麗とは言えないけど先生の目は誤魔化せるかも」


私と美雪は顔を見合わせて何の事かと考える。

ていうかさり気なく悪口を言われている気が……


「よし、今から美雪さんの宿題を3人でやろう」


「え!?マジ!いいの!?」


確かにそうすれば夏休みを数日残して宿題が終わるかもしれない。

そして残りの休みを遊びに使う……

なんて素晴らしい作戦だ!


「私も賛成!宿題が終わったら3人で遊びに行こうよ!」


「え?嫌だけど?」


その回答が不満だったのか美雪は夏希くんの足を蹴る。


「せっかく渚が提案してくれてるんだからつべこべ言わずに来る!いい?」


「暴力はよくない……」


「あははは!」


そんな感じで美雪の宿題を3人で手伝った。




そして夏休みも残り2日となった昼過ぎ……


「終わった〜!」


「お疲れ様」


「渚!ありがとう!まぁ、夏希もありがとう……」


美雪の夏休みの宿題を終わらせる事ができた。

美雪は少し照れながらも夏希くんにちゃんとお礼を言う。

2人が出会った時は喧嘩……というよりも美雪は夏希くんを嫌っていたが今では普通にお友達に見える。


「それじゃあ美雪の宿題も終わった事だし早速明日遊びに行こうよ!」


「嫌だけど?」


バシッと美雪が夏希くんの足を蹴る。

なんだかんだでこのやりとりにも慣れた。


「わかった、わかったから蹴らないで」


「わかればよろしい!」


「でも今から行けるところなんて限られているよ?」


「そうだな〜……市民プールなんてどう?」


「ふぇ!?」


プールはまずい!!!

心臓に負担のかかる運動禁止なのだ、プールや海はいけない!

私は夏希くんに視線をおくる。

それに気付いた彼が美雪の提案を却下してくれる。


「プールは人が多すぎる」


「う〜ん、確かにそうか〜……じゃあ!オール1」


オール1とはボウリングやカラオケ、ダーツといった様々な遊びに特化した施設が集まった若者に大人気の場所だ。


「それなら私も賛成!」


オール1なら心臓に負担をかけないゲームもある為問題ないだろう。


「まぁ、それならいいかな」


私が賛成した為か夏希くんも承諾してくれる。


「じゃあ決定!!!善は急げ!今から行こう」



こうして私達は篠崎駅から地下鉄を使い本八幡駅で降り徒歩でオール1に向かった。


「着いた〜!」


私の家を出て約1時間で目的地に到着。

流石は人気スポットなだけありかなりの客が来ていて混み合っている。


「凄いお客さん、ボーリングとか2時間待ちだって!」


「流石オール1……ボーリングは無理か」


私にとってボーリングはグレーゾーンなので正直助かった。

しかし、となるとすぐにできそうなのはダーツかビリヤードぐらいしかない。

3人でやるにはかなり微妙なラインナップといえるだろう。

美雪もそれがわかっているのか悩んでいるようだ。


「う〜ん、どうしようか?」


「僕は普通にゲーセンエリアで遊ぶのでもいいけど?」


「へぇー!夏希、あんたその口ぶりだとゲーセンによく来るんだ?」


「まぁね」


「ふ〜ん、じゃあ私と勝負する?」


「なんでそうなるの?普通に拒否するけど?」


「あんた逃げるんだ?」


「うん、敵前逃亡も立派な戦略だよ」


そんな夏希くんの足を蹴る美雪

この光景、今日で2回目だ。


「そこは普通、勝負に乗るところでしょ!?」


「暴力はよくない……」


「夏希が勝負に乗るまで蹴り続けるから」


「わかった、やるから、やるから脛蹴らないで……」


「2人とも頑張って!」


こうして美雪と夏希くんの戦いが始まる!



まぁ、結論からすると……


「な、なんで!?なんで勝てないの!?」


休憩スペースで悔しがる美雪がいた。

あれからシューティング、格闘ゲーム、レースゲームをやったが全て僅差で夏希くんが勝利した。


「美雪、ドンマイ!あともうちょっとで勝てそうだったじゃん」


悔しがる美雪の肩に手を置き励ます。


「渚はあまりゲームとかやらないからわからなかったかもしれないけど全然もう少しじゃなかったよ!むしろその逆で力の差を見せつけられた!」


「そうなの?」


「そう!!!シューティングで私と同じところでミスしてヘッドショットのスコアボーナスで勝っていたし、格ゲーだとわざとダメージをくらってたし、レースだと私の速度に合わせてブレーキ踏んでたでしょ!?」


問い詰める美雪に夏希くんは少し申し訳なさそうな顔をして謝る。


「ごめん……久々に違う人と対戦したからつい……それに美雪さんがあんなにも、へ…じゃなくて猪突猛進だと思わなかったから……」


今、ヘタと言おうとした?


「突っ込み過ぎるところは認めるけどさ〜!!!でもあの動きは相当プレイしてるでしょ!?」


「……黙秘させていただきます」


「くぅ〜!」


美雪は休憩スペースの机をバンバン叩き出す。

周りのお客さんが奇怪な者を見る目で見てきた為、私はそれを止める。


「ま、まぁ、つまり夏希くんは熟練者だったという事でしょ?勝てなくても仕方ないよ」


「次は負けないから!!!」


「いや、変に勝負意識もたれても困るよ」


う〜ん、この雰囲気はよくない。

どうにかしなくては……

そうだ!ゲーセンには皆んな仲良くできる《《アレ》》があるじゃないか!!!



という事で私達は《《アレ》》の前にやってきた。


「これは……」


「お?その反応はあんたやった時ないの?」


「……まぁね」


「じゃあ、この筐体の勝負は私の勝ちだね!」


「え…?これに勝ち負けあるの?」


夏希くんがそう言うのも無理はない。

私達の目の前にあるのは……


「早速やりましょう!!!プリクラ!!!」


プリントシール機ことプリクラ!

夏希くんがやった事ないのも仕方ないのかもしれない。

ゲーセンによっては男性禁止だったりするところもある為、男性にとっては敷居が高い。


「2人はプリクラでよく遊ぶの?」


夏希くんの質問に私と美雪はしばし考える。


「最後に撮ったのは……確か中学1年の時だっけ?」


「そう!そう!入学記念に撮ったよね!」


小さい頃は、もっとプリクラで遊んでいた気がするが大きくなるにつれて遊ばなくなっていくのだ。

だから去年の入学式に撮った写真は今でも大切に持っている。


「そうなんだ」


「だから、夏希の負けね」


「わかった、わかった、君の勝ち負けに対する情熱はわからないけど……」


「ほら!ほら!2人とも入ろう!」


私は美雪と夏希くんの背を押しプリクラの中に入った。



3人でプリクラの中に入る。

流石に3人で入るとかなり狭い。


「かなり狭いね……きっと楽器もケースに入っている時はこんな気持ちなんだろうなぁ……」


「なんか独特な感想!?」


どうやら私と夏希くんで世界観が違うらしい……

早速硬貨を入れ開始する。


「えっと…友達で開始、と」


「いっそ恋人にしちゃう?夏希が二股かけてる〜的な写真が取れるし」


「美雪さんは僕が恋人でもいいの?」


「……嫌に決まってるでしょ!?」


「痛い、痛い!誤爆したのはそっちなのに叩かないで……」


「まぁまぁ、友達で始めるからね」


私は慣れた手つきで画面を操作していく。

そして撮影モードに入る。


「ほら!ポーズとらなきゃ!」


「僕は……そういうのはいいよ」


まぁ、確かに夏希くんは写真でポーズをとるタイプではないだろう。

しかしこちらもその事は百も承知!!!

夏希くんの手を掴み上へ上げる。


「ちょっと!君……!」


1回目のシャッターがきられる。


「ははは!夏希、よそ見してやんの〜」


「君達こそなんでそんなにピンポイントに写れるの?」


「これが勝者の貫禄に決まってるでしょ?」


「……納得してしまいそうな自分が恐ろしいよ」


「ほら!2人とも次くるよ?」


それから何枚か写真を撮った。

次は落書きタイムだ!


「夏希の目を大きくして……」


「親からもらった容姿をいじるのはよくないよ」


「正論だけど写真だから……」


「写真でも抵抗あるよ」


「あんたは堅物だね〜ほら、あんたも何か描きなよ」


「う〜ん……それじゃあ」


こうして無事に?プリクラは終了した。

私達は印刷された写真を見る。


「いや〜!なかなか良い写真ができたんじゃない?」


完成した写真にはピースをする私と美雪、そして嫌そうに腕を上げる夏希くんが写っており周りにはハートやキラキラなどがある。

そして夏希くんが描いた絵は私の上にトランペット、美雪の上にフルート、夏希くんの上にユーフォニアムといった彼らしい絵が描かれていた。

私達はその写真を3人で分けた。



オール1から出る時には既に夕暮れ時になっており街並みがオレンジ色に染まっていた。


「いや〜楽しかったね!」


「うん!夏希くんは楽しかった?」


「まぁ……良い気分転換にはなったよ」


「素直じゃないやつ〜」


本八幡駅まで歩いて帰る。

蝉の声が合唱のように響いていた。

そんな中、美雪が提案する。


「そうそう!明日が夏休み最終日なわけだけどさ〜もちろん遊ぶよね?」


「私は大丈夫だよ」


「僕は用事があるから厳しいかな」


「あんた!私達の遊びと用事どっちが大切なわけ!?」


「え?用事だけど?」


美雪が夏希くんの足を蹴る。

いつも通りのやりとりだ。


「美雪、無理言ったらダメだよ?」


「わかってるって〜ただお決まりだからやっただけ〜」


「お決まりって……その都度、僕は足を蹴られるの……?」


そんなたわいもない会話をしながら本八幡駅に到着する。

それから新宿線に乗り篠崎駅に着く。

その間、夏希くんは何かを考えている様子だった。

そして彼から珍しくこんな事を言われた。


「明日さ、暇だったら遊びにくる?」


と誘われたのだ。



翌日の昼過ぎ、私達は篠崎駅に待ち合わせしていた。

昨日、夏希くんから遊びに誘われてついて行く事にしたのだ。

篠崎駅には私と美雪が先に到着していた。


「しかし驚いたよね〜まさか夏希に他の友達がいたなんてさ〜」


「美雪……それは失礼すぎるよ……」


彼からの誘いはこんな感じだった。


「明日、友達の家に遊びに行くのだけど2人もくる?」


と言ったものだった。

私と美雪は少し考えたのち夏希くんの友達という言葉にひかれ承諾した。

しかし彼の友達か〜、一体どんな人なんだろう?

更に1つ注意された事もあった。


「喉の調子を整えてくるようにとかカラオケとか行くのかな?」


「どうだろうね〜でも夏希がカラオケとか想像つかないし〜」


そんな思考を巡らせていると夏希くんが待ち合わせ場所にきた。


「お待たせ、じゃあ行こうか?場所は鹿骨だから少し歩くけど大丈夫?」


「うん!」


「変な場所に連れて言ったら殴るから〜」


「いつも蹴ってるでしょ……」


「あはは……」


とりあえず苦笑いしておく。


それから10分ほど歩き鹿骨のある家の前で止まった。

その家はどこにでもある2階建の一軒家だ。


「注意しておくけど今から会う人の言う事にいちいちツッコミ入れてたらもたないからスルーでお願いね」


「え……?私達どんな人にあわされるの……?」


「大丈夫、大丈夫、何かあったら殴るから〜」


ーーそうして彼はインターフォンを押す。

これが私達と《《あのハイチューバー》》との初めての出会いだった。




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